異世界転生した俺のフェロモンが「全種族共通の特効薬」だった件 ~最強の獣人たちに囲まれて、毎日代わりばんこに可愛がられています~

たら昆布

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2話

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ギルバートの腕に抱かれたまま、ハルは森を抜けていった。


木々の隙間から見えてきたのは、白亜の石壁で囲まれた巨大な建造物だった。
王宮の北側に位置する、王宮騎士団の宿舎兼訓練場だという。
近づくにつれ、金属がぶつかり合う鋭い音や、野太い掛け声が響いてくる。


「団長、お戻りです!」
「門を開けろ!」


門番たちがギルバートの姿を確認し、慌てて巨大な木製の扉を開く。
ギルバートはハルを抱いたまま、迷いのない足取りで敷地内へと踏み入った。


宿舎の中庭では、数十人の獣人騎士たちが訓練の真っ最中だった。
彼らは皆、筋骨隆々とした体躯に鋭い眼光を宿し、肌を刺すような緊張感を漂わせている。
獣人は本能的に闘争心が強く、特に訓練中は「獣の性」が強く出るため、空気はピリピリと張り詰めていた。


「……おい、団長が誰か連れてるぞ」
「人間か? あんなに華奢な……」


騎士たちの視線が一斉にハルに注がれる。
猛獣のような鋭い視線に、ハルは思わずギルバートの胸元に顔を埋めた。


「……怖いか? 大丈夫だ、俺が側にいる」


ギルバートが優しく囁き、ハルを包む腕に少し力を込める。
その直後、ハルを中心に「ある変化」が起き始めた。


ハルが緊張したことで、彼が無自覚に放つ「癒やしの残り香」が、ふわりと風に乗って訓練場全体に広がったのだ。


「……っ!? なんだ、この匂いは……」
「花のような……いや、もっと澄んだ……」


つい先ほどまで、殺気立って剣を振るっていた騎士たちの動きが、一瞬で止まった。
彼らは鼻をヒクつかせ、虚空を仰ぐようにして深く息を吸い込む。


「…………はぁ…………」


一人、また一人と、騎士たちの顔から険しさが消えていく。
それどころか、あまりの心地よさに膝から力が抜け、その場にへたり込む者まで現れた。


「……体が、軽い……。長年の古傷の痛みが、消えていくようだ……」
「なんだ、この幸福感は……。俺は、何のために戦っていたんだ……?」


数秒前まで戦場のような空気が漂っていた訓練場は、一瞬にして「昼下がりの公園」のような、長閑で平和な空間へと変貌した。
血気盛んだった狼や虎、熊の獣人騎士たちが、皆一様に「ふにゃふにゃ」とした締まりのない表情を浮かべ、トロンとした目でハルを見つめている。


「な、なんだか……みんな、急に大人しくなりましたね?」


ハルが不思議そうに首を傾げると、その愛らしい仕草に当てられた騎士たちが、一斉に胸を抑えて悶絶した。


「……天使だ……」
「俺たちの……救世主様か……?」


ギルバートは、部下たちのあまりの骨抜きっぷりに、苦笑いを浮かべながらカイルに視線を送った。


「カイル。彼らに、今日からハル様がここで暮らすことを伝えろ。ただし、勝手な接触は禁ずるとな」


「了解しました、団長! ……と言いたいところですが、俺だって本当はハル様に触れたいですよ……!」


カイルもまた、尻尾をバタバタと振りながら、ハルの側にいられる特権を享受している。


ギルバートは宿舎の最上階にある、自身の執務室兼居室へと向かった。
そこは豪華な絨毯が敷かれ、落ち着いた木製の家具で統一された、清潔感のある空間だった。


「今日からここを、君の部屋として使ってくれ。俺は隣の寝室を使うから、何かあればすぐに呼んでほしい」


「ええっ、こんな立派な部屋、いいんですか? 俺、ただの迷い人なのに……」


「君はただの迷い人ではない。……少なくとも、俺たちにとっては、失いたくない宝物だ」


ギルバートは、ようやくハルを柔らかなソファに下ろした。
ハルが「ふぅ」と一息つくと、ギルバートは自然な動作でハルの前に跪き、彼の靴を脱がせ始めた。


「あ、あの! 自分でやります!」


「いいんだ。君は疲れているだろう。……ハル、この世界に来て、不安なことも多いだろうが、俺を信じてほしい。君が望むなら、一生ここで穏やかに暮らせるよう、俺が全てを整える」


ギルバートの琥珀色の瞳には、偽りのない誠実さが宿っていた。
執着というよりは、守るべき尊い存在を見つけた騎士としての、深い慈愛だ。


「……ありがとうございます、ギルバートさん。なんだか、あなたと一緒にいると、俺の方こそ癒やされる気がします」


ハルがにこりと笑うと、ギルバートは一瞬、息を呑んだように硬直した。
そして、堪えきれないといった様子で、ハルの膝に頭を預けてきた。


「……少しだけ、このままでいさせてくれ。君の側にいると、肩の荷が下りるんだ」


大きなライオンの耳が、ハルの手の届くところで揺れている。
ハルは「お疲れ様です」と小さく呟きながら、その金色の毛並みを、ゆっくりと優しく撫で始めた。


「……ゴロゴロ……」


部屋の中に、幸せそうな低い鳴き声が響き渡る。
王宮騎士団の頂点に立つ男は、一人の青年の膝の上で、この上ない安らぎを噛み締めていた。


その頃、訓練場では、ハルの匂いを少しでも長く堪能しようと、騎士たちが一歩も動かずにその場に居座るという、前代未聞の事態が続いていた。
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