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12話
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お祭りの翌日。
無理やり参加させられた英雄たちの暴走を止めるのに走り回ったせいか、僕はひどい疲れに襲われていた。
朝、なんとか起きて厨房に立ったものの、包丁を持つ手がふらつく。
「テオ、顔色が悪い。……昨日の無理が祟ったんだね。すまない、俺たちが君を楽しませようとしすぎたせいだ」
アレク様が、本気で申し訳なさそうに僕の額に手を当てる。……いや、楽しませようとしたというか、暴れてただけですよね、みなさん。
「大丈夫ですよ……。ただ、ちょっと眠いだけで……。あ、お代わりのスープ持ってきますね」
「無理は禁物です。テオ、私の部屋へ来なさい。君の疲労物質を、魔術的に中和する必要があります」
ヴィンス様に強引に腕を引かれ、僕は彼の個室……という名の、本と魔道具で埋め尽くされた「要塞」へ連れ込まれた。
ヴィンス様は僕を特製のフカフカしたソファに座らせると、何やら複雑な印を空中に描き始めた。
「ヴィンス様、あの……そんな大掛かりな魔法じゃなくて、一時間くらい昼寝すれば治りますから」
「いいえ。……君には『真の休息』が必要です。……古代魔法『ディープ・サンクチュアリ(深淵なる安息)』を、君専用に調整しました。副作用はありませんが、一つだけ欠点があります」
「欠点?」
「……気持ちよすぎて、なかなか起きられなくなることです」
ヴィンス様が指先をパチンと鳴らした。
その瞬間、僕の視界がふんわりとした黄金色の光に包まれた。
森のせせらぎ、陽だまりの匂い、そして最高級の羽毛布団に包まれているような、形容しがたい幸福感が全身を駆け巡る。
「……あ……これ、やばい……」
意識が、溶ける。
僕はそのまま、ソファに沈み込むようにして深い、深い眠りに落ちた。
……。
…………。
ふと、目が覚めた。
視界に入ってきたのは、見慣れない天井……ではなく、ヴィンス様の部屋の豪華な天蓋だ。
そして、なぜか体が重い。
右側を見ると、アレク様が僕の手を両手で包み込むようにして、床に座ったまま眠っている。
左側を見ると、ガイル様が巨大な狼の姿(!)に変化して、僕を押しつぶさないように、しかし完全に囲い込むように丸まって寝ている。彼の赤い毛並みは湯たんぽのように温かい。
そして足元には、ヴィンス様が眼鏡を外して、僕の足首あたりに頭を預けて静かに寝息を立てていた。
「……え、なに、この状況」
僕は慌てて体を起こそうとしたが、三人の「重み」と、ヴィンス様の魔法の余韻で、体に力が入らない。
「あ……テオ。起きたのかい?」
アレク様がいち早く気づき、とろとろとした瞳で僕を見上げた。
「アレク様。……今、何時ですか?」
「……お祭りの翌日の……夕方だよ。……君、丸一日寝ていたんだ」
「丸一日!? お店は!? ガンツさんは!?」
「安心してください。……店主には、アレクが『テオは神の啓示を受けている』と言って誤魔化しました」
ヴィンス様がむくりと起き上がり、眼鏡をかけ直す。どんな誤魔化し方だ。
「テオ! お前、寝顔もすっげーいい匂いだったぞ! 俺、ずっと守ってたんだからな!」
ガイル様が人間の姿に戻り、僕に抱きついてくる。
どうやら、僕が眠っている間、三人は誰が僕の隣にいるかで盛大に揉めた挙句、「全員で囲んで寝る」という強硬手段に出たらしい。
「……みなさん、仕事してください。僕、もう元気ですから!」
「ダメだ、テオ。まだ魔法の効果が残っている。……さあ、夕飯も俺たちが運んでくるから、君はここで、俺たちの愛に包まれていればいい」
「愛とかいいから、一階に降ろしてください!」
ヴィンス様の「安眠魔法」は、確かに疲れを完璧に取ってくれた。
けれど、目が覚めた後の状況が、精神的に一番疲れることに、僕はまだ気づいていなかったのである。
「都会の人は……休息の概念も過激なんだなあ……」
