魔王になった親友が未払いの残業代を「愛」で払おうとしてくるんだが。~有能経理の俺、異世界ブラック魔王城をホワイトに叩き直す〜

たら昆布

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15話

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 魔王城の中庭。
 そこには、優雅なティーテーブルと、完全武装したサキュバス近衛兵たちが並び、異様な緊張感が漂っていた。
 リリスは扇子を突きつけ、俺――カナデに対して宣戦布告をした。

「よろしいかしら、眼鏡! 妃とは魔王様のすべてを理解している者のこと。今からわたくしと、どちらがレン様に相応しいか『レン様カルトクイズ』で勝負ですわ!」

「……。……レン、お前、いい加減にしろ」

 俺が隣でポリポリと「魔界ナッツ」を食べているレンを睨むと、彼は「え、俺も混ぜてよ! 俺のクイズなんだろ?」と、どこまでも他人事だった。

「レン、お前は解答者じゃなくて『正解』の対象だ。そこに座ってろ。……いいだろう、リリス様。お相手しましょう。ただし、俺が勝ったら今回の茶会にかかった設営費および人件費、全額そちらの負担で」

「望むところですわ! 第一問! レン様が一番好きな食べ物は!?」

 リリスが鼻息荒く叫ぶ。

「決まってますわ、わたくしが用意した金粉入りの……」

「コンビニの『から揚げ棒』。なければ、うちのガルムが焼いた二度揚げのポテト。さらに言えば、マヨネーズは必須。それも酸味が強いタイプだ」

 俺が即答すると、レンが「正解!! すげーなカナデ、マヨの好みまで完璧じゃん!」と親指を立てた。

「な、なんですって!? ……で、では第二問! レン様が寝る時に無意識にしてしまう癖は!?」

「右足で布団を蹴飛ばし、最終的には枕を足に挟んで丸くなる。……あ、それから、夢の中でたまに『カナデ、明日のノート見せて』と留年ギリギリの大学生みたいな寝言を言う」

「……っ正解! 俺、こっちに来てもそんなこと言ってたのか!? 恥ずかしいな!」

 レンが赤くなって頭を掻く。リリスの顔がどんどん引き攣っていく。

「……じゃ、じゃあ最終問題ですわよ! レン様が一番大切にしている『宝物』はなにかしら! 魔王家に伝わる聖遺物? それとも、最強の魔剣?」

 リリスが勝ち誇ったように笑った。
 そんなものは、この城の宝物庫のリストを管理している俺が一番知っている。聖遺物も魔剣も、レンは「手入れが面倒」と言って奥に放り込んでいる。

 俺は眼鏡を少し直し、淡々と答えた。

「……ないな」

「ほら見なさい! 知らないんじゃ……」

「レンにとって、物に執着する概念はない。……強いて言うなら、大学の卒業式に俺と二人で撮った、ピントがボケまくっている写真だ。こっちに来る時に持っていたスマホのデータは消えたが、あいつはその写真を現像して、今でもこっそり魔王の服の内ポケットに入れて持ち歩いている」

 ――静寂が中庭を支配した。
 リリスは呆然とし、近衛兵たちは「……尊い……」と呟いて武器を置いた。
 レンはといえば、耳まで真っ赤にして、懐をバシバシと押さえている。

「……なんで、それ知ってんだよ、カナデ……!」

「お前の洗濯物(マント)を管理しているのは俺だと言っただろ。……さて、リリス様。勝負はつきましたか?」

「……。……負けましたわ。完敗ですわ!! でも、わたくし諦めませんから! そんな、長年連れ添った夫婦みたいな空気、いつかぶち壊して差し上げますわーっ!!」

 リリスは号泣しながら、サキュバス軍団と共に去っていった。
 結局、今回のデスマッチは、ただの「カナデによるレンの観察日記」のお披露目会に終わった。

「……ふぅ。疲れた。……レン、行くぞ。午後の予算会議だ」

 俺が立ち上がろうとすると、レンがいきなり俺の手首を掴み、グイッと自分の方へ引き寄せた。

「……カナデ。お前、俺のこと……そんなに見ててくれたのか?」

 いつもの能天気な声ではない。
 低く、少しだけ震えた声。
 黄金の瞳が、至近距離で俺の視線を逃さないように捉える。

「……。……仕事だと言っただろ。管理の一環だ」

「嘘つけ。仕事なら、寝言の内容までメモする必要ねーだろ。……なぁ、カナデ」

 レンの大きな手が、俺の頬に触れそうになる。
 
「……俺の宝物、一個増えたわ」

「……なんだ。金塊か?」

「違う。……お前だよ」

 レンがニカッと笑った。
 その笑顔は、いつもの「親友」のそれだったが、言葉の内容は明らかにアウトだ。

「…………。……マイナス一兆ゴールド。即刻、市中引き回しの上、打ち首だ」

「一気に跳ね上がったな!? 打ち首って、俺、魔王なんだけど!?」

 俺は真っ赤になった顔を見られないよう、レンを突き飛ばして全力でその場を離れた。
 
 ――計算外だ。
 ただの親友同士の知識自慢だったはずなのに。
 なぜ俺の心臓は、この城の赤字額よりも大きな音を立てているのか。

「……バカ。……本当に、バカなんだから」

 俺は自室に駆け込み、扉を閉めた。
 
 二人で過ごした十年以上の歳月。
 そのすべてが、今は自分を追い詰める「恋の証拠」に変わっていく。
 俺は算盤を抱きしめ、自分の気持ちを黒字(友情)として処理する限界を感じ始めていた。
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