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25話
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母様の遺品であるペンダントを身につけてから、僕の体には明らかな変化が起きていた。
以前はゼノス様に魔力を吸い取られると、ひどい倦怠感に襲われていたのに、今はどれだけ彼に注いでも、内側から温かな光が無限に湧き上がってくるような感覚なのだ。
そして、その変化を誰よりも敏感に察知したのは、僕の「飼い主」であるゼノス様だった。
「……っ、エルヴィン。お前、一体何をした……?」
深夜の寝室。僕を抱きしめていたゼノス様が、突如として動きを止め、荒い吐息と共に僕の肩に顔を埋めた。
彼の全身が、微かに震えている。いつもなら余裕たっぷりに僕を弄ぶ彼の手が、今は僕の肌に触れるだけで、火傷でもしたかのようにビクリと跳ねるのだ。
「ゼノス様……? どうしたんですか? まだ供給、足りないんじゃ……」
「足りないどころではない……! お前の魔力が……このペンダントのせいか? それともお前の自覚のせいか……っ。毒のように甘く、暴力的なまでの純潔さが、俺の魔力回路を焼き切ろうとしている……!」
ゼノス様の紅い瞳は、見たこともないほど潤み、どろりと熱を帯びていた。
僕がそっと彼の頬に触れると、それだけで彼の中から「ヒュッ」と喉を鳴らすような声が漏れる。
「あ、これ……僕の魔力、そんなに変わりましたか?」
「変わったどころではない! 以前のお前が『極上の蜂蜜』なら、今のお前は『脳を直接支配する禁断の麻薬』だ……! 触れるだけで、俺の理性が、魔王としての矜持が、塵になって消えていく……っ」
ゼノス様は耐えるように僕を押し倒したが、その腕にはいつもの力強さがない。
逆に、僕の体から溢れ出す黄金色の魔力が、ゼノス様の黒い魔力を優しく侵食し、包み込んでいく。
「……じゃあ、ゼノス様。僕が、もっと楽にしてあげますね」
僕は自分でも驚くほど大胆に、ゼノス様の首に腕を回し、彼を自分の方へと引き寄せた。
覚醒した僕の魔力は、ゼノス様の「飢え」を癒やすだけでなく、彼の中に眠る深い孤独や破壊衝動さえも、とろとろに溶かしていく。
「ん、ぁ……っ、エルヴィン、待て……! 俺が、俺でなくなってしまう……ッ!」
「いいですよ、俺でなくなっても。……全部、僕に預けてください」
僕は彼の唇を奪い、自分から深く舌を絡めた。
その瞬間、部屋中のオリハルコンの壁が、僕たちの魔力の共鳴に耐えきれず、キィィィィンと高い音を立てて震え出した。
ゼノス様の理性が、ついに完全に崩壊した。
「――っ、あああああぁぁッ!!」
彼は獣のような声を上げると、僕の体に狂ったように食らいついた。
それはもはや「供給」などという生易しいものではない。
僕の光を喰らい、自らの闇を塗り潰そうとする、魂の格闘。
だが、いくら彼が貪り、僕を壊そうと激しく貫いても、僕の中から溢れる光は止まらない。
逆にゼノス様のほうが、僕の放つ「究極の多幸感」に当てられ、意識を混濁させていく。
最強の魔王が、僕の腕の中で涙を流し、子供のように「行かないでくれ」「もっとくれ」と縋り付いてくる。
「エルヴィン……っ、お前は、お前は俺をどうするつもりだ……! こんなに、こんなに気持ちがいいのは……死ぬよりも恐ろしい……ッ!」
「死なせませんよ。……僕が、ずっとこうして支えてあげますから」
僕は彼の背中に爪を立て、溢れ出す光のすべてを彼へと流し込んだ。
翌朝。
カインさんが部屋の異変(オリハルコンの壁が半分溶けていた)を察知して飛び込んできた時、そこには見たこともない光景が広がっていた。
いつも不遜な態度で玉座に座る魔王ゼノスが、エルヴィンの膝枕で、放心したような、それでいてこの世の全ての幸福を手に入れたような顔で、スヤスヤと眠っていたのだ。
「……陛下? ……エルヴィン様、一体何が起きたのですか。城の魔力貯蔵庫が、陛下の溢れ出した歓喜の魔力で満タンになって、爆発寸前なのですが」
「あはは……ちょっと、供給しすぎちゃったみたいです」
僕は、自分の首に刻まれた「番の印」が、黄金色の光を帯びてより深く定着しているのを見て、小さく微笑んだ。
