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24話
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穏やかな有給休暇から数日。
魔王城の諜報担当から、衝撃的な報告がもたらされた。
「報告します! 北の辺境に、この世界の理(ことわり)にない『異質な魔力』を持つ者が現れました! 自らを『知識を司る者』と名乗っているようです!」
俺――カナデの背筋に緊張が走った。
俺やレン以外にも、前世の知識を持つ転生者がいる可能性がある。もしそれが、軍事技術や経済を操る狡猾な人間だったら……。
「レン、これは緊急事態だ。もし相手が敵対勢力と組めば、この城の経済的優位性が揺らぐ。今すぐ迎撃準備を……」
「おー! 転生者か! 面白そうじゃん、俺が直接会ってスカウトしてきてやるよ!」
レンは相変わらずのノリで、俺を連れて(またしても抱え上げて)北の辺境へと跳んだ。
――そこで俺たちが目にしたのは。
巨大な岩の陰で、魔界の原生生物を相手に、延々と「説教」を垂れている一人の男だった。
「いいですか、スライム君。君の分裂による増殖は、生態系のキャパシティを無視している。もっと計画的に、こう、持続可能なスライム社会を……」
その声、その理屈っぽさ。
俺とレンは、顔を見合わせた。
「……おい、カナデ。あいつ、どこかで見たことないか?」
「……ああ。忘れるはずがない。前世で俺たちの会社にいた、あの……」
男がこちらに気づき、眼鏡の奥の目を光らせた。
「おや、そこにいるのは……部長殿と、万年平社員のレン君じゃありませんか! まさかこんな未開の地で、コンプライアンスの欠片もない格好をしているとは!」
現れたのは、前世で「社内一の口うるさ型」として有名だった、コンプライアンス担当の佐藤さんだった。
「……佐藤さん。あんた、なんでここに」
「気づいたら草原に落ちていましてね。まあ、それはいい。それよりレン君! その『魔王』とかいう露出度の高い衣装は何ですか! 公序良俗に反する! マイナス十点!」
「うわぁぁ! こっちに来てまで佐藤さんの説教かよ! 勘弁してくれよ!」
レンが頭を抱えて逃げ回る。
俺は深く、深すぎる溜息をついた。
新たな転生者は、世界を揺るがす賢者などではなく、この世界に「コンプライアンス」を持ち込もうとする、最も面倒なタイプの一般人だった。
――数時間後。
結局、俺たちは佐藤さんを城に連れ帰ることになった。
彼は城の廊下を歩くたびに、「手すりの高さが安全基準を満たしていない」「骸骨兵の労働時間が不明確だ」と、いちいち口を挟んでくる。
「……カナデ、なんとかしてくれよ! あいつ、俺が肉を食おうとしたら『栄養バランスの報告書を出せ』って言うんだぜ!」
レンが半泣きで俺の執務室に逃げ込んできた。
「自業自得だ。お前が面白がって連れてくるからだろ。……だが、そうだな」
俺は、レンの隣で肩を落としている相棒を、少しだけ憐れむような目で見た。
「佐藤さんが来たことで、改めてわかったことがある。……俺たち、本当に二人きりでこの世界を必死に生きてきたんだな、ってことだ」
「……? どういう意味だ?」
「佐藤さんみたいな『前世の常識』をそのまま持ち込む人間を見ていると、お前がいかにこの世界に馴染んで、俺を自由にさせてくれていたかがわかる。……不本意だが」
レンの隣にいると、俺は数字に厳しくありながらも、どこかで「魔王の相棒」としての自由を楽しんでいたのだ。
「へへ……なんだよ、急にデレるなよ、カナデ」
「デレてない。分析だ。……だが、佐藤さんは明日にでも、リリスのいる隣国へ『コンサルタント』として送り出す。あっちの城の空気を、徹底的にコンプラで冷やしてもらおう」
「うわ、カナデ、お前……悪魔だな!」
「経理部長を怒らせるとどうなるか、教えてやるだけだ。……。……それより、レン」
俺は、騒がしい廊下の向こうから聞こえる説教の声を無視して、レンの服の裾を少しだけ掴んだ。
「……お前は、佐藤さんの言うことなんて聞かなくていい。……お前は、そのままのバカな魔王でいろ。俺が全部、計算してやるから」
「カナデ……! お前、やっぱり俺の最高の嫁だわ!!」
「誰が嫁だ! マイナス八百万ゴールド!!」
新たな転生者の登場というハプニングは、結果として、二人の「阿吽の呼吸」を再認識させるだけのイベントに終わった。
