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11話
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収穫祭の当日。
ナギの村は、朝から笛や太鼓の音で賑わっていた。
広場には屋台が並び、村人たちは一番いい服を着て、一年の収穫を祝って踊る。
「テオ! 久しぶりだな!」
屋台で串焼きを買おうとしていた僕に、一人の青年が親しげに声をかけてきた。
「あ、サク! 久しぶり。隣の町での修行はどう?」
サクは僕の幼馴染で、今は隣町の鍛冶屋で働いている。僕と同じくらいの背丈で、日焼けした肌に人懐っこい笑顔が特徴の、いわゆる「平凡な村人B」的な友人だ。
「まあまあかな。それよりお前、噂になってるぞ。なんでも、本物の勇者様たちを宿屋で飼い慣らしてるって……」
「飼い慣らしてないよ! ただの宿泊客だってば」
僕たちが笑い合っていると、突然、背後の空気がマイナス五十度くらいまで下がった。
振り向かなくても分かる。例の三人組だ。
「……テオ。その男は、誰だい?」
アレク様が、氷のような笑みを浮かべて現れた。金色の髪が逆光で輝き、背後にはなぜか黒いオーラが見える気がする。
「あ、アレク様。こちらは幼馴染のサクです」
「サク……。ふむ、聞いたことがない名前だ。テオ、君の『大切な時間』を、このような出所不明の男に費やす必要はないと思うのだが」
出所不明って。この村の出身だって言ってるじゃないですか。
さらにヴィンス様が、眼鏡の奥の瞳を検体を見るような冷たさで光らせた。
「……生体エネルギーの波形が極めて平凡ですね。テオの貴重な時間を奪うだけの価値がある個体とは思えません。……排除(デリート)しましょうか?」
「物騒なこと言わないでください!」
サクは「ひぇっ……」と顔をこわばらせて後ずさる。
そこへガイル様が割って入り、サクを思い切り威嚇した。
「おい、お前! テオに馴れ馴れしく触るな! テオの匂いは、俺たち三人のものなんだぞ!」
「触ってないよ! 肩を叩いただけだろ!」
英雄たちが寄ってたかって一人の村人(サク)を威圧する光景に、周囲の村人たちも遠巻きにヒソヒソと話し始める。
僕は恥ずかしさのあまり、サクの手を引いてその場を離れようとした。
「ごめんサク、また後で! ……みなさんも、いい加減にしてください! お祭りを楽しめないじゃないですか!」
「テオがそう言うなら……。だが、あのような不逞な輩がまた君に近づかないよう、監視を強化する必要があるね」
アレク様が爽やかに、しかし決定的に恐ろしいことを言った。
その後、お祭りのメインイベントである『マト当て大会』が始まった。
木の弓で的に矢を当てる、村の素朴な遊びだ。サクが挑戦して、見事に真ん中に当てて喝采を浴びていた。
「テオ、見たか! 俺も腕を上げたろ!」
「すごいじゃん、サク!」
僕が拍手をした、その瞬間だった。
「……。ヴィンス、ガイル。見せてやろう。真の『マト当て』というものを」
アレク様が静かに立ち上がった。
「そうですね。……原子レベルで中心を射抜かなければ、テオの称賛を得る資格はない」
「俺は、的ごと後ろの山まで飛ばしてやる!」
「やめて! それ、ただの遊びだから!!」
僕の制止も虚しく、アレク様は聖剣(を、弓の代わりに使おうとしたので止めた)から放たれた衝撃波で、的を木っ端微塵にした。ヴィンス様は魔法で全ての的を自動追尾して一瞬で消滅させ、ガイル様は素手で石を投げ、的が立っていた櫓(やぐら)ごと破壊した。
広場は静まり返った。
村長が震えながら「……ゆ、勇者様の優勝じゃ……」と告げた。
「どうだい、テオ。君の友人とやらより、俺たちの方がずっとすごいだろう?」
アレク様が、誇らしげに胸を張る。
「……みなさん。……サクに謝ってください。あと、櫓の修理代、出してくださいね」
僕は、泣きそうになっているサクに特大の串焼きを奢ってあげることにした。
