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11話
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広場で甘い果実菓子を頬張り、「美味しい!」と目を細めていたハルの背後に、突如として重苦しいほどの威圧感が漂った。
「……ふん。この甘ったるい空気の源は、ここか」
低く、地面を震わせるようなバリトンボイス。
ハルが驚いて振り返ると、そこには身長二メートルを優に超える、圧倒的な体格の男が立っていた。
燃えるような赤髪に、金の瞳。
そして、その頭上には力強い黒の縞模様が入った「虎」の耳が。
腰から伸びる太い尻尾は、苛立たしげに地面を叩いている。
「タイガ……! 隣国の王子が、何の用だ」
ギルバートが瞬時にハルの前に立ち、腰の剣に手をかけた。
カイルも、いつもの明るさを消して鋭い視線を向ける。
隣国・ガリア帝国の第一王子、タイガ。
この世界において「虎獣人」は、百獣の王たるライオンと双璧をなす最強の戦闘種族だ。
彼らは誇り高く、好戦的。特にガリア帝国の皇族は、その強すぎる力ゆえに「獣の衝動」も激しく、常に破壊の衝動と戦っていると言われている。
「挨拶に来ただけだ、ギルバート。我が帝国まで届いた『奇跡の癒やし香』の噂……それが本物かどうかをな」
タイガは鼻を鳴らし、ギルバートの肩越しにハルを鋭く射抜いた。
その瞳は野生の肉食獣そのもので、ハルは思わず息を呑む。
だが、彼がハルに一歩近づき、その香りを真っ向から浴びた瞬間。
「…………っ!?」
タイガの全身が、目に見えて震えた。
険しかった眉間が解け、猛々しく波打っていた魔力が、急速に凪いでいく。
「な……んだ、これは。……熱い鉄を流し込まれたような俺の脳が、溶けるように……静かになる……」
タイガの金の瞳が、トロンと潤んだ。
彼は我知らずハルの元へふらふらと歩み寄り、その大きな鼻をハルの首筋に寄せた。
そして、人目も憚らず深々と深呼吸を繰り返す。
「……っはぁ……。信じられん。……貴様、何者だ。俺の衝動を一瞬で鎮めるなど、そんなことが……」
「え、ええと……ハルです。あの、タイガさん、大丈夫ですか?」
ハルが恐る恐る手を伸ばし、タイガの大きな虎耳の先をちょんと触れる。
その瞬間、最強と謳われる虎の王子は、その場に膝をついた。
「……いい。……もっと、触れ。……その香りを、俺の魂の奥まで流し込め……」
タイガの尻尾が、まるで意思を持ったかのようにハルの足首に絡みつく。
それは彼なりの「絶対に逃さない」という、不器用で強引な所有の意思表示だった。
「おい、離せ! タイガ、ハル様に気安く触れるな!」
「そうだぞ! ハル様は俺たちの国の宝なんだ、他国の虎なんかに渡さない!」
ギルバートとカイルが左右からハルを奪い返そうとし、広場には一瞬で一触即発の空気が流れる。
虎の王子と、ライオンの団長、そして銀狼の騎士。
最強のもふもふたちが、ハルを中央に挟んで低く唸り声を上げ始めた。
「キュ!キュウー!(ボクのハル様なのにー!)」
フードの中からポポも抗議の声を上げる。
だが、ハルは困り顔で、タイガの頭をよしよしと撫で始めた。
「喧嘩はダメですよ。タイガさんも、疲れてるんですよね? よしよし……」
「…………っ」
ハルの優しい声と「癒やし」の撫で心地に、タイガはもはや反論する気力も失い、虎の耳をだらしなく横に倒して、ハルの腰にしがみついた。
「決めたぞ……。ハル、お前を我が帝国へ連れ帰る。俺の専属の『鎮静係』になれ。報酬は望むままに、城一つでもくれてやる」
「ええええっ!? 無理ですよ!」
「断断断断、断固拒否だ!」
ギルバートが絶叫に近い声を上げた。
