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6話
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嵐のような夜が明けた。
離宮の寝室は、昨夜の激しい情愛の名残で、甘く重苦しい空気が停滞している。
僕は、ヴォルフ陛下の太い腕に抱かれたまま、重い瞼を開けた。
「……んっ……」
身じろぎをすると、全身の節々が悲鳴を上げる。
特に、弟のセルディク様に触れられた場所――頬や首筋、腕には、まるで自分の領土を主張するように、ヴォルフ陛下の深い噛み痕や吸い痕が、紫色の痣となってびっしりと刻まれていた。
「……起きたか、愛い小僧(マイ・プレシャス)」
耳元で、低く掠れた声が響く。
ヴォルフ陛下はすでに目を覚ましていたようで、僕の背中を大きな掌でゆっくりとなぞっていた。
昨日の猛り狂った獣のような面影はなく、その瞳には、とろけるような熱い情愛が滲んでいる。
「陛下……。あの、痣が……鏡で見なくても、ひどいのが分かります……」
「フン……。あいつの指が触れた場所を、すべて私の色で塗り潰しただけだ。……痛むか?」
「……少し。でも、陛下にこうされていると、不思議と熱が引いていきます」
嘘ではない。
陛下に抱きしめられていると、身体の奥で暴れていた魔力が、彼の肌を通して吸い取られ、心地よい倦怠感に変わっていく。
僕は、この人の腕の中でしか、安らぎを得られない身体にされてしまったのだ。
ヴォルフ陛下は、僕の首筋に残る一番深い噛み痕に、愛おしそうに唇を寄せた。
「ユキ。……お前を、一生この部屋から出したくない。誰の目にも触れさせず、私だけが、お前のすべてを消費していたいのだ」
「……陛下……」
「だが、お前をずっと閉じ込めておくわけにもいかぬ。……今日から、お前の護衛を倍に増やす。そして、この『契約の指輪』をはめておけ」
陛下が取り出したのは、深紅の宝石が嵌められた細い銀の指輪だった。
それを僕の左手の薬指に差し込むと、指輪は一瞬だけ熱を帯び、吸い付くように僕の指に馴染んだ。
「これは……?」
「私の魔力を込めた特別な魔道具だ。……お前が危険に晒されたり、あるいは、私以外の男に情欲を抱かれたりすれば、即座に私に伝わる。そして……お前の身体を、私以外の男が触れられぬよう、拒絶の結界を張る」
それは、愛の誓いというよりも、完璧な「所有の証明」だった。
けれど、僕はそれを拒むどころか、自分を縛り付ける鎖が増えたことに、どこか安堵している自分に驚いていた。
僕は、この狂ったほどに深い愛に、もう依存しているのだ。
「……ありがとうございます、陛下。大切にします」
僕が指輪を胸に抱いて微笑むと、ヴォルフ陛下は満足げに僕を抱き寄せ、深く、深い口づけを落とした。
――その頃。
ユキを「無能」と切り捨てた故郷、エデン教国の王宮では、不穏な密談が行われていた。
「報告いたします。……ザハトの狂犬皇帝が、生贄として差し出したユキを、異常なほど寵愛しているとのこと」
報告を受けたのは、かつてユキを地下牢に閉じ込めていた第一王子、エドワードだった。
彼は不機嫌そうにワイングラスを揺らし、冷酷な光を瞳に宿した。
「……馬鹿な。あんな魔力不全の出来損ないが、あのヴォルフを鎮めているというのか? ……もしそれが本当なら、話が変わってくる」
「はっ。ユキを失ってから、我が国の聖なる結界は急速に弱まっております。神殿長も、あれほどの浄化能力は他にはないと……今更ながら頭を抱えております」
「……フン、使い道があるなら、取り戻すまでだ。……ザハトの狂犬に、一度貸し付けた『道具』を返せと要求しろ。……もし拒むなら、ユキの身体に仕掛けておいた『あの呪い』を起動させればいい」
エドワードは、歪な笑みを浮かべて窓の外を見つめた。
「ユキ。……お前は、死ぬまで我が国の家畜として、魔力を供給し続ける運命なのだ。……隣国の王座の横など、分不相応な夢は見させるな」
静かに、けれど確実に。
ユキとヴォルフの幸せを壊すための、どす黒い陰謀が動き出していた。
