異世界転生した俺のフェロモンが「全種族共通の特効薬」だった件 ~最強の獣人たちに囲まれて、毎日代わりばんこに可愛がられています~

たら昆布

文字の大きさ
11 / 61

11話

しおりを挟む
広場で甘い果実菓子を頬張り、「美味しい!」と目を細めていたハルの背後に、突如として重苦しいほどの威圧感が漂った。


「……ふん。この甘ったるい空気の源は、ここか」


低く、地面を震わせるようなバリトンボイス。
ハルが驚いて振り返ると、そこには身長二メートルを優に超える、圧倒的な体格の男が立っていた。


燃えるような赤髪に、金の瞳。
そして、その頭上には力強い黒の縞模様が入った「虎」の耳が。
腰から伸びる太い尻尾は、苛立たしげに地面を叩いている。


「タイガ……! 隣国の王子が、何の用だ」


ギルバートが瞬時にハルの前に立ち、腰の剣に手をかけた。
カイルも、いつもの明るさを消して鋭い視線を向ける。


隣国・ガリア帝国の第一王子、タイガ。
この世界において「虎獣人」は、百獣の王たるライオンと双璧をなす最強の戦闘種族だ。
彼らは誇り高く、好戦的。特にガリア帝国の皇族は、その強すぎる力ゆえに「獣の衝動」も激しく、常に破壊の衝動と戦っていると言われている。


「挨拶に来ただけだ、ギルバート。我が帝国まで届いた『奇跡の癒やし香』の噂……それが本物かどうかをな」


タイガは鼻を鳴らし、ギルバートの肩越しにハルを鋭く射抜いた。
その瞳は野生の肉食獣そのもので、ハルは思わず息を呑む。
だが、彼がハルに一歩近づき、その香りを真っ向から浴びた瞬間。


「…………っ!?」


タイガの全身が、目に見えて震えた。
険しかった眉間が解け、猛々しく波打っていた魔力が、急速に凪いでいく。


「な……んだ、これは。……熱い鉄を流し込まれたような俺の脳が、溶けるように……静かになる……」


タイガの金の瞳が、トロンと潤んだ。
彼は我知らずハルの元へふらふらと歩み寄り、その大きな鼻をハルの首筋に寄せた。
そして、人目も憚らず深々と深呼吸を繰り返す。


「……っはぁ……。信じられん。……貴様、何者だ。俺の衝動を一瞬で鎮めるなど、そんなことが……」


「え、ええと……ハルです。あの、タイガさん、大丈夫ですか?」


ハルが恐る恐る手を伸ばし、タイガの大きな虎耳の先をちょんと触れる。
その瞬間、最強と謳われる虎の王子は、その場に膝をついた。


「……いい。……もっと、触れ。……その香りを、俺の魂の奥まで流し込め……」


タイガの尻尾が、まるで意思を持ったかのようにハルの足首に絡みつく。
それは彼なりの「絶対に逃さない」という、不器用で強引な所有の意思表示だった。


「おい、離せ! タイガ、ハル様に気安く触れるな!」
「そうだぞ! ハル様は俺たちの国の宝なんだ、他国の虎なんかに渡さない!」


ギルバートとカイルが左右からハルを奪い返そうとし、広場には一瞬で一触即発の空気が流れる。
虎の王子と、ライオンの団長、そして銀狼の騎士。
最強のもふもふたちが、ハルを中央に挟んで低く唸り声を上げ始めた。


「キュ!キュウー!(ボクのハル様なのにー!)」
フードの中からポポも抗議の声を上げる。


だが、ハルは困り顔で、タイガの頭をよしよしと撫で始めた。


「喧嘩はダメですよ。タイガさんも、疲れてるんですよね? よしよし……」


「…………っ」


ハルの優しい声と「癒やし」の撫で心地に、タイガはもはや反論する気力も失い、虎の耳をだらしなく横に倒して、ハルの腰にしがみついた。


「決めたぞ……。ハル、お前を我が帝国へ連れ帰る。俺の専属の『鎮静係』になれ。報酬は望むままに、城一つでもくれてやる」


「ええええっ!? 無理ですよ!」


「断断断断、断固拒否だ!」
ギルバートが絶叫に近い声を上げた。


平和だったお出かけは、隣国の王子の乱入により、さらなる大波乱の予感を孕み始めた。
ハルを巡るもふもふ争奪戦は、今や国境を超えて拡大しようとしていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

