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7話
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その異変は、ヴォルフ陛下が執務室へ向かった直後に訪れた。
「……っ、はぁ……っ、く……」
離宮の寝室で一人、陛下から贈られた指輪を眺めていた僕は、突如として全身を襲った激痛にうずくまった。
それは、今まで経験したことのない、内側から肉を焼き切られるような、どす黒い熱だった。
指先が震え、視界が急激に暗くなる。
身体の奥底、陛下に注がれた清浄な魔力が、何か別の「汚泥」のようなものに食い荒らされていくのが分かった。
(熱い……。陛下、助けて……っ)
声にならない悲鳴を上げながら、僕は床を這った。
その時、僕の薬指に嵌められた『契約の指輪』が、警告を告げるように禍々しい深紅の光を放った。
「――ユキ!!」
扉が、蹴破られるような勢いで開く。
そこには、公務中のはずのヴォルフ陛下が、顔を蒼白にして立っていた。
指輪を通じて、僕の異変を即座に察知したのだろう。
「陛下……っ、あ、あ……」
「しっかりしろ! 何が起きた、何故こんなに冷え切っている!?」
陛下は僕を抱き上げ、その胸に強く押し込めた。
彼の身体は温かいはずなのに、今の僕には、その熱さえも刃のように突き刺さる。
僕の肌の上を、気味の悪い黒い紋様が、血管に沿って這い回り始めていた。
「……これは、エデン教国の……『吸魔の呪い』か……っ!」
ヴォルフ陛下が、憎しみに満ちた声を漏らした。
教国の王子たちが、万が一ユキが他国に渡った際、その魔力を遠隔で吸い尽くし、再起不能にするために仕掛けていた卑劣な呪印。
僕が幸せを感じ、魔力が活性化するほど、その呪いは僕の命を糧に成長する仕組みになっていたのだ。
「……っ、ぐあ、ぁぁぁ……っ!!」
「ユキ! 意識を保て! 私を見ろ、ユキ!」
痛みにのたうち回る僕の顔を、陛下が大きな手で包み込む。
その瞳には、今までに見たことのないような、深い絶望と焦燥が浮かんでいた。
狂犬と恐れられた皇帝が、たった一人の少年のために、子供のように怯えている。
「あ……あ、ヴォ、ルフ……様……。苦しい、です……助けて……」
「分かっている、今すぐ私が……! クソッ、この呪いは内側から食い込んでいる。外部からの魔力では弾けぬというのか……!」
陛下の強大な魔力が僕を包み込むが、黒い紋様はそれを嘲笑うように、さらに深く僕の肌を侵食していく。
僕の意識が、遠のいていく。
冷たい闇が、足元から這い上がってくるのを感じた。
その時だった。
「――ならば、私がお前の内側に直接、刻み込むしかないな」
ヴォルフ陛下の声から、迷いが消えた。
代わりに宿ったのは、この世のすべてを敵に回しても僕を離さないという、狂気にも似た決意。
「……ユキ。お前の身体を、私の色だけで塗り潰すと言ったはずだ。教国の汚らわしい呪いなど、私の執着で焼き尽くしてやる」
陛下は僕のシャツを乱暴に引き裂くと、激しくのたうつ僕の身体を、ベッドへと力任せに押し伏せた。
指輪が、限界を超えた魔力の共鳴でキィィィンと高い音を立てる。
「ひ……ぁ、ああ……っ!」
「泣け。叫べ。……そして、私の魔力だけを食らえ。お前を蝕むものすべて、私がこの手で奪い取ってやる」
荒々しい接吻が、僕の呼吸を奪う。
熱い。痛い。けれど、切ない。
ヴォルフ陛下は、僕の首筋に深く牙を立て、そこから自身の膨大な魔力を、濁流のように僕の体内へと流し込み始めた。
それは、浄化などという生易しいものではなかった。
呪いという毒を、さらに強力な「ヴォルフ」という猛毒で上書きしていくような、命がけの交わり。
「……んん、んんぅぅっ……!!」
僕の身体の中で、黒い呪印と、陛下の緋色の魔力が激突し、火花を散らす。
意識が混濁する中、僕は確かに感じていた。
ヴォルフ陛下が、僕の魂を、地獄の底から力ずくで引き戻そうとしているのを。
「……逃がさぬ。死なせぬ。……お前は、私のものだ……っ!」
汗に濡れた陛下の髪が、僕の頬に触れる。
彼は、僕を抱きながら、同時に呪いと戦っていた。
その必死な姿に、僕は涙が止まらなくなった。
不器用で、傲慢で、けれど、誰よりも深く僕を求めてくれるこの人を、僕はもう……拒むことなんてできない。
離宮のクリスタルが、血のような赤色に染まり、激しく明滅する。
夜が更けるまで、ヴォルフ陛下の怒号と、僕の狂おしい喘ぎ声が、閉ざされた檻の中に響き渡り続けていた。
「……っ、はぁ……っ、く……」
離宮の寝室で一人、陛下から贈られた指輪を眺めていた僕は、突如として全身を襲った激痛にうずくまった。
それは、今まで経験したことのない、内側から肉を焼き切られるような、どす黒い熱だった。
指先が震え、視界が急激に暗くなる。
身体の奥底、陛下に注がれた清浄な魔力が、何か別の「汚泥」のようなものに食い荒らされていくのが分かった。
(熱い……。陛下、助けて……っ)
声にならない悲鳴を上げながら、僕は床を這った。
その時、僕の薬指に嵌められた『契約の指輪』が、警告を告げるように禍々しい深紅の光を放った。
「――ユキ!!」
扉が、蹴破られるような勢いで開く。
そこには、公務中のはずのヴォルフ陛下が、顔を蒼白にして立っていた。
指輪を通じて、僕の異変を即座に察知したのだろう。
「陛下……っ、あ、あ……」
「しっかりしろ! 何が起きた、何故こんなに冷え切っている!?」
陛下は僕を抱き上げ、その胸に強く押し込めた。
彼の身体は温かいはずなのに、今の僕には、その熱さえも刃のように突き刺さる。
僕の肌の上を、気味の悪い黒い紋様が、血管に沿って這い回り始めていた。
「……これは、エデン教国の……『吸魔の呪い』か……っ!」
ヴォルフ陛下が、憎しみに満ちた声を漏らした。
教国の王子たちが、万が一ユキが他国に渡った際、その魔力を遠隔で吸い尽くし、再起不能にするために仕掛けていた卑劣な呪印。
僕が幸せを感じ、魔力が活性化するほど、その呪いは僕の命を糧に成長する仕組みになっていたのだ。
「……っ、ぐあ、ぁぁぁ……っ!!」
「ユキ! 意識を保て! 私を見ろ、ユキ!」
痛みにのたうち回る僕の顔を、陛下が大きな手で包み込む。
その瞳には、今までに見たことのないような、深い絶望と焦燥が浮かんでいた。
狂犬と恐れられた皇帝が、たった一人の少年のために、子供のように怯えている。
「あ……あ、ヴォ、ルフ……様……。苦しい、です……助けて……」
「分かっている、今すぐ私が……! クソッ、この呪いは内側から食い込んでいる。外部からの魔力では弾けぬというのか……!」
陛下の強大な魔力が僕を包み込むが、黒い紋様はそれを嘲笑うように、さらに深く僕の肌を侵食していく。
僕の意識が、遠のいていく。
冷たい闇が、足元から這い上がってくるのを感じた。
その時だった。
「――ならば、私がお前の内側に直接、刻み込むしかないな」
ヴォルフ陛下の声から、迷いが消えた。
代わりに宿ったのは、この世のすべてを敵に回しても僕を離さないという、狂気にも似た決意。
「……ユキ。お前の身体を、私の色だけで塗り潰すと言ったはずだ。教国の汚らわしい呪いなど、私の執着で焼き尽くしてやる」
陛下は僕のシャツを乱暴に引き裂くと、激しくのたうつ僕の身体を、ベッドへと力任せに押し伏せた。
指輪が、限界を超えた魔力の共鳴でキィィィンと高い音を立てる。
「ひ……ぁ、ああ……っ!」
「泣け。叫べ。……そして、私の魔力だけを食らえ。お前を蝕むものすべて、私がこの手で奪い取ってやる」
荒々しい接吻が、僕の呼吸を奪う。
熱い。痛い。けれど、切ない。
ヴォルフ陛下は、僕の首筋に深く牙を立て、そこから自身の膨大な魔力を、濁流のように僕の体内へと流し込み始めた。
それは、浄化などという生易しいものではなかった。
呪いという毒を、さらに強力な「ヴォルフ」という猛毒で上書きしていくような、命がけの交わり。
「……んん、んんぅぅっ……!!」
僕の身体の中で、黒い呪印と、陛下の緋色の魔力が激突し、火花を散らす。
意識が混濁する中、僕は確かに感じていた。
ヴォルフ陛下が、僕の魂を、地獄の底から力ずくで引き戻そうとしているのを。
「……逃がさぬ。死なせぬ。……お前は、私のものだ……っ!」
汗に濡れた陛下の髪が、僕の頬に触れる。
彼は、僕を抱きながら、同時に呪いと戦っていた。
その必死な姿に、僕は涙が止まらなくなった。
不器用で、傲慢で、けれど、誰よりも深く僕を求めてくれるこの人を、僕はもう……拒むことなんてできない。
離宮のクリスタルが、血のような赤色に染まり、激しく明滅する。
夜が更けるまで、ヴォルフ陛下の怒号と、僕の狂おしい喘ぎ声が、閉ざされた檻の中に響き渡り続けていた。
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