ユキの身体の中に眠る、彼自身も知らない「秘密」が、二人の運命を再び翻弄しようとしていた。
離宮の寝室は、昨夜の激しい情愛の名残で、甘く重苦しい空気が停滞している。
僕は、ヴォルフ陛下の太い腕に抱かれたまま、重い瞼を開けた。
「……んっ……」
身じろぎをすると、全身の節々が悲鳴を上げる。
特に、弟のセルディク様に触れられた場所――頬や首筋、腕には、まるで自分の領土を主張するように、ヴォルフ陛下の深い噛み痕や吸い痕が、紫色の痣となってびっしりと刻まれていた。
「……起きたか、愛い小僧(マイ・プレシャス)」
耳元で、低く掠れた声が響く。
ヴォルフ陛下はすでに目を覚ましていたようで、僕の背中を大きな掌でゆっくりとなぞっていた。
昨日の猛り狂った獣のような面影はなく、その瞳には、とろけるような熱い情愛が滲んでいる。
「陛下……。あの、痣が……鏡で見なくても、ひどいのが分かります……」
「フン……。あいつの指が触れた場所を、すべて私の色で塗り潰しただけだ。……痛むか?」
「……少し。でも、陛下にこうされていると、不思議と熱が引いていきます」
嘘ではない。
陛下に抱きしめられていると、身体の奥で暴れていた魔力が、彼の肌を通して吸い取られ、心地よい倦怠感に変わっていく。
僕は、この人の腕の中でしか、安らぎを得られない身体にされてしまったのだ。
ヴォルフ陛下は、僕の首筋に残る一番深い噛み痕に、愛おしそうに唇を寄せた。
「ユキ。……お前を、一生この部屋から出したくない。誰の目にも触れさせず、私だけが、お前のすべてを消費していたいのだ」
「……陛下……」
「だが、お前をずっと閉じ込めておくわけにもいかぬ。……今日から、お前の護衛を倍に増やす。そして、この『契約の指輪』をはめておけ」
陛下が取り出したのは、深紅の宝石が嵌められた細い銀の指輪だった。
それを僕の左手の薬指に差し込むと、指輪は一瞬だけ熱を帯び、吸い付くように僕の指に馴染んだ。
「これは……?」
「私の魔力を込めた特別な魔道具だ。……お前が危険に晒されたり、あるいは、私以外の男に情欲を抱かれたりすれば、即座に私に伝わる。そして……お前の身体を、私以外の男が触れられぬよう、拒絶の結界を張る」
それは、愛の誓いというよりも、完璧な「所有の証明」だった。
けれど、僕はそれを拒むどころか、自分を縛り付ける鎖が増えたことに、どこか安堵している自分に驚いていた。
僕は、この狂ったほどに深い愛に、もう依存しているのだ。
「……ありがとうございます、陛下。大切にします」
僕が指輪を胸に抱いて微笑むと、ヴォルフ陛下は満足げに僕を抱き寄せ、深く、深い口づけを落とした。
――その頃。
ユキを「無能」と切り捨てた故郷、エデン教国の王宮では、不穏な密談が行われていた。
「報告いたします。……ザハトの狂犬皇帝が、生贄として差し出したユキを、異常なほど寵愛しているとのこと」
報告を受けたのは、かつてユキを地下牢に閉じ込めていた第一王子、エドワードだった。
彼は不機嫌そうにワイングラスを揺らし、冷酷な光を瞳に宿した。
「……馬鹿な。あんな魔力不全の出来損ないが、あのヴォルフを鎮めているというのか? ……もしそれが本当なら、話が変わってくる」
「はっ。ユキを失ってから、我が国の聖なる結界は急速に弱まっております。神殿長も、あれほどの浄化能力は他にはないと……今更ながら頭を抱えております」
「……フン、使い道があるなら、取り戻すまでだ。……ザハトの狂犬に、一度貸し付けた『道具』を返せと要求しろ。……もし拒むなら、ユキの身体に仕掛けておいた『あの呪い』を起動させればいい」
エドワードは、歪な笑みを浮かべて窓の外を見つめた。
「ユキ。……お前は、死ぬまで我が国の家畜として、魔力を供給し続ける運命なのだ。……隣国の王座の横など、分不相応な夢は見させるな」
静かに、けれど確実に。
ユキとヴォルフの幸せを壊すための、どす黒い陰謀が動き出していた。
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