塩対応だった旦那様が記憶喪失になった途端溺愛してくるのですが

詩河とんぼ
BL
 貧乏伯爵家の子息であったノアは家を救うことを条件に、援助をしてくれることとなったラインドール公爵家の若気当主のレオンに嫁ぐこととなった。  塩対応で愛人がいるという噂のレオンやノアを嫌う義母の前夫人を見て、ほとんどの使用人たちはノアに嫌がらせをしていた。  そんな中、レオンが階段から転落し、レオンは記憶を失ってしまう。すると――

『君を幸せにする』と毎日プロポーズしてくるチート宮廷魔術師に、飽きられるためにOKしたら、なぜか溺愛が止まらない。

春凪アラシ
BL
「君を一生幸せにする」――その言葉が、これほど厄介だなんて思わなかった。 チート宮廷魔術師×うさぎ獣人の道具屋。
毎朝押しかけてプロポーズしてくる天才宮廷魔術師・シグに、うんざりしながらも返事をしてしまったうさぎ獣人の道具屋である俺・トア。 
でもこれは恋人になるためじゃない、“一目惚れの幻想を崩し、幻滅させて諦めさせる作戦”のはずだった。 ……なのに、なんでコイツ、飽きることなく俺の元に来るんだよ? 
“うさぎ獣人らしくない俺”に、どうしてそんな真っ直ぐな目を向けるんだ――? 見た目も性格も不釣り合いなふたりが織りなす、ちょっと不器用な異種族BL。 同じ世界観の「「世界一美しい僕が、初恋の一目惚れ軍人に振られました」僕の辞書に諦めはないので全力で振り向かせます」を投稿してます!トアも出てくるので良かったらご覧ください✨

【完結】みにくい勇者の子

バナナ男さん
BL
ある田舎町で農夫をしている平凡なおっさんである< ムギ >は、嫁なし!金なし!の寂しい生活を送っていた。 そんなある日、【 光の勇者様 】と呼ばれる英雄が、村の領主様に突然就任する事が決まり、村人達は総出で歓迎の準備をする事に。 初めて会うはずの光の勇者様。 しかし、何故かムギと目が合った瞬間、突然の暴挙に……?     光の勇者様 ✕ 農夫おっさんのムギです。  攻めはヤンデレ、暴走ロケット、意味不明。 受けは不憫受け(?)だと思いますので、ご注意下さい。ノリよくサクッと終わりますm(__)m 頭空っぽにして読んで頂けると嬉しいです。

強面若頭は、懐っこいナースの献身に抗えない ―極道、はじめての恋を処方される―

たら昆布
BL
ウブで堅物な極道若頭×明るいわんこ系看護師

αからΩになった俺が幸せを掴むまで

なの
BL
柴田海、本名大嶋海里、21歳、今はオメガ、職業……オメガの出張風俗店勤務。 10年前、父が亡くなって新しいお義父さんと義兄貴ができた。 義兄貴は俺に優しくて、俺は大好きだった。 アルファと言われていた俺だったがある日熱を出してしまった。 義兄貴に看病されるうちにヒートのような症状が… 義兄貴と一線を超えてしまって逃げ出した。そんな海里は生きていくためにオメガの出張風俗店で働くようになった。 そんな海里が本当の幸せを掴むまで…

異世界で孵化したので全力で推しを守ります

のぶしげ
BL
ある日、聞いていたシチュエーションCDの世界に転生してしまった主人公。推しの幼少期に出会い、魔王化へのルートを回避して健やかな成長をサポートしよう!と奮闘していく異世界転生BL 執着最強×人外美人BL

俺の居場所を探して

夜野
BL
 小林響也は炎天下の中辿り着き、自宅のドアを開けた瞬間眩しい光に包まれお約束的に異世界にたどり着いてしまう。 そこには怪しい人達と自分と犬猿の仲の弟の姿があった。 そこで弟は聖女、自分は弟の付き人と決められ、、、 このお話しは響也と弟が対立し、こじれて決別してそれぞれお互い的に幸せを探す話しです。 シリアスで暗めなので読み手を選ぶかもしれません。 遅筆なので不定期に投稿します。 初投稿です。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

処理中です...