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8話
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翌朝。ハルは、左右からの凄まじい「圧力」と「多幸感」で目を覚ました。
「……ん、んん……。重い……けど、ふかふかだ……」
右を見れば金色のタテガミの海。左を見れば銀色の柔らかな毛並み。
ギルバートとカイルが、一晩中ハルを温め、守り続けていたのだ。
ハルが身じろぎをすると、二人の巨躯が同時にもぞりと動き、ゆっくりと人型へと戻っていく。
「……おはよう、ハル。よく眠れたか?」
「ハル様、おはようございます! 俺、幸せすぎて一生起きられないかと思いました!」
朝から眩しいほどの美貌を見せる二人に、ハルは寝ぼけ眼で「おはようございます」と返した。
だが、その時。
ハルの視界の端、部屋の隅にある「影」が、不自然に揺らめいた。
「……え? あそこに、誰か……」
ハルが指差した瞬間、影の中から一人の青年が音もなく姿を現した。
銀色の髪、精悍な顔立ち。それは隣にいるカイルと瓜二つだったが、纏っている空気は氷のように冷たく、鋭い。
「……フェン!? 貴様、いつからそこにいた」
ギルバートが鋭く問い詰める。
この世界において、銀狼の獣人は「双子」で生まれることが多く、その能力は対照的になる傾向がある。
表舞台で剣を振るう「陽」のカイルに対し、兄のフェンは影に潜み、気配を断つことに特化した「隠密(密偵)」の天才だった。
「……昨夜からだ。団長があまりに無防備だったのでな。警護の質を上げる必要があると判断した」
フェンは抑揚のない声で答えるが、その瞳は、じっとハルを見つめていた。
彼は本来、他者との接触を極端に嫌い、香水や他人の匂いには敏感で潔癖な性格だ。
だが、ハルから漂う「癒やし香」は、彼の鋭すぎる神経を逆なでするどころか、優しく包み込んでいた。
「フェン兄さん! ハル様に挨拶もなしに覗き見なんて失礼だよ!」
「覗いてはいない。……守っていただけだ」
フェンはスッとハルの枕元に歩み寄ると、その場に跪いた。
そして、ハルのパジャマの裾を、指先でほんの少しだけ掴む。
「ハル様。……俺はフェン。以後、貴方の『影』として、視界に入らぬ場所からお守りする。……この香りが届く範囲に、いさせてほしい」
フェンの声は微かに震えていた。
孤独な任務に明け暮れる彼にとって、ハルの香りは渇いた砂漠に降る雨のようなもの。
一度知ってしまえば、もう二度とこの香りのない場所には戻れないという「幸福な呪い」にかかっていた。
「ええと、フェンくん……でいいのかな? 守ってくれるなら、心強いです。よろしくね」
ハルが戸惑いながらもフェンの銀髪をそっと撫でると、彼はビクリと肩を揺らした。
冷徹な隠密として恐れられる男が、ハルの手のひらの温もりに、耳を真っ赤にして伏せている。
「……温かい。……任務、完遂してみせる」
「あはは、気合が入ってるね。あ、そういえば……」
ハルは自分のパーカーのフードが、妙にモコモコと動いていることに気づいた。
中から「キュ~」という小さな鳴き声がして、一匹の小さな生き物が顔を出す。
「……あ、モモンガさん?」
「ハル様! それはモモンガじゃありません、魔法省の特級魔導師、ポポです!」
カイルが叫ぶが、フードから出てきたポポは、ハルの頬に小さな手足を広げてペタッと抱きついた。
見た目は愛くるしいモモンガそのものだが、その瞳には知性と、そして底知れない独占欲が宿っている。
「キュ! (ハル様はボクが見つけたんだもん!)」
「わぁ、可愛い……! この子も、一緒にいていいのかな?」
ハルがポポを抱き上げると、ポポは得意げに鼻を鳴らし、ハルの首筋に自分の匂いをつけるようにスリスリと甘えた。
ライオンの団長、銀狼の騎士と隠密、そして魔法省の天才モモンガ。
朝の陽光が差し込む部屋で、ハルを中心とした「最強の過保護チーム」が、じわじわと形を成し始めていた。