英雄たちの嫉妬は、平和な村の祭りを一瞬で「戦場」に変えてしまうのだった。
ナギの村は、朝から笛や太鼓の音で賑わっていた。
広場には屋台が並び、村人たちは一番いい服を着て、一年の収穫を祝って踊る。
「テオ! 久しぶりだな!」
屋台で串焼きを買おうとしていた僕に、一人の青年が親しげに声をかけてきた。
「あ、サク! 久しぶり。隣の町での修行はどう?」
サクは僕の幼馴染で、今は隣町の鍛冶屋で働いている。僕と同じくらいの背丈で、日焼けした肌に人懐っこい笑顔が特徴の、いわゆる「平凡な村人B」的な友人だ。
「まあまあかな。それよりお前、噂になってるぞ。なんでも、本物の勇者様たちを宿屋で飼い慣らしてるって……」
「飼い慣らしてないよ! ただの宿泊客だってば」
僕たちが笑い合っていると、突然、背後の空気がマイナス五十度くらいまで下がった。
振り向かなくても分かる。例の三人組だ。
「……テオ。その男は、誰だい?」
アレク様が、氷のような笑みを浮かべて現れた。金色の髪が逆光で輝き、背後にはなぜか黒いオーラが見える気がする。
「あ、アレク様。こちらは幼馴染のサクです」
「サク……。ふむ、聞いたことがない名前だ。テオ、君の『大切な時間』を、このような出所不明の男に費やす必要はないと思うのだが」
出所不明って。この村の出身だって言ってるじゃないですか。
さらにヴィンス様が、眼鏡の奥の瞳を検体を見るような冷たさで光らせた。
「……生体エネルギーの波形が極めて平凡ですね。テオの貴重な時間を奪うだけの価値がある個体とは思えません。……排除(デリート)しましょうか?」
「物騒なこと言わないでください!」
サクは「ひぇっ……」と顔をこわばらせて後ずさる。
そこへガイル様が割って入り、サクを思い切り威嚇した。
「おい、お前! テオに馴れ馴れしく触るな! テオの匂いは、俺たち三人のものなんだぞ!」
「触ってないよ! 肩を叩いただけだろ!」
英雄たちが寄ってたかって一人の村人(サク)を威圧する光景に、周囲の村人たちも遠巻きにヒソヒソと話し始める。
僕は恥ずかしさのあまり、サクの手を引いてその場を離れようとした。
「ごめんサク、また後で! ……みなさんも、いい加減にしてください! お祭りを楽しめないじゃないですか!」
「テオがそう言うなら……。だが、あのような不逞な輩がまた君に近づかないよう、監視を強化する必要があるね」
アレク様が爽やかに、しかし決定的に恐ろしいことを言った。
その後、お祭りのメインイベントである『マト当て大会』が始まった。
木の弓で的に矢を当てる、村の素朴な遊びだ。サクが挑戦して、見事に真ん中に当てて喝采を浴びていた。
「テオ、見たか! 俺も腕を上げたろ!」
「すごいじゃん、サク!」
僕が拍手をした、その瞬間だった。
「……。ヴィンス、ガイル。見せてやろう。真の『マト当て』というものを」
アレク様が静かに立ち上がった。
「そうですね。……原子レベルで中心を射抜かなければ、テオの称賛を得る資格はない」
「俺は、的ごと後ろの山まで飛ばしてやる!」
「やめて! それ、ただの遊びだから!!」
僕の制止も虚しく、アレク様は聖剣(を、弓の代わりに使おうとしたので止めた)から放たれた衝撃波で、的を木っ端微塵にした。ヴィンス様は魔法で全ての的を自動追尾して一瞬で消滅させ、ガイル様は素手で石を投げ、的が立っていた櫓(やぐら)ごと破壊した。
広場は静まり返った。
村長が震えながら「……ゆ、勇者様の優勝じゃ……」と告げた。
「どうだい、テオ。君の友人とやらより、俺たちの方がずっとすごいだろう?」
アレク様が、誇らしげに胸を張る。
「……みなさん。……サクに謝ってください。あと、櫓の修理代、出してくださいね」
僕は、泣きそうになっているサクに特大の串焼きを奢ってあげることにした。
英雄たちの嫉妬は、平和な村の祭りを一瞬で「戦場」に変えてしまうのだった。
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