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18話
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お風呂上がり、バスソルトの香りに包まれてぐっすり眠った翌朝。リヒトたちが駐屯地の食堂で朝食を摂っていると、けたたましい喇叭(らっぱ)の音が響き渡った。
「あら、ここが噂の『もふもふ騎士団』ですの? 想像以上に野蛮な場所ですわね」
現れたのは、これでもかとフリルを着飾った令嬢、セレスティーヌだった。彼女は神殿でも有力な貴族の娘で、自らを「真の聖女」と自負している。彼女の背後には、神殿の衛兵たちが物々しい雰囲気で控えていた。
「聖女セレスティーヌ様……。本日はどのようなご用件でしょうか」
ハンスが引きつった笑顔で対応するが、彼女は手にした扇子でリヒトを指し示した。
「用件は一つですわ。その、神殿を追放された『偽物』を今すぐ突き出しなさい。そして、彼が不当に独占している聖獣たちを、真の聖女であるわたくしが保護して差し上げます」
リヒトは、コンを抱きしめたまま身をすくめた。
「偽物……。でも、僕はただ、みんなを元気にしたいだけで……」
「黙りなさいな。聖獣は神の使い。それを、このような不潔な少年が、まるでペットのように扱うなど冒涜ですわ! ほら、そこの狼(フェンリル)も、わたくしの光にひれ伏しなさい!」
セレスティーヌが仰々しく両手を広げ、派手な金色の光(攻撃性は低いが、やたらと眩しい)を放った。
しかし、フェンリルは「ふぁあ……」と大きなあくびを一つ。コンに至っては、少年の姿のまま「あのおばちゃん、キラキラしてて おもしろーい」とポップコーンでも食べるような顔で見物している。
「な、なんですの、その反応は!?」
顔を真っ赤にするセレスティーヌ。そこへ、地響きのような重厚な足音が近づいてきた。
「騒がしいな。……我が騎士団の食堂で、勝手に光を振り撒くのは誰だ」
現れたジークヴァルトは、いつもの黒い甲冑姿。だが、その髪は昨夜リヒトが整えたおかげで、かつてないほど艶やかで美しくなびいている。
「あ、あら……ジークヴァルト団長……」
セレスティーヌは、ジークヴァルトのあまりの美しさに一瞬頬を染めたが、すぐに気を取り直して訴えかけた。
「団長、騙されてはいけませんわ! このリヒトという少年は、魔導具か何かで動物を操っているだけですの。わたくしが、本物の『聖女の慈愛』を教えて差し上げますわ!」
彼女は強引にフェンリルへ近づき、その頭に触れようとした。
だが、次の瞬間。
「がうっ!」
フェンリルが鼻を鳴らし、プイッと顔を背けた。
それだけではない。駐屯地の聖獣たちが次々とセレスティーヌを避け、リヒトの後ろへと避難し始めたのだ。
「そんな……! なぜわたくしから逃げるのですの! わたくしは選ばれし聖女なのよ!」
「……聖女か。リヒトと貴様の決定的な違いを教えてやろう」
ジークヴァルトはリヒトの肩に手を置き、静かに告げた。
「リヒトは、彼ら(もふもふ)を支配しようとはしない。ただ、傍に寄り添い、彼らが望むようにその毛並みを愛でている。貴様の放つ光は、自らのプライドを誇示するだけの『騒音』だ。そんなものに、静寂を愛する聖獣たちが寄るはずもなかろう」
ジークヴァルトの言葉に、セレスティーヌは絶句した。
「そ、そんな……わたくしの愛が、騒音だなんて……」
「帰れ。これ以上リヒトと私の時間を邪魔するなら、神殿との協力関係を解消することも辞さない」
ジークヴァルトの黄金の瞳が、剣のように鋭く彼女を射抜く。
セレスティーヌは「覚えてらっしゃい!」という古典的な捨て台詞を残し、嵐のように去っていった。
静かになった食堂で、リヒトはホッと肩の力を抜いた。
「ジークヴァルト様、ありがとうございます。……でも、僕のせいで神殿と揉めてしまって……」
「気にするな。あのような騒がしい光より、お前の淹れる茶の香りの方が、私にはよほど価値がある」
ジークヴァルトはそう言うと、リヒトの銀髪をそっと撫でた。
「……それに、フェンリルたちがお前を選んでいることが、何よりの証明だ」
リヒトは嬉しそうに微笑み、ジークヴァルトの腕にそっとしがみついた。
「はい! 僕、もっとみんなをふわふわにします!」
