魔王になった親友が未払いの残業代を「愛」で払おうとしてくるんだが。~有能経理の俺、異世界ブラック魔王城をホワイトに叩き直す〜

たら昆布

文字の大きさ
19 / 32

19話

しおりを挟む
 添い寝という名の「人間暖房」事件から数日。
 魔王城の地下倉庫を整理していた俺――カナデは、埃を被った禍々しい宝箱を見つけた。

「……レン。これ、お前の前任者の私物か?」

「ん? どれどれ……うわっ、なんか喋りそうな箱だな。開けてみようぜ!」

 レンが力任せに蓋をこじ開けると、中から飛び出してきたのは、紫色の煙を吐き出す一冊の「喋る魔導書」だった。

『――オォ、次代の魔王よ。よくぞこの封印を解いた。我が名は先代の執念……もとい、自動遺言システムである!』

「うわ、喋った! こいつ、前世のカーナビみたいな声してんな!」

 レンが面白がって指でつつくと、魔導書はページを激しくめくりながら、ギョロリと一つ目を開けて俺たちを凝視した。

『……ホホウ。既に「伴侶」を隣に置いているのか。仕事が早いな。では、契約に基づき、成婚の儀を執り行う!』

「……は? 伴侶? 誰のことだ」

 俺が冷たく問い返すと、魔導書は空中にホログラムのような魔法文字を映し出した。

『魔力波長の同調率……98%。体温共有履歴……あり。昨晩の密着度……計測不能! 確定だ! この眼鏡の男こそが魔王妃である! さあ、魔界全土に祝砲を上げ、サキュバス一族への借金を相殺する契約を完遂せよ!』

「……。……レン。お前、昨晩の添い寝のせいで、システムにまで『番(つがい)』だと認識されたぞ。マイナス百億ゴールドだ」

「なんで俺のせいなんだよ! システムが勝手に勘違いしてるだけだろ! おい、本! カナデは妃じゃなくて、俺の大事な……その、相棒だ!」

『「大事な」という言葉に強い感情の揺らぎを検知。承認。相棒という名の愛人であると再定義。成婚プロセスを継続する!』

「再定義するな! 悪化してるだろ!」

 俺は算盤を武器のように構えたが、魔導書は止まらない。
 城中にファンファーレのような音が鳴り響き、天井から真っ白な(魔界風の紫がかった)花吹雪が降り注ぎ始めた。

『第一段階:誓いの口づけ。さあ、魔王よ! その愛しき文官を抱き寄せ、魔力を流し込むのだ!』

「……レン。今すぐその本を燃やせ。さもなくば、俺がこの城の予算を全額、お前の嫌いな『セロリの栽培』に注ぎ込む」

「わ、わかった! 待てカナデ、本気で言ってる顔だろそれ!? おい、本! やめろって言ってるだろ! 嫌がってるだろ!」

 レンが魔導書を掴んで引きちぎろうとするが、魔導具はスルリと逃げ回り、俺たちの周囲をグルグルと回転し始めた。

『拒絶は愛の裏返し! 統計によれば、有能な文官ほど魔王の横暴を嫌いつつも、夜の抱擁には……』

「……。……【生活魔法:完全消去】」

 俺は極限まで圧縮した魔力を指先に込め、魔導書の中心部をパチンと弾いた。
 ピリッとした静電気のような衝撃が走り、魔導書は「アギャッ!?」と短い悲鳴を上げて、ただの古本に戻って床に落ちた。

「……ふぅ。……全く、ろくな遺産を残さないな、先代は」

「……。……。……なぁ、カナデ」

 レンが、床に落ちた本を見つめたまま、ポツリと呟いた。
 
「……今のシステムさ、『魔力波長の同調率』がどうとか言ってたよな」

「……。……それがどうした。ただの誤作動だろ」

「いや、俺、なんとなくわかるんだ。お前が隣にいると、俺の魔力がすごく安定する。……昨日だってさ、お前を抱いて寝た時、俺、魔王になってから一番ぐっすり眠れたんだぜ」

 レンが顔を上げ、少しだけ照れくさそうに笑う。
 黄金の瞳には、システムが指摘した「強い感情の揺らぎ」が、そのままの色で宿っていた。

「……。……。……お前が不眠症なだけだろ。バカ魔王」

 俺は顔を逸らし、落ちた本を拾い上げた。
 心臓が、システムエラーどころではない騒ぎを起こしている。
 
 魔力波長が、合う。
 そんなの、十数年も一緒にいれば当たり前だ。
 前世でも、こいつが何を考えているか、言葉にしなくてもわかった。
 
 でも、それが「愛」なんて名前に置き換えられるのを、俺の理性はまだ、必死に拒んでいる。

「……レン。……来月の予算、少しだけ増やしてやる」

「えっ、マジ!? なんで!? お祝いか!?」

「……お前が、少しだけ『魔王』らしく見えた、手間賃だ。……ほら、行くぞ。クロが会議室で待ってる」

「やったー! カナデ大好きだー!!」

 レンが後ろから俺の首に腕を回してくる。
 いつもの、暑苦しい「大好き」。
 
 だけど、先代の魔導書が残した「成婚」という言葉が、呪いのように、俺の胸の奥に黒字(消せない記録)として刻まれてしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *本編完結しました