騒がしくなる魔王城。
だけど、俺の隣に座るこの男の体温だけは、どんな理屈や常識よりも、今の俺には確かな「正解」として感じられた。
魔王城の諜報担当から、衝撃的な報告がもたらされた。
「報告します! 北の辺境に、この世界の理(ことわり)にない『異質な魔力』を持つ者が現れました! 自らを『知識を司る者』と名乗っているようです!」
俺――カナデの背筋に緊張が走った。
俺やレン以外にも、前世の知識を持つ転生者がいる可能性がある。もしそれが、軍事技術や経済を操る狡猾な人間だったら……。
「レン、これは緊急事態だ。もし相手が敵対勢力と組めば、この城の経済的優位性が揺らぐ。今すぐ迎撃準備を……」
「おー! 転生者か! 面白そうじゃん、俺が直接会ってスカウトしてきてやるよ!」
レンは相変わらずのノリで、俺を連れて(またしても抱え上げて)北の辺境へと跳んだ。
――そこで俺たちが目にしたのは。
巨大な岩の陰で、魔界の原生生物を相手に、延々と「説教」を垂れている一人の男だった。
「いいですか、スライム君。君の分裂による増殖は、生態系のキャパシティを無視している。もっと計画的に、こう、持続可能なスライム社会を……」
その声、その理屈っぽさ。
俺とレンは、顔を見合わせた。
「……おい、カナデ。あいつ、どこかで見たことないか?」
「……ああ。忘れるはずがない。前世で俺たちの会社にいた、あの……」
男がこちらに気づき、眼鏡の奥の目を光らせた。
「おや、そこにいるのは……部長殿と、万年平社員のレン君じゃありませんか! まさかこんな未開の地で、コンプライアンスの欠片もない格好をしているとは!」
現れたのは、前世で「社内一の口うるさ型」として有名だった、コンプライアンス担当の佐藤さんだった。
「……佐藤さん。あんた、なんでここに」
「気づいたら草原に落ちていましてね。まあ、それはいい。それよりレン君! その『魔王』とかいう露出度の高い衣装は何ですか! 公序良俗に反する! マイナス十点!」
「うわぁぁ! こっちに来てまで佐藤さんの説教かよ! 勘弁してくれよ!」
レンが頭を抱えて逃げ回る。
俺は深く、深すぎる溜息をついた。
新たな転生者は、世界を揺るがす賢者などではなく、この世界に「コンプライアンス」を持ち込もうとする、最も面倒なタイプの一般人だった。
――数時間後。
結局、俺たちは佐藤さんを城に連れ帰ることになった。
彼は城の廊下を歩くたびに、「手すりの高さが安全基準を満たしていない」「骸骨兵の労働時間が不明確だ」と、いちいち口を挟んでくる。
「……カナデ、なんとかしてくれよ! あいつ、俺が肉を食おうとしたら『栄養バランスの報告書を出せ』って言うんだぜ!」
レンが半泣きで俺の執務室に逃げ込んできた。
「自業自得だ。お前が面白がって連れてくるからだろ。……だが、そうだな」
俺は、レンの隣で肩を落としている相棒を、少しだけ憐れむような目で見た。
「佐藤さんが来たことで、改めてわかったことがある。……俺たち、本当に二人きりでこの世界を必死に生きてきたんだな、ってことだ」
「……? どういう意味だ?」
「佐藤さんみたいな『前世の常識』をそのまま持ち込む人間を見ていると、お前がいかにこの世界に馴染んで、俺を自由にさせてくれていたかがわかる。……不本意だが」
レンの隣にいると、俺は数字に厳しくありながらも、どこかで「魔王の相棒」としての自由を楽しんでいたのだ。
「へへ……なんだよ、急にデレるなよ、カナデ」
「デレてない。分析だ。……だが、佐藤さんは明日にでも、リリスのいる隣国へ『コンサルタント』として送り出す。あっちの城の空気を、徹底的にコンプラで冷やしてもらおう」
「うわ、カナデ、お前……悪魔だな!」
「経理部長を怒らせるとどうなるか、教えてやるだけだ。……。……それより、レン」
俺は、騒がしい廊下の向こうから聞こえる説教の声を無視して、レンの服の裾を少しだけ掴んだ。
「……お前は、佐藤さんの言うことなんて聞かなくていい。……お前は、そのままのバカな魔王でいろ。俺が全部、計算してやるから」
「カナデ……! お前、やっぱり俺の最高の嫁だわ!!」
「誰が嫁だ! マイナス八百万ゴールド!!」
新たな転生者の登場というハプニングは、結果として、二人の「阿吽の呼吸」を再認識させるだけのイベントに終わった。
騒がしくなる魔王城。
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