無能と捨てられた聖子は隣国の狂犬皇帝に初夜を奪われ執着される~魔力が昂ぶるたびに陛下に抱かれないと壊れてしまいそうです~

たら昆布

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1話

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「……これが、我が国からの『誠意』にございます。どうぞ、お好きなようにお使いください」

冷え切った石造りの謁見の間。
僕、ユキは、冷たい床に膝をついたまま、震える肩を抱きしめていた。

顔を上げることは許されない。
僕をここに連れてきた神殿長の声は、まるで使い古された道具を処分するかのような、ひどく無機質な響きだった。

「聖子だと聞いていたが。……ずいぶんと細いな。折れてしまいそうだ」

頭上から降ってきたのは、低く、地響きのように重厚な男の声。
その圧倒的な圧力に、僕の身体は本能的に強張った。

ヴォルフ・ザハト。
隣国、ザハト帝国の若き皇帝。
戦場では返り血を浴びて笑う「狂犬」と恐れられ、その魔力は一国を滅ぼすほどだと言われている。
魔力を持たない「無能」の僕が、そんな恐ろしい人の前に差し出された理由は、ただ一つ。

生贄だ。

「……ユキ、と申します。陛下」

喉の奥が引き攣り、消え入りそうな声で答える。
すると、軍靴の足音がゆっくりと近づいてきた。
黒いブーツが視界に入り、逃げ場のない絶望が胸を締め付ける。

ぐい、と顎を乱暴に持ち上げられた。

「っ……!」

無理やり視線を合わされた先には、氷のように冷徹な、けれど燃えるような意志を秘めた碧眼があった。
プラチナブロンドの髪が、シャンデリアの光を反射して鋭く輝いている。
ヴォルフ皇帝――その人だ。

「ふむ……。不全、と言っていたな。魔力が枯渇しているという話だが、どうしてこれほど甘く匂い立つ?」

「え……?」

ヴォルフの顔が、僕の首筋に近づく。
吸い込まれるような深い呼吸。
その熱い吐息が肌に触れた瞬間、僕の身体の中に眠っていたはずの「熱」が、ドクンと大きく跳ねた。

おかしい。
僕には魔力がないはずだ。
それなのに、この人に触れられている場所から、火傷しそうなほどの熱が全身に回っていく。

「……くっ、ああ……」

「ほう。指先一つ触れただけで、そんな声を出すのか」

ヴォルフの瞳が、獲物を見つけた獣のように細められた。

「神殿長。この小僧は私が貰い受ける。貴様らの国への進軍は、当面の間、見合わせてやろう」

「は、ははっ! ありがとうございます、陛下!」

神殿長は僕のことなど一度も見返さず、逃げるように去っていった。
残されたのは、広大な空間に僕と、この「狂犬」だけ。

ヴォルフは僕を抱きしめるでもなく、首筋を大きな手で掴んだまま、耳元で低く囁いた。

「おい、ユキ。お前は今日から、私の呪いを鎮めるための『器』だ。……拒否権などない。その身体で、私を満足させてみせろ」

「……器、ですか……?」

「そうだ。私の魔力は強すぎる。……だが、お前に触れると、不思議と苛立ちが収まる。お前の身体が、私の毒を吸い取ってくれるようだ」

彼の指が、僕の鎖骨をなぞる。
それだけで、頭の芯が痺れるような快感が走った。
神殿の地下で、ずっと「無能」と蔑まれ、誰にも触れられずに生きてきた僕にとって、この刺激はあまりにも毒が強すぎた。

「ひ……あ、ああ……っ」

「……いい声だ。まだ何もしていないというのに」

ヴォルフは僕を軽々と横抱きにすると、そのまま奥にある皇帝専用の寝所へと歩き出した。

「陛下、待って……。僕は、そんな、心の準備が……」

「準備だと? 無用だ。お前の身体が、これほど欲しがっている」

彼が僕の胸元に手を差し入れる。
素肌に触れる大きな掌。その圧倒的な雄としての質量に、僕は抗うことができない。
僕の中の魔力が、彼を求めて暴走を始めていた。

大きなベッドに投げ出され、視界が揺れる。
ヴォルフは上着を脱ぎ捨て、筋骨逞しい胸板を露わにした。
その身体から立ち昇る魔力の波動は、凶暴で、それでいてひどく孤独に見えた。

「ユキ。お前が『無能』であったことに感謝しろ。……でなければ、初夜で壊してしまうところだった」

「っ……そんな、乱暴な……」

「乱暴? ……いいや、これは『食事』だ。私の飢えを、お前で満たせ」

覆いかぶさってきた彼の重みに、僕は息を呑む。
ヴォルフの唇が、僕の唇を強引に塞いだ。
酸素を奪い、支配するような深い口づけ。

「ん……んんっ……!」

舌が絡み合い、互いの熱が混ざり合う。
その瞬間、僕の視界は真っ白に染まった。
身体の奥底から溢れ出す、今まで知らなかった甘美な衝動。

(ああ……僕は、この人のために生まれてきたのかもしれない)

そんな恐ろしい予感が、脳裏をよぎった。

狂犬皇帝に囚われた、最初の夜。
僕の平穏だった日々は、その激しい情熱によって、跡形もなく焼き尽くされていった――。
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