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13話
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ある日の昼下がり。宿屋『どんぐり小道亭』に、一人の旅の商人が現れた。
名前はザビーネ。王都で手広く商売をしているらしく、その荷馬車には見たこともないような高級食材が詰め込まれていた。
「これはこれは、勇者様御一行! こんな辺境にいらっしゃるとは。魔王討伐の御礼に、王都でも手に入らない『黄金トリュフ』と『幻の霜降り白鹿肉』を差し上げましょう!」
ザビーネが誇らしげに差し出したのは、銀の皿に乗った見るからに高そうな食材だった。宿の主人ガンツさんも「うひょー、こんなの初めて見たぜ!」と目を剥いている。
けれど、それを一瞥したアレク様は、眉一つ動かさずに冷淡な声を放った。
「……悪いが、今はそんな刺激の強いものは求めていないんだ。テオ、いつものアレを頼めるかい?」
「いつもの、って……。ただの『塩むすび』と『漬物』ですよ?」
「それがいいんだ。それが世界で一番の贅沢なんだ」
僕は呆れながらも、炊き立ての米を素手で(少し熱いなと思いながら)握り、庭で採れたカブの浅漬けと一緒に皿に盛った。
すると、ヴィンス様が銀縁眼鏡を外して、愛おしそうにその真っ白な米の塊を見つめた。
「……完璧です。不純物が一切ない、テオの純粋な生命力がこもった炭水化物の結晶……。ザビーネと言いましたか? そのトリュフとやらは、テオの握り飯に比べれば、ただの黒い泥の塊も同然です。持ち帰りなさい」
「ええっ!? これ、金貨十枚はするんですよ!?」
ザビーネが絶叫するが、ガイル様がさらに追い打ちをかける。
「俺もそんな脂っこい肉いらねー! テオが握った飯は、噛むとキュッキュッって音がして、心がポカポカするんだ。お前、これ食ったら腰抜かすぞ!」
「ガイル様、大袈裟ですって。ただのお米ですよ」
三人は並んで、僕が握った不恰好な塩むすびを、まるで儀式でも受けるような神妙な面持ちで食べ始めた。
アレク様は一口食べるごとに「……ああ、この適度な塩分。俺の荒んだ魂が浄化されていく……」と恍惚の表情を浮かべ、ヴィンス様は「米粒の密度が、私の精神波に完璧に同調している……」と呟き、ガイル様は「うめえ! これなら千個は食える!」と鼻を鳴らしている。
その光景を見ていたザビーネは、すっかり自信を失ってしまったようだった。
「……伝説の勇者様たちが、ただの塩むすびにこれほどまでの……。もしや、あの給仕の少年は、伝説の聖料理人の末裔か何かなのか……?」
「いえ、ただの村人です。あと、聖料理人なんて聞いたこともありません」
僕は、床に膝をついて落ち込むザビーネに、余ったおにぎりを一つ分けてあげた。
都会の人は、贅沢をしすぎて舌が疲れているのかもしれない。僕は、美味しそうにおにぎりを頬張る英雄たちを見て、あらためて「この人たち、安上がりで済んでよかったな」と、場違いな安心感を抱くのだった。
名前はザビーネ。王都で手広く商売をしているらしく、その荷馬車には見たこともないような高級食材が詰め込まれていた。
「これはこれは、勇者様御一行! こんな辺境にいらっしゃるとは。魔王討伐の御礼に、王都でも手に入らない『黄金トリュフ』と『幻の霜降り白鹿肉』を差し上げましょう!」
ザビーネが誇らしげに差し出したのは、銀の皿に乗った見るからに高そうな食材だった。宿の主人ガンツさんも「うひょー、こんなの初めて見たぜ!」と目を剥いている。
けれど、それを一瞥したアレク様は、眉一つ動かさずに冷淡な声を放った。
「……悪いが、今はそんな刺激の強いものは求めていないんだ。テオ、いつものアレを頼めるかい?」
「いつもの、って……。ただの『塩むすび』と『漬物』ですよ?」
「それがいいんだ。それが世界で一番の贅沢なんだ」
僕は呆れながらも、炊き立ての米を素手で(少し熱いなと思いながら)握り、庭で採れたカブの浅漬けと一緒に皿に盛った。
すると、ヴィンス様が銀縁眼鏡を外して、愛おしそうにその真っ白な米の塊を見つめた。
「……完璧です。不純物が一切ない、テオの純粋な生命力がこもった炭水化物の結晶……。ザビーネと言いましたか? そのトリュフとやらは、テオの握り飯に比べれば、ただの黒い泥の塊も同然です。持ち帰りなさい」
「ええっ!? これ、金貨十枚はするんですよ!?」
ザビーネが絶叫するが、ガイル様がさらに追い打ちをかける。
「俺もそんな脂っこい肉いらねー! テオが握った飯は、噛むとキュッキュッって音がして、心がポカポカするんだ。お前、これ食ったら腰抜かすぞ!」
「ガイル様、大袈裟ですって。ただのお米ですよ」
三人は並んで、僕が握った不恰好な塩むすびを、まるで儀式でも受けるような神妙な面持ちで食べ始めた。
アレク様は一口食べるごとに「……ああ、この適度な塩分。俺の荒んだ魂が浄化されていく……」と恍惚の表情を浮かべ、ヴィンス様は「米粒の密度が、私の精神波に完璧に同調している……」と呟き、ガイル様は「うめえ! これなら千個は食える!」と鼻を鳴らしている。
その光景を見ていたザビーネは、すっかり自信を失ってしまったようだった。
「……伝説の勇者様たちが、ただの塩むすびにこれほどまでの……。もしや、あの給仕の少年は、伝説の聖料理人の末裔か何かなのか……?」
「いえ、ただの村人です。あと、聖料理人なんて聞いたこともありません」
僕は、床に膝をついて落ち込むザビーネに、余ったおにぎりを一つ分けてあげた。
都会の人は、贅沢をしすぎて舌が疲れているのかもしれない。僕は、美味しそうにおにぎりを頬張る英雄たちを見て、あらためて「この人たち、安上がりで済んでよかったな」と、場違いな安心感を抱くのだった。
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