最強勇者パーティーの「普通」担当 〜平凡な村人の僕、伝説の英雄たちに離してもらえません!〜

たら昆布

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10話

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 ナギの村に、一年に一度の収穫祭が近づいていた。
 宿屋『どんぐり小道亭』も、お祭りの準備でてんやわんやだ。保存食の整理、客室の飾り付け、そしてお祭り用の特大アップルパイの仕込み。僕、テオは朝から晩まで休む暇もなく厨房と倉庫を往復していた。

 そんな僕の背後を、今日も今日とて「発光する三人組」がゾロゾロとついて回る。

「テオ、その重そうな樽は私が持とう。……ああ、いけない。君の白いシャツに煤(すす)がついている。私が払ってあげよう」
 アレク様が騎士の礼節を尽くした動作で、僕の背中の汚れを(無駄に優しく)拭う。
「テオ。……ジャガイモの芽を摘む作業ですね。私の微細魔力操作で、分子レベルで毒素を除去しましょう。さあ、私に預けなさい」
 ヴィンス様が眼鏡をクイッと上げ、ボウルいっぱいのジャガイモに怪しい光を浴びせる。
「テオ! 次はなんだ? 床磨きか? 俺の尻尾をモップ代わりにしていいぞ! ほら、全力で振ってやるからな!」
 ガイル様がブンブンと赤い尻尾を振り回し、周囲の埃を逆に巻き上げている。

 ……もう、我慢の限界だった。
 僕は抱えていたカゴをドスンと床に置き、腰に手を当てて三人を振り返った。

「あの、みなさん。……ちょっと真面目にお聞きしたいことがあるんです」
「なんだい? 愛の告白かな。いつでも受け付ける準備はできているよ」
 アレク様がキラキラした笑顔で答える。

「違います。……あのですね、みなさんは魔王を倒した伝説の英雄様じゃないですか。王都に帰れば、お姫様とか、綺麗な貴族の令嬢とか、すごい魔法使いとか、いくらでも素敵な人が周りに寄ってくるはずですよね?」

 僕は一呼吸置いて、ずっと胸に溜まっていた疑問を口にした。

「なのに、どうしてこんな何の特徴もない、魔力も才能もゼロの、ただの村人の僕なんかに構うんですか? 掃除も洗濯も、僕より上手な人は都会にたくさんいますよ。……正直、みなさんの『都会の挨拶』にしては、距離が近すぎるというか、過保護すぎると言うか……」

 僕がそう言うと、三人は一瞬、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。
 そして、まずアレク様が、今までにないほど穏やかで、どこか切ないような微笑みを浮かべた。

「テオ……。君は、自分の価値を分かっていないんだね」
「価値って、だから村人としての労働力くらいしか……」
「違うんだ。……俺たちは、ずっと戦場にいた。魔王の殺気、仲間の怒号、血の匂い……。強くなればなるほど、世界はトゲトゲとした鋭い色に変わっていく。……でも、君は違う」

 アレク様が僕の頬をそっと撫でた。その手は、いつもの「疲れたフリ」をしている時とは違い、温かく安定していた。

「君は、ただのテオだ。魔王が死んだことも、俺たちが英雄なことも、君にとっては『今日のパンが美味しく焼けるか』よりも重要なことじゃないだろう? その、あまりにも平和で、柔らかい、何の色もついていない君の『日常』が……俺たちにとっては、どんなエリクサーよりも心を癒やすんだ」

「左様です」
 ヴィンス様が静かに頷く。
「私の魔導回路は常に情報の嵐に晒されています。ですが、君のそばにいる時だけは、計算が止まる。……君の放つ『究極の普通』は、数学的な美しさを超えた、宇宙の静寂そのものなのです」

「俺はよく分かんねーけど!」
 ガイル様が僕の頭をガシガシと撫で回す。
「テオは、テオだからいいんだ! お前の匂いを嗅いでると、『あー、今日も生きててよかったなー』って思うんだよ。お前がただそこで笑って、飯食って、掃除してるのを見てるだけで、俺の腹の底のイライラが消えるんだ!」

 三人の言葉は、あまりにも真っ直ぐで。
 ……そして、やっぱりどこか「重い」というか、ズレている気がした。

「……つまり、僕が『何もできない、ただの村人』だから、落ち着くってことですか?」
「平たく言えば、そういうことになるね」
 アレク様が満足げに頷く。

 僕は深いため息をついた。
「……結局、僕が『モブ』だから好き勝手構いやすいってことじゃないですか。もう、いいです。とりあえず、アレク様は飾り付けの脚立を押さえててください。ヴィンス様はジャガイモを茹でる。ガイル様は……ああっ、尻尾で埃を舞い上げないで!」

 感動的な雰囲気は一瞬で霧散し、厨房にはいつも通りの僕の怒鳴り声が響いた。
 英雄たちの「構いたい理由」は分かったけれど、それが僕の「忙しい日常」を免除してくれるわけではなさそうだった。
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