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ハルが宿舎にやってきてから、数時間が経過した。
ギルバートの部屋で一息ついたハルは、彼に連れられて、宿舎に隣接する「王宮魔導研究所」へと足を運んでいた。
ハルの放つ「香り」の正体を正式に調査するためだ。
白いローブを纏った研究員たちが、ハルの周りを囲んでいる。
彼らは皆、手にした魔導具の数値を見ては、信じられないという顔で絶叫していた。
「……信じられん! これほどの純度、これほどの出力! 文献に記されていた『伝説の癒やし香(アロマ・サナトゥス)』そのものではないか!」
研究員の代表らしき老人が、興奮で震えながらハルに説明を始めた。
「ハル様、お聞きください。この世界の獣人たちは、強靭な肉体と引き換えに、常に『獣の衝動』というストレスを抱えて生きています。本能が理性を食いつぶし、最悪の場合は自我を失う……それを鎮めることができるのは、かつて神に遣わされたと言われる『聖域の癒やし手』だけなのです」
「癒やし手……。俺のこの匂いが、その薬になるんですか?」
「ええ、薬などという生易しいものではありません! 貴方の放つ香りは、獣人の本能を癒やし、魂の深淵にまで平穏をもたらす『究極の特効薬』なのです。これまで数百年、これほど強力な個体が現れた記録はありませんぞ!」
老研究員もまた、説明しながらハルの匂いを嗅ぎ、いつの間にか「ほわぁ……」と顔を崩している。
ギルバートは誇らしげに、けれどハルを守るように一歩前に出た。
「説明は十分だ。つまり、ハル様はこの国……いや、世界にとってなくてはならない至宝だということだな」
「左様にございます、団長! 早急に陛下へ報告し、最高位の国賓としてお迎えしなければ!」
ハルは、事の重大さに少しだけ目を丸くした。
社畜として使い潰されそうになっていた自分が、この世界では「存在するだけで世界を救う至宝」なのだという。
「……なんだか、すごいことになっちゃいましたね」
「不安か? だが安心してほしい。君が国賓になろうと、俺たちの関係は変わらない。俺が君を一番側で守る、専属の守護騎士であることを、陛下にも認めさせるつもりだ」
ギルバートの言葉は力強く、琥珀色の瞳には揺るぎない決意が宿っていた。
その後、ハルは王宮の最上階にある豪華な応接室へと案内された。
そこには、この国の王である獅子王をはじめ、国の中枢を担う重鎮たちが集まっていた。
「彼が、森に現れたという癒やし手か」
玉座に座る王が、威厳に満ちた声を出す。
しかし、ハルが部屋に入り、その「香り」が室内に充満した瞬間、王の表情が一変した。
「……っ。……なんという、心地よい風だ。長年、余を悩ませていた頭痛が、霧が晴れるように消えていく……」
威厳たっぷりだった王の眉間の皺が消え、口元が緩んでいく。
他の重鎮たちも同様だった。
ある者は涙を流し、ある者は幸せそうに深く椅子に身を沈めている。
「ハルよ。貴殿を、我がアニマリア王国の『終身名誉国賓』として迎えたい。この国にあるすべての富と贅を、貴殿のために用意しよう。望むものは何でも言うが良い」
「ええっ、そんな! 俺、ただもふもふに囲まれて、のんびり過ごせればそれで十分なんですけど……」
ハルの控えめな言葉に、一同は感動の渦に包まれた。
「なんて欲のない御方だ!」「まさに聖人!」と口々に称賛の声が上がる。
「よろしい。ならば、ハル殿の望む『のんびりした生活』を、我が国を挙げて全力でプロデュースしよう。ギルバート団長、貴殿には引き続きハル殿の警護と、生活の管理を命ずる」
「御意。命に代えても、ハル様をお支えいたします」
ギルバートは深く一礼し、ハルに向けて優しく微笑んだ。
こうして、ハルの異世界ライフは、ただの迷い人から「世界一過保護にされる国賓」へとランクアップした。
宿舎に戻る道中、ハルはギルバートの大きな手をギュッと握った。
「ギルバートさん。俺、この世界に来て良かったです。みんな、すごく優しいし……」
「……ああ。君がそう言ってくれるのが、俺にとって一番の報酬だ」
ギルバートの手が、ハルの手を包み込むように握り返す。
ライオンの大きな尻尾が、嬉しそうにパタパタと揺れていた。
しかし、ハルの「癒やし香」の効果は、王宮内に留まらなかった。
噂を聞きつけた他の強力な獣人たちが、ハルの元へ挨拶(という名のもふもふアピール)に行こうと、密かに列を作り始めていたのだ。
