異世界転生した俺のフェロモンが「全種族共通の特効薬」だった件 ~最強の獣人たちに囲まれて、毎日代わりばんこに可愛がられています~

たら昆布

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16話

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王宮の平穏な朝を切り裂いたのは、一通の赤い封書だった。
ハルが朝食を終えた頃、応接間に招かれたのは、燃えるような赤毛の長い髪を一つに束ねた、類まれなる美貌の男だった。

「……お初にお目に掛かります、聖域の癒やし手、ハル様。私は王宮外交官を務めております、狐獣人のリュカと申します」

リュカは、手にした扇を優雅に閉じ、深く一礼した。
その頭上には、ピンと立った三角形の大きな耳。そして背後には、陽光を浴びて黄金色に輝く、ふっさふさの巨大な尻尾が三本、優美に揺れている。

この世界において「狐獣人」は、知略と交渉術に長けた種族だ。他の肉食獣のような圧倒的な武力はないが、相手の心理を読み、言葉巧みに場を支配する「頭脳派」として、王宮の政治を司っている。

「外交官……。俺に何か用ですか?」

「単刀直入に申し上げましょう。ハル様、貴方のその『伝説の癒やし香』を、世界の平和のために貸していただきたいのです。具体的には、係争中の隣国との和平交渉に、私の『隣』で同席していただきたい」

リュカの言葉に、部屋の空気が一瞬で凍りついた。

「断る。リュカ、貴様……ハルを政治の道具にするつもりか!」

ギルバートが机を叩いて立ち上がる。背後のカイルやジークからも、隠しきれない殺気が漏れ出した。

「道具とは人聞きが悪い。ハル様がそこに座っているだけで、血気盛んな武闘派の王たちも牙を収めるでしょう。無駄な流血を抑え、世界を平穏に導く……これこそがハル様の本来あるべき『使い方』ではありませんか?」

リュカは冷徹な微笑を浮かべ、ハルに歩み寄った。
そして、ギルバートたちの制止をすり抜けるような滑らかな動きで、ハルの手を取り、その指先にそっと唇を寄せた。

「……ああ、なんと甘く、理性を狂わせる香りだ。……この香りを我が国の国益のためだけに独占するのは、あまりに惜しい。ハル様、貴方なら世界を変えられる」

リュカの金色の瞳が、獲物を狙うように細められる。
だが、ハルはその瞳の奥に、外交官としての冷徹さだけではない、深い「疲弊」の色を見逃さなかった。
狐獣人は感受性が強く、他人の悪意や殺意に敏感だ。交渉の最前線に立つ彼は、常に世界中のドロドロとした感情に晒され、精神を削り続けていたのだ。

「……リュカさん。貴方、すごく頭が痛そうですね」

「……えっ?」

ハルは、リュカの手に自分の手を重ね、そのまま彼に一歩近づいた。
ハルの「癒やし香」が、至近距離からリュカを包み込む。

「交渉とか、難しいことはよくわからないですけど……。そんなに辛そうな顔をしてるリュカさんを、放っておけません。……少しだけ、休みませんか?」

ハルがリュカの三本のふさふさな尻尾の付け根を、優しく「よしよし」と撫でる。

「っ……な、何を……っ、あ、あぁ……っ!?」

完璧な外交官の仮面が、音を立てて崩れ去った。
極上の癒やしが神経を駆け抜け、リュカは膝から崩れ落ちる。
自慢の三本の尻尾が、まるで意思を持ったかのようにハルの足元に絡みつき、情けないほど激しく左右に振れ始めた。

「……なんだ、この多幸感は。……交渉……? 国益……? どうでもいい、そんなことは……。ただ、この方の足元で、一生眠っていたい……」

「リュカ! 貴様まで骨抜きになりおって!」

タイガが呆れたように吐き捨てたが、その顔もまた、ハルの香りに当てられてどこか緩んでいる。

結局、リュカの「ハル外交利用計画」は、彼自身がハルの専属「癒やし中毒者」になったことで立ち消えとなった。
しかし、この一件でハルの存在はさらに広く知れ渡ることとなり、新たな影が王宮に近づきつつあった。
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