僕は、またしても三人に押し倒されるようにして、フカフカのソファに逆戻りさせられるのだった。
無理やり参加させられた英雄たちの暴走を止めるのに走り回ったせいか、僕はひどい疲れに襲われていた。
朝、なんとか起きて厨房に立ったものの、包丁を持つ手がふらつく。
「テオ、顔色が悪い。……昨日の無理が祟ったんだね。すまない、俺たちが君を楽しませようとしすぎたせいだ」
アレク様が、本気で申し訳なさそうに僕の額に手を当てる。……いや、楽しませようとしたというか、暴れてただけですよね、みなさん。
「大丈夫ですよ……。ただ、ちょっと眠いだけで……。あ、お代わりのスープ持ってきますね」
「無理は禁物です。テオ、私の部屋へ来なさい。君の疲労物質を、魔術的に中和する必要があります」
ヴィンス様に強引に腕を引かれ、僕は彼の個室……という名の、本と魔道具で埋め尽くされた「要塞」へ連れ込まれた。
ヴィンス様は僕を特製のフカフカしたソファに座らせると、何やら複雑な印を空中に描き始めた。
「ヴィンス様、あの……そんな大掛かりな魔法じゃなくて、一時間くらい昼寝すれば治りますから」
「いいえ。……君には『真の休息』が必要です。……古代魔法『ディープ・サンクチュアリ(深淵なる安息)』を、君専用に調整しました。副作用はありませんが、一つだけ欠点があります」
「欠点?」
「……気持ちよすぎて、なかなか起きられなくなることです」
ヴィンス様が指先をパチンと鳴らした。
その瞬間、僕の視界がふんわりとした黄金色の光に包まれた。
森のせせらぎ、陽だまりの匂い、そして最高級の羽毛布団に包まれているような、形容しがたい幸福感が全身を駆け巡る。
「……あ……これ、やばい……」
意識が、溶ける。
僕はそのまま、ソファに沈み込むようにして深い、深い眠りに落ちた。
……。
…………。
ふと、目が覚めた。
視界に入ってきたのは、見慣れない天井……ではなく、ヴィンス様の部屋の豪華な天蓋だ。
そして、なぜか体が重い。
右側を見ると、アレク様が僕の手を両手で包み込むようにして、床に座ったまま眠っている。
左側を見ると、ガイル様が巨大な狼の姿(!)に変化して、僕を押しつぶさないように、しかし完全に囲い込むように丸まって寝ている。彼の赤い毛並みは湯たんぽのように温かい。
そして足元には、ヴィンス様が眼鏡を外して、僕の足首あたりに頭を預けて静かに寝息を立てていた。
「……え、なに、この状況」
僕は慌てて体を起こそうとしたが、三人の「重み」と、ヴィンス様の魔法の余韻で、体に力が入らない。
「あ……テオ。起きたのかい?」
アレク様がいち早く気づき、とろとろとした瞳で僕を見上げた。
「アレク様。……今、何時ですか?」
「……お祭りの翌日の……夕方だよ。……君、丸一日寝ていたんだ」
「丸一日!? お店は!? ガンツさんは!?」
「安心してください。……店主には、アレクが『テオは神の啓示を受けている』と言って誤魔化しました」
ヴィンス様がむくりと起き上がり、眼鏡をかけ直す。どんな誤魔化し方だ。
「テオ! お前、寝顔もすっげーいい匂いだったぞ! 俺、ずっと守ってたんだからな!」
ガイル様が人間の姿に戻り、僕に抱きついてくる。
どうやら、僕が眠っている間、三人は誰が僕の隣にいるかで盛大に揉めた挙句、「全員で囲んで寝る」という強硬手段に出たらしい。
「……みなさん、仕事してください。僕、もう元気ですから!」
「ダメだ、テオ。まだ魔法の効果が残っている。……さあ、夕飯も俺たちが運んでくるから、君はここで、俺たちの愛に包まれていればいい」
「愛とかいいから、一階に降ろしてください!」
ヴィンス様の「安眠魔法」は、確かに疲れを完璧に取ってくれた。
けれど、目が覚めた後の状況が、精神的に一番疲れることに、僕はまだ気づいていなかったのである。
「都会の人は……休息の概念も過激なんだなあ……」
僕は、またしても三人に押し倒されるようにして、フカフカのソファに逆戻りさせられるのだった。
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