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18話
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魔界に、本格的な冬がやってきた。
窓の外では、雪の代わりに「氷の魔粉」がキラキラと舞い、城内の石壁はキンキンに冷え切っている。
「……くしゅっ。……計算機を叩く指が、かじかんで動かない……」
俺、カナデは、執務室で毛布を三枚被り、震える手で帳簿を付けていた。
【生活魔法:発熱】を使い続けてはいるが、元が人間である俺にとって、魔界の冬の冷気は骨身にしみる。
そこへ、湯気を上げながら「半袖短パン」という狂った格好のレンが入ってきた。
こいつは魔王としての魔力量が規格外なため、体温が常にサウナ並みに高いのだ。
「カナデ、お前、雪だるまみたいになってるぞ! そんなんじゃ仕事が進まねーだろ。ほら、魔界の特産『火炎酒』だ。これ飲めば心臓から燃えるぜ!」
「……死ぬだろ。……いいから、お前はそこから動くな。お前の周囲二メートルだけ、暖房が効いているみたいで助かる」
「えー、そんな遠いこと言うなよ。ほら、もっとこう……画期的な方法があるぜ」
レンがニカッと笑い、俺を毛布ごとヒョイと抱え上げた。
「おい、何をする! 降ろせ、マイナス三万ゴールドだ!」
「いいから黙って運ばれろ! 経理部長の体調管理も、魔王の重要な任務だろ!」
――数分後。
俺は、レンの広大なベッドの上に放り出されていた。
ここは城内で最も魔力が集まる場所で、石床の冷気が一切届かない特等席だ。
「……ここで寝ろ。俺が横で寝てやれば、お前、朝までホカホカだぜ」
「……。……添い寝か? 大学生の合宿か何かと勘違いしてないか、お前は」
「いいじゃん、前世でも冬に暖房壊れた時、こうして凌いだだろ? ほら、入れよ」
レンが掛け布団をバサリと持ち上げ、俺を招き入れる。
俺は一瞬躊躇したが、あまりの寒さに背に腹は変えられず、観念して布団の中に滑り込んだ。
――瞬間。
猛烈な「熱」が俺を包み込んだ。
レンの隣は、まるでお日様の匂いがする巨大な湯たんぽのようだった。
「……。……熱いぞ、レン。少し離れろ」
「えー、寒いって言ったのカナデじゃん。ほら、遠慮すんなよ」
レンが、布団の中で俺の腰に腕を回し、グイッと自分の方へ引き寄せた。
俺の背中に、レンの硬くて厚い胸板が密着する。
ドクン、ドクン。
自分のものではない、力強い心臓の音が背中越しに伝わってくる。
「……。……レン、近すぎる。心拍数が……計上ミスを起こす……」
「なんだよ、計上ミスって。……カナデ。お前、まだ震えてるぞ。もっとこっち来い」
レンが、俺の首筋に顔を埋めるようにして、ぎゅっと抱きしめてきた。
大きな手が俺の冷えた手を包み込み、ゆっくりと温めていく。
あまりの温かさと、レン特有の安心感に、俺の警戒心という名の壁がじわじわと溶けていく。
……こいつは、本当にただの「暖房」なのだ。
そう自分に言い聞かせないと、喉の奥が熱くなって、何か余計なことを口にしてしまいそうだった。
「……なぁ、カナデ。……俺さ」
レンの低い声が、俺の後頭部に響く。
「こうしてるとさ、お前をどこにも行かせたくなくなるわ。……ずっとこのまま、俺の城で、俺の隣で、数字だけ数えててくれよ」
「…………。……一週間分の食費、全額没収だ。バカ」
「ガハハ、厳しいなぁ。……でも、返事は?」
「…………。……善処する」
俺が小さく答えると、レンは満足そうに「ん、おやすみ」と呟き、すぐに規則正しい寝息を立て始めた。
外は極寒の魔界。
だが、この布団の中だけは、計算機では到底はじき出せないほどの、異常な高熱に満たされていた。
「……。……本当に、バカなんだから」
俺はレンの腕の中で、自分もまた、彼の温もりにしがみつくようにして目を閉じた。
明日の朝、この熱が冷めるまで。