だが、そんな騒ぎを廊下で聞きつけ、朝食の準備を整えながら「ハル様の寝起きを拝める権利」を虎視眈々と狙っている侍従長・ジークの存在を、ハルはまだ知らない。
「……ん、んん……。重い……けど、ふかふかだ……」
右を見れば金色のタテガミの海。左を見れば銀色の柔らかな毛並み。
ギルバートとカイルが、一晩中ハルを温め、守り続けていたのだ。
ハルが身じろぎをすると、二人の巨躯が同時にもぞりと動き、ゆっくりと人型へと戻っていく。
「……おはよう、ハル。よく眠れたか?」
「ハル様、おはようございます! 俺、幸せすぎて一生起きられないかと思いました!」
朝から眩しいほどの美貌を見せる二人に、ハルは寝ぼけ眼で「おはようございます」と返した。
だが、その時。
ハルの視界の端、部屋の隅にある「影」が、不自然に揺らめいた。
「……え? あそこに、誰か……」
ハルが指差した瞬間、影の中から一人の青年が音もなく姿を現した。
銀色の髪、精悍な顔立ち。それは隣にいるカイルと瓜二つだったが、纏っている空気は氷のように冷たく、鋭い。
「……フェン!? 貴様、いつからそこにいた」
ギルバートが鋭く問い詰める。
この世界において、銀狼の獣人は「双子」で生まれることが多く、その能力は対照的になる傾向がある。
表舞台で剣を振るう「陽」のカイルに対し、兄のフェンは影に潜み、気配を断つことに特化した「隠密(密偵)」の天才だった。
「……昨夜からだ。団長があまりに無防備だったのでな。警護の質を上げる必要があると判断した」
フェンは抑揚のない声で答えるが、その瞳は、じっとハルを見つめていた。
彼は本来、他者との接触を極端に嫌い、香水や他人の匂いには敏感で潔癖な性格だ。
だが、ハルから漂う「癒やし香」は、彼の鋭すぎる神経を逆なでするどころか、優しく包み込んでいた。
「フェン兄さん! ハル様に挨拶もなしに覗き見なんて失礼だよ!」
「覗いてはいない。……守っていただけだ」
フェンはスッとハルの枕元に歩み寄ると、その場に跪いた。
そして、ハルのパジャマの裾を、指先でほんの少しだけ掴む。
「ハル様。……俺はフェン。以後、貴方の『影』として、視界に入らぬ場所からお守りする。……この香りが届く範囲に、いさせてほしい」
フェンの声は微かに震えていた。
孤独な任務に明け暮れる彼にとって、ハルの香りは渇いた砂漠に降る雨のようなもの。
一度知ってしまえば、もう二度とこの香りのない場所には戻れないという「幸福な呪い」にかかっていた。
「ええと、フェンくん……でいいのかな? 守ってくれるなら、心強いです。よろしくね」
ハルが戸惑いながらもフェンの銀髪をそっと撫でると、彼はビクリと肩を揺らした。
冷徹な隠密として恐れられる男が、ハルの手のひらの温もりに、耳を真っ赤にして伏せている。
「……温かい。……任務、完遂してみせる」
「あはは、気合が入ってるね。あ、そういえば……」
ハルは自分のパーカーのフードが、妙にモコモコと動いていることに気づいた。
中から「キュ~」という小さな鳴き声がして、一匹の小さな生き物が顔を出す。
「……あ、モモンガさん?」
「ハル様! それはモモンガじゃありません、魔法省の特級魔導師、ポポです!」
カイルが叫ぶが、フードから出てきたポポは、ハルの頬に小さな手足を広げてペタッと抱きついた。
見た目は愛くるしいモモンガそのものだが、その瞳には知性と、そして底知れない独占欲が宿っている。
「キュ! (ハル様はボクが見つけたんだもん!)」
「わぁ、可愛い……! この子も、一緒にいていいのかな?」
ハルがポポを抱き上げると、ポポは得意げに鼻を鳴らし、ハルの首筋に自分の匂いをつけるようにスリスリと甘えた。
ライオンの団長、銀狼の騎士と隠密、そして魔法省の天才モモンガ。
朝の陽光が差し込む部屋で、ハルを中心とした「最強の過保護チーム」が、じわじわと形を成し始めていた。
だが、そんな騒ぎを廊下で聞きつけ、朝食の準備を整えながら「ハル様の寝起きを拝める権利」を虎視眈々と狙っている侍従長・ジークの存在を、ハルはまだ知らない。
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