ジークヴァルトの心の中には、リヒトの笑顔を独占できたことへの小さな満足感が広がっていた。
聖域の朝は、少しの波乱を経て、より一層穏やかな絆に包まれていく。
「あら、ここが噂の『もふもふ騎士団』ですの? 想像以上に野蛮な場所ですわね」
現れたのは、これでもかとフリルを着飾った令嬢、セレスティーヌだった。彼女は神殿でも有力な貴族の娘で、自らを「真の聖女」と自負している。彼女の背後には、神殿の衛兵たちが物々しい雰囲気で控えていた。
「聖女セレスティーヌ様……。本日はどのようなご用件でしょうか」
ハンスが引きつった笑顔で対応するが、彼女は手にした扇子でリヒトを指し示した。
「用件は一つですわ。その、神殿を追放された『偽物』を今すぐ突き出しなさい。そして、彼が不当に独占している聖獣たちを、真の聖女であるわたくしが保護して差し上げます」
リヒトは、コンを抱きしめたまま身をすくめた。
「偽物……。でも、僕はただ、みんなを元気にしたいだけで……」
「黙りなさいな。聖獣は神の使い。それを、このような不潔な少年が、まるでペットのように扱うなど冒涜ですわ! ほら、そこの狼(フェンリル)も、わたくしの光にひれ伏しなさい!」
セレスティーヌが仰々しく両手を広げ、派手な金色の光(攻撃性は低いが、やたらと眩しい)を放った。
しかし、フェンリルは「ふぁあ……」と大きなあくびを一つ。コンに至っては、少年の姿のまま「あのおばちゃん、キラキラしてて おもしろーい」とポップコーンでも食べるような顔で見物している。
「な、なんですの、その反応は!?」
顔を真っ赤にするセレスティーヌ。そこへ、地響きのような重厚な足音が近づいてきた。
「騒がしいな。……我が騎士団の食堂で、勝手に光を振り撒くのは誰だ」
現れたジークヴァルトは、いつもの黒い甲冑姿。だが、その髪は昨夜リヒトが整えたおかげで、かつてないほど艶やかで美しくなびいている。
「あ、あら……ジークヴァルト団長……」
セレスティーヌは、ジークヴァルトのあまりの美しさに一瞬頬を染めたが、すぐに気を取り直して訴えかけた。
「団長、騙されてはいけませんわ! このリヒトという少年は、魔導具か何かで動物を操っているだけですの。わたくしが、本物の『聖女の慈愛』を教えて差し上げますわ!」
彼女は強引にフェンリルへ近づき、その頭に触れようとした。
だが、次の瞬間。
「がうっ!」
フェンリルが鼻を鳴らし、プイッと顔を背けた。
それだけではない。駐屯地の聖獣たちが次々とセレスティーヌを避け、リヒトの後ろへと避難し始めたのだ。
「そんな……! なぜわたくしから逃げるのですの! わたくしは選ばれし聖女なのよ!」
「……聖女か。リヒトと貴様の決定的な違いを教えてやろう」
ジークヴァルトはリヒトの肩に手を置き、静かに告げた。
「リヒトは、彼ら(もふもふ)を支配しようとはしない。ただ、傍に寄り添い、彼らが望むようにその毛並みを愛でている。貴様の放つ光は、自らのプライドを誇示するだけの『騒音』だ。そんなものに、静寂を愛する聖獣たちが寄るはずもなかろう」
ジークヴァルトの言葉に、セレスティーヌは絶句した。
「そ、そんな……わたくしの愛が、騒音だなんて……」
「帰れ。これ以上リヒトと私の時間を邪魔するなら、神殿との協力関係を解消することも辞さない」
ジークヴァルトの黄金の瞳が、剣のように鋭く彼女を射抜く。
セレスティーヌは「覚えてらっしゃい!」という古典的な捨て台詞を残し、嵐のように去っていった。
静かになった食堂で、リヒトはホッと肩の力を抜いた。
「ジークヴァルト様、ありがとうございます。……でも、僕のせいで神殿と揉めてしまって……」
「気にするな。あのような騒がしい光より、お前の淹れる茶の香りの方が、私にはよほど価値がある」
ジークヴァルトはそう言うと、リヒトの銀髪をそっと撫でた。
「……それに、フェンリルたちがお前を選んでいることが、何よりの証明だ」
リヒトは嬉しそうに微笑み、ジークヴァルトの腕にそっとしがみついた。
「はい! 僕、もっとみんなをふわふわにします!」
ジークヴァルトの心の中には、リヒトの笑顔を独占できたことへの小さな満足感が広がっていた。
聖域の朝は、少しの波乱を経て、より一層穏やかな絆に包まれていく。
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