立場は逆転したかに見えたけれど、ゼノス様が目覚めた瞬間、また「お前の魔力のせいで、俺はもうお前なしでは一秒も生きていけん体にされた!」と、倍返しの溺愛が始まることを、僕はまだ知る由もなかった。
以前はゼノス様に魔力を吸い取られると、ひどい倦怠感に襲われていたのに、今はどれだけ彼に注いでも、内側から温かな光が無限に湧き上がってくるような感覚なのだ。
そして、その変化を誰よりも敏感に察知したのは、僕の「飼い主」であるゼノス様だった。
「……っ、エルヴィン。お前、一体何をした……?」
深夜の寝室。僕を抱きしめていたゼノス様が、突如として動きを止め、荒い吐息と共に僕の肩に顔を埋めた。
彼の全身が、微かに震えている。いつもなら余裕たっぷりに僕を弄ぶ彼の手が、今は僕の肌に触れるだけで、火傷でもしたかのようにビクリと跳ねるのだ。
「ゼノス様……? どうしたんですか? まだ供給、足りないんじゃ……」
「足りないどころではない……! お前の魔力が……このペンダントのせいか? それともお前の自覚のせいか……っ。毒のように甘く、暴力的なまでの純潔さが、俺の魔力回路を焼き切ろうとしている……!」
ゼノス様の紅い瞳は、見たこともないほど潤み、どろりと熱を帯びていた。
僕がそっと彼の頬に触れると、それだけで彼の中から「ヒュッ」と喉を鳴らすような声が漏れる。
「あ、これ……僕の魔力、そんなに変わりましたか?」
「変わったどころではない! 以前のお前が『極上の蜂蜜』なら、今のお前は『脳を直接支配する禁断の麻薬』だ……! 触れるだけで、俺の理性が、魔王としての矜持が、塵になって消えていく……っ」
ゼノス様は耐えるように僕を押し倒したが、その腕にはいつもの力強さがない。
逆に、僕の体から溢れ出す黄金色の魔力が、ゼノス様の黒い魔力を優しく侵食し、包み込んでいく。
「……じゃあ、ゼノス様。僕が、もっと楽にしてあげますね」
僕は自分でも驚くほど大胆に、ゼノス様の首に腕を回し、彼を自分の方へと引き寄せた。
覚醒した僕の魔力は、ゼノス様の「飢え」を癒やすだけでなく、彼の中に眠る深い孤独や破壊衝動さえも、とろとろに溶かしていく。
「ん、ぁ……っ、エルヴィン、待て……! 俺が、俺でなくなってしまう……ッ!」
「いいですよ、俺でなくなっても。……全部、僕に預けてください」
僕は彼の唇を奪い、自分から深く舌を絡めた。
その瞬間、部屋中のオリハルコンの壁が、僕たちの魔力の共鳴に耐えきれず、キィィィィンと高い音を立てて震え出した。
ゼノス様の理性が、ついに完全に崩壊した。
「――っ、あああああぁぁッ!!」
彼は獣のような声を上げると、僕の体に狂ったように食らいついた。
それはもはや「供給」などという生易しいものではない。
僕の光を喰らい、自らの闇を塗り潰そうとする、魂の格闘。
だが、いくら彼が貪り、僕を壊そうと激しく貫いても、僕の中から溢れる光は止まらない。
逆にゼノス様のほうが、僕の放つ「究極の多幸感」に当てられ、意識を混濁させていく。
最強の魔王が、僕の腕の中で涙を流し、子供のように「行かないでくれ」「もっとくれ」と縋り付いてくる。
「エルヴィン……っ、お前は、お前は俺をどうするつもりだ……! こんなに、こんなに気持ちがいいのは……死ぬよりも恐ろしい……ッ!」
「死なせませんよ。……僕が、ずっとこうして支えてあげますから」
僕は彼の背中に爪を立て、溢れ出す光のすべてを彼へと流し込んだ。
翌朝。
カインさんが部屋の異変(オリハルコンの壁が半分溶けていた)を察知して飛び込んできた時、そこには見たこともない光景が広がっていた。
いつも不遜な態度で玉座に座る魔王ゼノスが、エルヴィンの膝枕で、放心したような、それでいてこの世の全ての幸福を手に入れたような顔で、スヤスヤと眠っていたのだ。
「……陛下? ……エルヴィン様、一体何が起きたのですか。城の魔力貯蔵庫が、陛下の溢れ出した歓喜の魔力で満タンになって、爆発寸前なのですが」
「あはは……ちょっと、供給しすぎちゃったみたいです」
僕は、自分の首に刻まれた「番の印」が、黄金色の光を帯びてより深く定着しているのを見て、小さく微笑んだ。
立場は逆転したかに見えたけれど、ゼノス様が目覚めた瞬間、また「お前の魔力のせいで、俺はもうお前なしでは一秒も生きていけん体にされた!」と、倍返しの溺愛が始まることを、僕はまだ知る由もなかった。
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