ギルバートの部屋で一息ついたハルは、彼に連れられて、宿舎に隣接する「王宮魔導研究所」へと足を運んでいた。
ハルの放つ「香り」の正体を正式に調査するためだ。
白いローブを纏った研究員たちが、ハルの周りを囲んでいる。
彼らは皆、手にした魔導具の数値を見ては、信じられないという顔で絶叫していた。
「……信じられん! これほどの純度、これほどの出力! 文献に記されていた『伝説の癒やし香(アロマ・サナトゥス)』そのものではないか!」
研究員の代表らしき老人が、興奮で震えながらハルに説明を始めた。
「ハル様、お聞きください。この世界の獣人たちは、強靭な肉体と引き換えに、常に『獣の衝動』というストレスを抱えて生きています。本能が理性を食いつぶし、最悪の場合は自我を失う……それを鎮めることができるのは、かつて神に遣わされたと言われる『聖域の癒やし手』だけなのです」
「癒やし手……。俺のこの匂いが、その薬になるんですか?」
「ええ、薬などという生易しいものではありません! 貴方の放つ香りは、獣人の本能を癒やし、魂の深淵にまで平穏をもたらす『究極の特効薬』なのです。これまで数百年、これほど強力な個体が現れた記録はありませんぞ!」
老研究員もまた、説明しながらハルの匂いを嗅ぎ、いつの間にか「ほわぁ……」と顔を崩している。
ギルバートは誇らしげに、けれどハルを守るように一歩前に出た。
「説明は十分だ。つまり、ハル様はこの国……いや、世界にとってなくてはならない至宝だということだな」
「左様にございます、団長! 早急に陛下へ報告し、最高位の国賓としてお迎えしなければ!」
ハルは、事の重大さに少しだけ目を丸くした。
社畜として使い潰されそうになっていた自分が、この世界では「存在するだけで世界を救う至宝」なのだという。
「……なんだか、すごいことになっちゃいましたね」
「不安か? だが安心してほしい。君が国賓になろうと、俺たちの関係は変わらない。俺が君を一番側で守る、専属の守護騎士であることを、陛下にも認めさせるつもりだ」
ギルバートの言葉は力強く、琥珀色の瞳には揺るぎない決意が宿っていた。
その後、ハルは王宮の最上階にある豪華な応接室へと案内された。
そこには、この国の王である獅子王をはじめ、国の中枢を担う重鎮たちが集まっていた。
「彼が、森に現れたという癒やし手か」
玉座に座る王が、威厳に満ちた声を出す。
しかし、ハルが部屋に入り、その「香り」が室内に充満した瞬間、王の表情が一変した。
「……っ。……なんという、心地よい風だ。長年、余を悩ませていた頭痛が、霧が晴れるように消えていく……」
威厳たっぷりだった王の眉間の皺が消え、口元が緩んでいく。
他の重鎮たちも同様だった。
ある者は涙を流し、ある者は幸せそうに深く椅子に身を沈めている。
「ハルよ。貴殿を、我がアニマリア王国の『終身名誉国賓』として迎えたい。この国にあるすべての富と贅を、貴殿のために用意しよう。望むものは何でも言うが良い」
「ええっ、そんな! 俺、ただもふもふに囲まれて、のんびり過ごせればそれで十分なんですけど……」
ハルの控えめな言葉に、一同は感動の渦に包まれた。
「なんて欲のない御方だ!」「まさに聖人!」と口々に称賛の声が上がる。
「よろしい。ならば、ハル殿の望む『のんびりした生活』を、我が国を挙げて全力でプロデュースしよう。ギルバート団長、貴殿には引き続きハル殿の警護と、生活の管理を命ずる」
「御意。命に代えても、ハル様をお支えいたします」
ギルバートは深く一礼し、ハルに向けて優しく微笑んだ。
こうして、ハルの異世界ライフは、ただの迷い人から「世界一過保護にされる国賓」へとランクアップした。
宿舎に戻る道中、ハルはギルバートの大きな手をギュッと握った。
「ギルバートさん。俺、この世界に来て良かったです。みんな、すごく優しいし……」
「……ああ。君がそう言ってくれるのが、俺にとって一番の報酬だ」
ギルバートの手が、ハルの手を包み込むように握り返す。
ライオンの大きな尻尾が、嬉しそうにパタパタと揺れていた。
しかし、ハルの「癒やし香」の効果は、王宮内に留まらなかった。
噂を聞きつけた他の強力な獣人たちが、ハルの元へ挨拶(という名のもふもふアピール)に行こうと、密かに列を作り始めていたのだ。
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