経理部長としての顔は、どこか遠くの雪の中にでも置いておくことにした。
窓の外では、雪の代わりに「氷の魔粉」がキラキラと舞い、城内の石壁はキンキンに冷え切っている。
「……くしゅっ。……計算機を叩く指が、かじかんで動かない……」
俺、カナデは、執務室で毛布を三枚被り、震える手で帳簿を付けていた。
【生活魔法:発熱】を使い続けてはいるが、元が人間である俺にとって、魔界の冬の冷気は骨身にしみる。
そこへ、湯気を上げながら「半袖短パン」という狂った格好のレンが入ってきた。
こいつは魔王としての魔力量が規格外なため、体温が常にサウナ並みに高いのだ。
「カナデ、お前、雪だるまみたいになってるぞ! そんなんじゃ仕事が進まねーだろ。ほら、魔界の特産『火炎酒』だ。これ飲めば心臓から燃えるぜ!」
「……死ぬだろ。……いいから、お前はそこから動くな。お前の周囲二メートルだけ、暖房が効いているみたいで助かる」
「えー、そんな遠いこと言うなよ。ほら、もっとこう……画期的な方法があるぜ」
レンがニカッと笑い、俺を毛布ごとヒョイと抱え上げた。
「おい、何をする! 降ろせ、マイナス三万ゴールドだ!」
「いいから黙って運ばれろ! 経理部長の体調管理も、魔王の重要な任務だろ!」
――数分後。
俺は、レンの広大なベッドの上に放り出されていた。
ここは城内で最も魔力が集まる場所で、石床の冷気が一切届かない特等席だ。
「……ここで寝ろ。俺が横で寝てやれば、お前、朝までホカホカだぜ」
「……。……添い寝か? 大学生の合宿か何かと勘違いしてないか、お前は」
「いいじゃん、前世でも冬に暖房壊れた時、こうして凌いだだろ? ほら、入れよ」
レンが掛け布団をバサリと持ち上げ、俺を招き入れる。
俺は一瞬躊躇したが、あまりの寒さに背に腹は変えられず、観念して布団の中に滑り込んだ。
――瞬間。
猛烈な「熱」が俺を包み込んだ。
レンの隣は、まるでお日様の匂いがする巨大な湯たんぽのようだった。
「……。……熱いぞ、レン。少し離れろ」
「えー、寒いって言ったのカナデじゃん。ほら、遠慮すんなよ」
レンが、布団の中で俺の腰に腕を回し、グイッと自分の方へ引き寄せた。
俺の背中に、レンの硬くて厚い胸板が密着する。
ドクン、ドクン。
自分のものではない、力強い心臓の音が背中越しに伝わってくる。
「……。……レン、近すぎる。心拍数が……計上ミスを起こす……」
「なんだよ、計上ミスって。……カナデ。お前、まだ震えてるぞ。もっとこっち来い」
レンが、俺の首筋に顔を埋めるようにして、ぎゅっと抱きしめてきた。
大きな手が俺の冷えた手を包み込み、ゆっくりと温めていく。
あまりの温かさと、レン特有の安心感に、俺の警戒心という名の壁がじわじわと溶けていく。
……こいつは、本当にただの「暖房」なのだ。
そう自分に言い聞かせないと、喉の奥が熱くなって、何か余計なことを口にしてしまいそうだった。
「……なぁ、カナデ。……俺さ」
レンの低い声が、俺の後頭部に響く。
「こうしてるとさ、お前をどこにも行かせたくなくなるわ。……ずっとこのまま、俺の城で、俺の隣で、数字だけ数えててくれよ」
「…………。……一週間分の食費、全額没収だ。バカ」
「ガハハ、厳しいなぁ。……でも、返事は?」
「…………。……善処する」
俺が小さく答えると、レンは満足そうに「ん、おやすみ」と呟き、すぐに規則正しい寝息を立て始めた。
外は極寒の魔界。
だが、この布団の中だけは、計算機では到底はじき出せないほどの、異常な高熱に満たされていた。
「……。……本当に、バカなんだから」
俺はレンの腕の中で、自分もまた、彼の温もりにしがみつくようにして目を閉じた。
明日の朝、この熱が冷めるまで。
経理部長としての顔は、どこか遠くの雪の中にでも置いておくことにした。
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