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8話
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あの日、執務室から一日中「チリン……チリン……ッ!」という激しい鈴の音と、僕の「あ、待っ、もう無理……!」という悲鳴が漏れ聞こえていたことは、翌朝には城中の知るところとなっていた。
おかげで、僕が廊下を歩くだけで(もちろん服はカインさんに泣きついて用意してもらった普通の令息服だ)、すれ違う騎士やメイドたちが一斉にバッと道を開け、深々と頭を下げるようになったのだ。
「……おはようございます、エルヴィン様。本日も『供給』、お疲れ様でございます」
「あ、はい……お疲れ様です……。って、何がですか!?」
すれ違った騎士が、なぜか「よくぞあの暴君を鎮めてくれました」と言わんばかりの、戦友に向けるような熱い視線を送ってくる。
恥ずかしさで爆発しそうな僕が食堂へ辿り着くと、そこには既にゼノス様が、まるで勝利した将軍のようなふてぶてしい態度で座っていた。
「来たか、エルヴィン。昨日はよく頑張ったな。おかげで俺の魔力は、かつてないほどに満ち溢れている。……まあ、まだ少しばかり『おかわり』が必要な気がするが」
「おかわり禁止! 一生禁止! ……ゼノス様、あなたのせいで僕、城中の人から『魔王を鎮める生贄の聖女』みたいな目で見られてるんですけど!」
僕が食卓を叩いて抗議すると、ゼノス様は優雅に紅茶を啜り、フッと不敵な笑みを漏らした。
「不満か? 俺の伴侶……もとい、唯一の供給源として敬われるのは当然のこと。……カイン、例の噂はどうなっている」
控えていたカインさんが、いつものように眉間を押さえながら一歩前に出た。
「……はい。使用人たちの間では、『エルヴィン様こそが、陛下を操る影の支配者である』という説が有力です。中には、『エルヴィン様が鈴を鳴らせば、陛下は膝を突いて従う』という、尾ひれどころか羽の生えた噂まで広まっております」
「膝を突く、か。……昨夜の体勢を考えれば、あながち間違いではないな」
「ゼノス様!! 食事中に下品なことを言わないでください!」
僕は真っ赤になって、目の前のドラゴンの卵(リピート)を口に放り込んだ。
すると、ゼノス様がスッと立ち上がり、僕の背後に回り込んだ。
大きな、熱い手が僕の肩に置かれ、そのまま耳元に顔が近づけられる。
「……エルヴィン。俺を操る支配者という噂、気に入った。ならば、その期待に応えてやろう」
「へ? 何を――」
言うが早いか、ゼノス様は僕を椅子ごとひっくり返さんばかりの勢いで抱き寄せた。
食堂には、給仕のメイドや騎士たちが大勢いる。彼らが息を呑むのがわかった。
「皆、聞け! このエルヴィン・ラングリスは、俺の魂の片割れであり、俺が唯一、その身を委ねる存在だ! 今後、こいつの言葉は俺の言葉と思え! もしこいつに不敬を働く者がいれば、俺自ら魔力で塵にしてやる!」
「ちょっ、ゼノス様!? 公衆の面前で何を言ってるんですか!」
「どうした、エルヴィン。もっと俺に命令していいのだぞ? ……例えば、『今すぐ寝室へ行け』とな」
ゼノス様の紅い瞳が、独占欲でギラギラと輝いている。
周囲の騎士たちは「おぉ……陛下が完全に骨抜きだ……」「あのお方が、あんなに嬉しそうに命令を乞うなんて……」と、畏怖と感動(?)に打ち震えている。
「い、行かないですよ! 僕はまだ、このオムレツを食べてるんですから!」
「……そうか。ならば、俺がそのオムレツになってやろうか。お前に食べ尽くされるなら本望だ」
「意味がわかりません!!」
魔王のあまりにも重すぎる愛。