平和だったお出かけは、隣国の王子の乱入により、さらなる大波乱の予感を孕み始めた。
ハルを巡るもふもふ争奪戦は、今や国境を超えて拡大しようとしていた。
「……ふん。この甘ったるい空気の源は、ここか」
低く、地面を震わせるようなバリトンボイス。
ハルが驚いて振り返ると、そこには身長二メートルを優に超える、圧倒的な体格の男が立っていた。
燃えるような赤髪に、金の瞳。
そして、その頭上には力強い黒の縞模様が入った「虎」の耳が。
腰から伸びる太い尻尾は、苛立たしげに地面を叩いている。
「タイガ……! 隣国の王子が、何の用だ」
ギルバートが瞬時にハルの前に立ち、腰の剣に手をかけた。
カイルも、いつもの明るさを消して鋭い視線を向ける。
隣国・ガリア帝国の第一王子、タイガ。
この世界において「虎獣人」は、百獣の王たるライオンと双璧をなす最強の戦闘種族だ。
彼らは誇り高く、好戦的。特にガリア帝国の皇族は、その強すぎる力ゆえに「獣の衝動」も激しく、常に破壊の衝動と戦っていると言われている。
「挨拶に来ただけだ、ギルバート。我が帝国まで届いた『奇跡の癒やし香』の噂……それが本物かどうかをな」
タイガは鼻を鳴らし、ギルバートの肩越しにハルを鋭く射抜いた。
その瞳は野生の肉食獣そのもので、ハルは思わず息を呑む。
だが、彼がハルに一歩近づき、その香りを真っ向から浴びた瞬間。
「…………っ!?」
タイガの全身が、目に見えて震えた。
険しかった眉間が解け、猛々しく波打っていた魔力が、急速に凪いでいく。
「な……んだ、これは。……熱い鉄を流し込まれたような俺の脳が、溶けるように……静かになる……」
タイガの金の瞳が、トロンと潤んだ。
彼は我知らずハルの元へふらふらと歩み寄り、その大きな鼻をハルの首筋に寄せた。
そして、人目も憚らず深々と深呼吸を繰り返す。
「……っはぁ……。信じられん。……貴様、何者だ。俺の衝動を一瞬で鎮めるなど、そんなことが……」
「え、ええと……ハルです。あの、タイガさん、大丈夫ですか?」
ハルが恐る恐る手を伸ばし、タイガの大きな虎耳の先をちょんと触れる。
その瞬間、最強と謳われる虎の王子は、その場に膝をついた。
「……いい。……もっと、触れ。……その香りを、俺の魂の奥まで流し込め……」
タイガの尻尾が、まるで意思を持ったかのようにハルの足首に絡みつく。
それは彼なりの「絶対に逃さない」という、不器用で強引な所有の意思表示だった。
「おい、離せ! タイガ、ハル様に気安く触れるな!」
「そうだぞ! ハル様は俺たちの国の宝なんだ、他国の虎なんかに渡さない!」
ギルバートとカイルが左右からハルを奪い返そうとし、広場には一瞬で一触即発の空気が流れる。
虎の王子と、ライオンの団長、そして銀狼の騎士。
最強のもふもふたちが、ハルを中央に挟んで低く唸り声を上げ始めた。
「キュ!キュウー!(ボクのハル様なのにー!)」
フードの中からポポも抗議の声を上げる。
だが、ハルは困り顔で、タイガの頭をよしよしと撫で始めた。
「喧嘩はダメですよ。タイガさんも、疲れてるんですよね? よしよし……」
「…………っ」
ハルの優しい声と「癒やし」の撫で心地に、タイガはもはや反論する気力も失い、虎の耳をだらしなく横に倒して、ハルの腰にしがみついた。
「決めたぞ……。ハル、お前を我が帝国へ連れ帰る。俺の専属の『鎮静係』になれ。報酬は望むままに、城一つでもくれてやる」
「ええええっ!? 無理ですよ!」
「断断断断、断固拒否だ!」
ギルバートが絶叫に近い声を上げた。
平和だったお出かけは、隣国の王子の乱入により、さらなる大波乱の予感を孕み始めた。
ハルを巡るもふもふ争奪戦は、今や国境を超えて拡大しようとしていた。
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