18 / 61
18話
しおりを挟む
王宮が金色の光に包まれる夜。今日はハルの「名誉国賓」就任を祝うための、公式な夜会が開かれていた。
「ハル様、完璧です。貴方の存在は、今夜の月よりも美しい」
ジークの手によって着せられたのは、深い紺色のベルベットに銀糸の刺繍を施した最高級の礼服。首元には「守護の魔石」があしらわれたチョーカーが、ハルの白い肌をより際立たせている。
ハルがギルバートに手を取られ、大広間の大階段に姿を見せた瞬間、数千人の貴族たちがひしめく会場が、水を打ったように静まり返った。
(うわぁ……みんな見てる……緊張する……)
ハルの不安に呼応するように、彼から放たれる「癒やし香」が、緊張という熱を帯びて会場全体にゆっくりと染み渡っていく。
その香りが貴族たちの鼻腔をくすぐった瞬間、会場のあちこちから、耐えきれないといった風な溜息と、膝をつく音が響き始めた。
「……おお、なんという慈愛に満ちた香りだ」
「あの方こそが、伝説の……。我が一族の衝動が、これほどまでに鎮まるとは……」
強面の軍人、誇り高き大貴族。普段は権力を競い合う彼らが、ハルの前ではただの「癒やしを求める獣」へと変貌し、次々と頭を垂れていく。
ハルの歩む道に沿って、獣人たちの耳や尻尾が敬意と恍惚で伏せられていく光景は、まさに奇跡だった。
だが、その華やかな熱気の裏側で。
「……ククッ、噂以上の出力だな。あの一振りの香りに、どれだけの金が動くことか」
会場の柱の影、一人の男がハルを「商品」を見る目で見つめていた。
彼は、表向きは商人を装っているが、実体は絶滅危惧種の獣人や、強力な魔力を持つ人間を攫い、闇のオークションに流す国際密輸組織『黒い牙(ブラックファング)』の幹部であった。
彼らにとって、ハルは「世界を救う聖人」などではない。
「瓶に詰めて薄めれば、一生遊んで暮らせる富を生む最高級の香料源」なのだ。
「……不快な臭いだ」
影の中で、銀髪の青年・フェンの瞳が氷のように鋭く光った。
隠密として気配を断っている彼は、会場に紛れ込んだ「捕食者の殺意」を敏感に察知していた。
「ハル様。……少し、俺から離れないでください」
影からそっとフェンの声が響き、ハルの足元に微かな魔力が走る。フェンが自身の魔力を使って、ハルの存在を「守護の影」で包み込んだのだ。
「フェンくん? ……うん、わかった。なんだか、空気が少しピリピリしてる気がする」
ハルの直感は正しかった。
夜会が最高潮に達し、ギルバートがハルをダンスに誘おうとしたその瞬間、会場の照明が一斉に、不自然なかき消え方をした。
「ハル!!」
ギルバートの叫び声。
闇の中で、特殊な「魔力封じの網」が投げられる音がする。
しかし、犯人たちがハルの体に触れるより先に、闇の中で銀色の火花が散った。
「……獲物に触れるな。……その汚い指を、今すぐ切り落としてやる」
冷徹な殺気を放つフェンの双剣が、暗闇の中で密輸組織の刺客を迎え撃つ。
同時に、タイガが虎の咆哮を上げ、ジークが影から黒い爪を突き出した。
「ハル様に手出しする愚か者には、死すら生温い絶望を与えてやろう」
守護する獣人たちの怒りが、夜会の静寂を野性的な咆哮へと塗り替えていく。
ハルの「癒やし」に救われた獣人たちが、今度は「全力の牙」を剥いて、自分たちの光を守るために立ち上がった。
「ハル様、完璧です。貴方の存在は、今夜の月よりも美しい」
ジークの手によって着せられたのは、深い紺色のベルベットに銀糸の刺繍を施した最高級の礼服。首元には「守護の魔石」があしらわれたチョーカーが、ハルの白い肌をより際立たせている。
ハルがギルバートに手を取られ、大広間の大階段に姿を見せた瞬間、数千人の貴族たちがひしめく会場が、水を打ったように静まり返った。
(うわぁ……みんな見てる……緊張する……)
ハルの不安に呼応するように、彼から放たれる「癒やし香」が、緊張という熱を帯びて会場全体にゆっくりと染み渡っていく。
その香りが貴族たちの鼻腔をくすