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5話
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「……エルヴィン。起きていろ、これは国家存亡に関わる重大な儀式だ」
まだ夜も明けきらぬ午前四時。耳元で響く、低くていい声。
普通なら「はわわ、魔王様に添い寝されてる!」と顔を赤らめるシチュエーションだが、今の僕にはそんな余裕は一ミリもなかった。
「……ゼノス様、お願いです。あと一時間……いや、三十分でいいから寝かせてください。あと、重いです。あんたの筋肉、岩石かなんかですか?」
僕は、自分をガッチリとホールドしているゼノス様の逞しい腕をペシペシと叩いた。
昨夜、僕を魔王城に連れ去ったこの男は、一晩中「供給だ、補給だ」と言って僕の唇を奪い、首筋を吸い、あろうことか僕の指先まで一本ずつ丁寧に舐めしゃぶってきたのだ。おかげで僕の魔力は空っぽどころか、彼の情熱にあてられて意識が朦朧としている。
しかし、ゼノス様は僕の拒絶を「照れ」だとポジティブに変換したらしい。
彼は不敵な笑みを浮かべ、はだけた僕の寝衣の隙間から、昨日つけたばかりのキスマークを指でなぞった。
「フッ、そんなに強がるな。お前の体は、俺の魔力を受けてこんなにピンク色に染まっているではないか。……ほら見ろ、ここは特に魔力が淀んでいるぞ。俺が直接、口で吸い出してやらねば」
「それ、ただの胸の突起です! 魔力の淀みとか、そんな医学的根拠のないこと言わないでください!」
僕は必死に抵抗したが、魔王の筋力には勝てるはずもない。
ゼノス様は僕をベッドに押し倒すと、宝石のように美しい紅い瞳をキラリと光らせた。
「エルヴィン。お前はまだ分かっていないようだな。俺の『魔力欠乏症』は深刻なんだ。お前の甘い、イチゴのような香りがする魔力を摂取しないと、俺は今日中に暴走してこの国を滅ぼしてしまうかもしれん」
「嘘だ! 昨日、側近のカインさんが『陛下は健康そのものです』って遠い目で言ってましたよ!」
「あいつは解雇だ。明日からあいつの給料は全部、お前のデザート代に回してやる」
(カインさーん! 逃げてー!!)
心の中で叫ぶ僕を無視して、ゼノス様の顔が近づいてくる。
あんなにかっこいいのに、言っていることがめちゃくちゃすぎる。これが世に言う「顔がいいだけの残念なスパダリ」というやつだろうか。
ゼノス様は僕の首筋に顔を埋めると、ハァハァと少し荒い息を吐きながら、執拗に匂いを嗅ぎ始めた。
「……ああ、美味そうだ。エルヴィン、お前、さっきから勝手に魔力を漏らしているぞ。誘っているのか?」
「誘ってません! それは単なる生理現象……っ、ん、あああぁっ!?」
突然、耳たぶを甘噛みされ、脳天まで突き抜けるような快感が走った。
供給体である僕の体は、魔力を吸い出される感覚に弱すぎる。
情けない声が出てしまい、僕は慌てて口を抑えたが、ゼノス様はそれを「もっとやれ」という合図だと勘違いしたようだ。
「……いい声だ。その声を聞くだけで、俺の魔力回路がオーバーヒートしそうだ。……よし、決めた。今日の公務はすべて中止だ。一日中ベッドの中で、お前をじっくりと『精査』してやる」
「待って! 一国の主がそんな理由で休まないで! 国民が泣きますよ!」
僕が必死に説得を試みていると、寝室の扉が遠慮がちに叩かれた。
「……陛下。隣国の使者がお見えですが……。あと、厨房からエルヴィン様用の『朝食のフルコース』が届いております。最高級のドラゴンの卵を使ったオムレツだそうですが」
その言葉を聞いた瞬間、僕の胃袋が「ギュルルル」と盛大に鳴り響いた。
……そういえば、昨日は緊張と「供給」のせいで、晩ごはんを食べていなかったのだ。
ゼノス様は僕の腹の音を聞くと、一瞬だけ動きを止めた。
「……ほう。エルヴィン、お前は俺の愛撫よりも、ドラゴンの卵の方が魅力的なのか?」
「当たり前じゃないですか! 愛じゃお腹は膨らみません! 魔王様、僕を離してください。僕はオムレツと結婚します!」
「何だと!? 俺というものがありながら、卵料理に浮気するとは……。……面白い。ならばそのオムレツ、俺が一口ずつ口移しで食べさせてやろう」
「それ、余計に時間がかかるやつですよね!? 普通に食べさせて!!」
結局、僕は全裸に近い格好のまま、ゼノス様に膝の上に乗せられ(固定され)、一口食べるごとに「美味いか? 俺とどっちが美味い?」という、偏差値の低そうな質問に答えさせられる羽目になった。
前の国では「不気味な魔力タンク」として、食事さえ満足に与えられなかった僕。
それが今や、世界最強の魔王に、オムレツを巡って嫉妬されるというカオスな状況に陥っている。
(……この人、本当にかっこいいんだけど……絶対、どこかおかしいよ……)
僕は、ゼノス様が差し出してきた「あーん」のフォークを複雑な心境で受け入れながら、これからの魔王城生活が、色んな意味で激しすぎるものになることを確信したのだった。
まだ夜も明けきらぬ午前四時。耳元で響く、低くていい声。
普通なら「はわわ、魔王様に添い寝されてる!」と顔を赤らめるシチュエーションだが、今の僕にはそんな余裕は一ミリもなかった。
「……ゼノス様、お願いです。あと一時間……いや、三十分でいいから寝かせてください。あと、重いです。あんたの筋肉、岩石かなんかですか?」
僕は、自分をガッチリとホールドしているゼノス様の逞しい腕をペシペシと叩いた。
昨夜、僕を魔王城に連れ去ったこの男は、一晩中「供給だ、補給だ」と言って僕の唇を奪い、首筋を吸い、あろうことか僕の指先まで一本ずつ丁寧に舐めしゃぶってきたのだ。おかげで僕の魔力は空っぽどころか、彼の情熱にあてられて意識が朦朧としている。
しかし、ゼノス様は僕の拒絶を「照れ」だとポジティブに変換したらしい。
彼は不敵な笑みを浮かべ、はだけた僕の寝衣の隙間から、昨日つけたばかりのキスマークを指でなぞった。
「フッ、そんなに強がるな。お前の体は、俺の魔力を受けてこんなにピンク色に染まっているではないか。……ほら見ろ、ここは特に魔力が淀んでいるぞ。俺が直接、口で吸い出してやらねば」
「それ、ただの胸の突起です! 魔力の淀みとか、そんな医学的根拠のないこと言わないでください!」
僕は必死に抵抗したが、魔王の筋力には勝てるはずもない。
ゼノス様は僕をベッドに押し倒すと、宝石のように美しい紅い瞳をキラリと光らせた。
「エルヴィン。お前はまだ分かっていないようだな。俺の『魔力欠乏症』は深刻なんだ。お前の甘い、イチゴのような香りがする魔力を摂取しないと、俺は今日中に暴走してこの国を滅ぼしてしまうかもしれん」
「嘘だ! 昨日、側近のカインさんが『陛下は健康そのものです』って遠い目で言ってましたよ!」
「あいつは解雇だ。明日からあいつの給料は全部、お前のデザート代に回してやる」
(カインさーん! 逃げてー!!)
心の中で叫ぶ僕を無視して、ゼノス様の顔が近づいてくる。
あんなにかっこいいのに、言っていることがめちゃくちゃすぎる。これが世に言う「顔がいいだけの残念なスパダリ」というやつだろうか。
ゼノス様は僕の首筋に顔を埋めると、ハァハァと少し荒い息を吐きながら、執拗に匂いを嗅ぎ始めた。
「……ああ、美味そうだ。エルヴィン、お前、さっきから勝手に魔力を漏らしているぞ。誘っているのか?」
「誘ってません! それは単なる生理現象……っ、ん、あああぁっ!?」
突然、耳たぶを甘噛みされ、脳天まで突き抜けるような快感が走った。
供給体である僕の体は、魔力を吸い出される感覚に弱すぎる。
情けない声が出てしまい、僕は慌てて口を抑えたが、ゼノス様はそれを「もっとやれ」という合図だと勘違いしたようだ。
「……いい声だ。その声を聞くだけで、俺の魔力回路がオーバーヒートしそうだ。……よし、決めた。今日の公務はすべて中止だ。一日中ベッドの中で、お前をじっくりと『精査』してやる」
「待って! 一国の主がそんな理由で休まないで! 国民が泣きますよ!」
僕が必死に説得を試みていると、寝室の扉が遠慮がちに叩かれた。
「……陛下。隣国の使者がお見えですが……。あと、厨房からエルヴィン様用の『朝食のフルコース』が届いております。最高級のドラゴンの卵を使ったオムレツだそうですが」
その言葉を聞いた瞬間、僕の胃袋が「ギュルルル」と盛大に鳴り響いた。
……そういえば、昨日は緊張と「供給」のせいで、晩ごはんを食べていなかったのだ。
ゼノス様は僕の腹の音を聞くと、一瞬だけ動きを止めた。
「……ほう。エルヴィン、お前は俺の愛撫よりも、ドラゴンの卵の方が魅力的なのか?」
「当たり前じゃないですか! 愛じゃお腹は膨らみません! 魔王様、僕を離してください。僕はオムレツと結婚します!」
「何だと!? 俺というものがありながら、卵料理に浮気するとは……。……面白い。ならばそのオムレツ、俺が一口ずつ口移しで食べさせてやろう」
「それ、余計に時間がかかるやつですよね!? 普通に食べさせて!!」
結局、僕は全裸に近い格好のまま、ゼノス様に膝の上に乗せられ(固定され)、一口食べるごとに「美味いか? 俺とどっちが美味い?」という、偏差値の低そうな質問に答えさせられる羽目になった。
前の国では「不気味な魔力タンク」として、食事さえ満足に与えられなかった僕。
それが今や、世界最強の魔王に、オムレツを巡って嫉妬されるというカオスな状況に陥っている。
(……この人、本当にかっこいいんだけど……絶対、どこかおかしいよ……)
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