【8話完結】僕の大切な人はBLゲームの主人公でした。〜モブは主人公の幸せのためなら、この恋も諦められます〜

キノア9g
BL
転生先は、まさかのBLゲームの世界。 モブであるリセルは、恋を自覚した瞬間、幼馴染・セスがこの世界の“主人公”だと気づいてしまう。 このまま一緒にいても、いつか彼は攻略対象に惹かれていく運命——それでも、今だけは傍にいたい。 「諦める覚悟をしたのに、どうしてこんなにも君が愛おしいんだろう」 恋の終わりを知っているモブと、想いを自覚していく主人公。 甘さと切なさが胸を締めつける、すれ違いから始まる運命の物語。 全8話。

ゆい
BL
涙が落ちる。 涙は彼に届くことはない。 彼を想うことは、これでやめよう。 何をどうしても、彼の気持ちは僕に向くことはない。 僕は、その場から音を立てずに立ち去った。 僕はアシェル=オルスト。 侯爵家の嫡男として生まれ、10歳の時にエドガー=ハルミトンと婚約した。 彼には、他に愛する人がいた。 世界観は、【夜空と暁と】と同じです。 アルサス達がでます。 【夜空と暁と】を知らなくても、これだけで読めます。 2025.4.28 ムーンライトノベルに投稿しました。

【完結】薄幸文官志望は嘘をつく

七咲陸
BL
サシャ=ジルヴァールは伯爵家の長男として産まれるが、紫の瞳のせいで両親に疎まれ、弟からも蔑まれる日々を送っていた。 忌々しい紫眼と言う両親に幼い頃からサシャに魔道具の眼鏡を強要する。認識阻害がかかったメガネをかけている間は、サシャの顔や瞳、髪色までまるで別人だった。 学園に入学しても、サシャはあらぬ噂をされてどこにも居場所がない毎日。そんな中でもサシャのことを好きだと言ってくれたクラークと言う茶色の瞳を持つ騎士学生に惹かれ、お付き合いをする事に。 しかし、クラークにキスをせがまれ恥ずかしくて逃げ出したサシャは、アーヴィン=イブリックという翠眼を持つ騎士学生にぶつかってしまい、メガネが外れてしまったーーー… 認識阻害魔道具メガネのせいで2人の騎士の間で別人を演じることになった文官学生の恋の話。 全17話 2/28 番外編を更新しました

αからΩになった俺が幸せを掴むまで

なの
BL
柴田海、本名大嶋海里、21歳、今はオメガ、職業……オメガの出張風俗店勤務。 10年前、父が亡くなって新しいお義父さんと義兄貴ができた。 義兄貴は俺に優しくて、俺は大好きだった。 アルファと言われていた俺だったがある日熱を出してしまった。 義兄貴に看病されるうちにヒートのような症状が… 義兄貴と一線を超えてしまって逃げ出した。そんな海里は生きていくためにオメガの出張風俗店で働くようになった。 そんな海里が本当の幸せを掴むまで…

推しのために自分磨きしていたら、いつの間にか婚約者!

木月月
BL
異世界転生したモブが、前世の推し(アプリゲームの攻略対象者)の幼馴染な側近候補に同担拒否されたので、ファンとして自分磨きしたら推しの婚約者にされる話。 この話は小説家になろうにも投稿しています。

一日だけの魔法

うりぼう
BL
一日だけの魔法をかけた。 彼が自分を好きになってくれる魔法。 禁忌とされている、たった一日しか持たない魔法。 彼は魔法にかかり、自分に夢中になってくれた。 俺の名を呼び、俺に微笑みかけ、俺だけを好きだと言ってくれる。 嬉しいはずなのに、これを望んでいたはずなのに…… ※いきなり始まりいきなり終わる ※エセファンタジー ※エセ魔法 ※二重人格もどき ※細かいツッコミはなしで

運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…

こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』  ある日、教室中に響いた声だ。  ……この言い方には語弊があった。  正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。  テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。  問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。 *当作品はカクヨム様でも掲載しております。

処理中です...