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15話
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英雄たちが村に居着いて、もうすぐ一ヶ月。
僕は毎日、彼らから過剰なまでの世話を焼かれ、守られ、甘やかされている。
何の見返りも期待していないと言われても、さすがに村人の矜持として、何かお礼をしたいと考えるようになった。
「……とはいえ、僕にできることなんて限られてるしなあ」
僕は村の老婆、ヨネさんから教えてもらった『編み細工』をすることにした。
この村に伝わる古い風習で、麻の紐を編み込んで作る『幸運のお守り』だ。特別な力はないけれど、無病息災を願って身近な人に贈る、素朴なブレスレットである。
仕事の合間や、夜寝る前の時間を使って、僕は三人のイメージに合わせた色で紐を編んだ。
アレク様には金色の糸を混ぜた白、ヴィンス様には落ち着いた紺、ガイル様には鮮やかな赤。
そして、ついに三つが完成した。
「あの、みなさん。……いつもお世話になってるので、これ、お礼です」
夕食の後、僕は少し照れ臭い気持ちを抑えながら、三人にその麻のブレスレットを差し出した。
「僕が手作りしただけの、ただのお守りです。……変な魔法とかはかかってませんけど、よかったら」
三人は、僕の手のひらに乗った安っぽい紐の細工を、まるで伝説の聖遺物でも見るような目で見つめ、絶句した。
「……テオ。……これは、君が俺のために、編んでくれたのか?」
アレク様の手が、わずかに震えている。
「……構成を確認しました。……魔力は一切付与されていない。……だが、なぜでしょう。……これほどまでに眩しく、高密度の『情愛』を感じる物質は、王宮の宝物庫にも存在しません」
ヴィンス様は眼鏡を外し、涙ぐんでいるようにも見える。
「テオ!! これ、俺にくれるのか!? 一生外さない! 風呂の時も、戦う時も、死ぬ時もずっと一緒だ!!」
ガイル様は僕を抱きしめて、ぶんぶんと尻尾を振り回した。
「わわっ、喜んでもらえてよかったですけど……。そんなに価値があるものじゃないですよ?」
「価値だと!? テオ、君は分かっていない!」
アレク様が、そのブレスレットを恭しく自分の手首に巻いた。
「俺は、魔王の首を獲った褒美に貰った『真実の指輪』を捨ててでも、これを守り抜くと誓おう。……ああ、神よ、感謝します。テオの手編み……テオの手編み……」
翌日から、宿屋には異様な光景が広がった。
眩い黄金の鎧を着た勇者が、ボロボロの麻の紐を誇らしげに見せびらかし、冷徹な魔導師が、読書中もずっと自分の手首の紐を愛おしそうに撫で、獣人戦士が「俺の宝物だぞ!」と村中の子供たちに自慢して回っているのだ。
「……テオ、あの方々、大丈夫かい? なんだか、あの紐一本で世界を支配できそうな顔してるけど」
ガンツさんの言葉に、僕は力なく笑うしかなかった。
「……都会の人は、物の価値観も独特なんだなあ」
ただの紐を「世界の至宝」として扱う三人の熱狂に、僕はあらためて、彼らの「重すぎる愛」をひしひしと感じるのだった。
僕は毎日、彼らから過剰なまでの世話を焼かれ、守られ、甘やかされている。
何の見返りも期待していないと言われても、さすがに村人の矜持として、何かお礼をしたいと考えるようになった。
「……とはいえ、僕にできることなんて限られてるしなあ」
僕は村の老婆、ヨネさんから教えてもらった『編み細工』をすることにした。
この村に伝わる古い風習で、麻の紐を編み込んで作る『幸運のお守り』だ。特別な力はないけれど、無病息災を願って身近な人に贈る、素朴なブレスレットである。
仕事の合間や、夜寝る前の時間を使って、僕は三人のイメージに合わせた色で紐を編んだ。
アレク様には金色の糸を混ぜた白、ヴィンス様には落ち着いた紺、ガイル様には鮮やかな赤。
そして、ついに三つが完成した。
「あの、みなさん。……いつもお世話になってるので、これ、お礼です」
夕食の後、僕は少し照れ臭い気持ちを抑えながら、三人にその麻のブレスレットを差し出した。
「僕が手作りしただけの、ただのお守りです。……変な魔法とかはかかってませんけど、よかったら」
三人は、僕の手のひらに乗った安っぽい紐の細工を、まるで伝説の聖遺物でも見るような目で見つめ、絶句した。
「……テオ。……これは、君が俺のために、編んでくれたのか?」
アレク様の手が、わずかに震えている。
「……構成を確認しました。……魔力は一切付与されていない。……だが、なぜでしょう。……これほどまでに眩しく、高密度の『情愛』を感じる物質は、王宮の宝物庫にも存在しません」
ヴィンス様は眼鏡を外し、涙ぐんでいるようにも見える。
「テオ!! これ、俺にくれるのか!? 一生外さない! 風呂の時も、戦う時も、死ぬ時もずっと一緒だ!!」
ガイル様は僕を抱きしめて、ぶんぶんと尻尾を振り回した。
「わわっ、喜んでもらえてよかったですけど……。そんなに価値があるものじゃないですよ?」
「価値だと!? テオ、君は分かっていない!」
アレク様が、そのブレスレットを恭しく自分の手首に巻いた。
「俺は、魔王の首を獲った褒美に貰った『真実の指輪』を捨ててでも、これを守り抜くと誓おう。……ああ、神よ、感謝します。テオの手編み……テオの手編み……」
翌日から、宿屋には異様な光景が広がった。
眩い黄金の鎧を着た勇者が、ボロボロの麻の紐を誇らしげに見せびらかし、冷徹な魔導師が、読書中もずっと自分の手首の紐を愛おしそうに撫で、獣人戦士が「俺の宝物だぞ!」と村中の子供たちに自慢して回っているのだ。
「……テオ、あの方々、大丈夫かい? なんだか、あの紐一本で世界を支配できそうな顔してるけど」
ガンツさんの言葉に、僕は力なく笑うしかなかった。
「……都会の人は、物の価値観も独特なんだなあ」
ただの紐を「世界の至宝」として扱う三人の熱狂に、僕はあらためて、彼らの「重すぎる愛」をひしひしと感じるのだった。
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