前の国では誰にも見向きもされなかった僕が、ここでは世界で一番価値のある「わがまま令息」として祭り上げられようとしている。
僕の胃痛は、カインさんの胃痛と共鳴するように、今日もしっかりと疼き続けていた。
おかげで、僕が廊下を歩くだけで(もちろん服はカインさんに泣きついて用意してもらった普通の令息服だ)、すれ違う騎士やメイドたちが一斉にバッと道を開け、深々と頭を下げるようになったのだ。
「……おはようございます、エルヴィン様。本日も『供給』、お疲れ様でございます」
「あ、はい……お疲れ様です……。って、何がですか!?」
すれ違った騎士が、なぜか「よくぞあの暴君を鎮めてくれました」と言わんばかりの、戦友に向けるような熱い視線を送ってくる。
恥ずかしさで爆発しそうな僕が食堂へ辿り着くと、そこには既にゼノス様が、まるで勝利した将軍のようなふてぶてしい態度で座っていた。
「来たか、エルヴィン。昨日はよく頑張ったな。おかげで俺の魔力は、かつてないほどに満ち溢れている。……まあ、まだ少しばかり『おかわり』が必要な気がするが」
「おかわり禁止! 一生禁止! ……ゼノス様、あなたのせいで僕、城中の人から『魔王を鎮める生贄の聖女』みたいな目で見られてるんですけど!」
僕が食卓を叩いて抗議すると、ゼノス様は優雅に紅茶を啜り、フッと不敵な笑みを漏らした。
「不満か? 俺の伴侶……もとい、唯一の供給源として敬われるのは当然のこと。……カイン、例の噂はどうなっている」
控えていたカインさんが、いつものように眉間を押さえながら一歩前に出た。
「……はい。使用人たちの間では、『エルヴィン様こそが、陛下を操る影の支配者である』という説が有力です。中には、『エルヴィン様が鈴を鳴らせば、陛下は膝を突いて従う』という、尾ひれどころか羽の生えた噂まで広まっております」
「膝を突く、か。……昨夜の体勢を考えれば、あながち間違いではないな」
「ゼノス様!! 食事中に下品なことを言わないでください!」
僕は真っ赤になって、目の前のドラゴンの卵(リピート)を口に放り込んだ。
すると、ゼノス様がスッと立ち上がり、僕の背後に回り込んだ。
大きな、熱い手が僕の肩に置かれ、そのまま耳元に顔が近づけられる。
「……エルヴィン。俺を操る支配者という噂、気に入った。ならば、その期待に応えてやろう」
「へ? 何を――」
言うが早いか、ゼノス様は僕を椅子ごとひっくり返さんばかりの勢いで抱き寄せた。
食堂には、給仕のメイドや騎士たちが大勢いる。彼らが息を呑むのがわかった。
「皆、聞け! このエルヴィン・ラングリスは、俺の魂の片割れであり、俺が唯一、その身を委ねる存在だ! 今後、こいつの言葉は俺の言葉と思え! もしこいつに不敬を働く者がいれば、俺自ら魔力で塵にしてやる!」
「ちょっ、ゼノス様!? 公衆の面前で何を言ってるんですか!」
「どうした、エルヴィン。もっと俺に命令していいのだぞ? ……例えば、『今すぐ寝室へ行け』とな」
ゼノス様の紅い瞳が、独占欲でギラギラと輝いている。
周囲の騎士たちは「おぉ……陛下が完全に骨抜きだ……」「あのお方が、あんなに嬉しそうに命令を乞うなんて……」と、畏怖と感動(?)に打ち震えている。
「い、行かないですよ! 僕はまだ、このオムレツを食べてるんですから!」
「……そうか。ならば、俺がそのオムレツになってやろうか。お前に食べ尽くされるなら本望だ」
「意味がわかりません!!」
魔王のあまりにも重すぎる愛。
前の国では誰にも見向きもされなかった僕が、ここでは世界で一番価値のある「わがまま令息」として祭り上げられようとしている。
僕の胃痛は、カインさんの胃痛と共鳴するように、今日もしっかりと疼き続けていた。
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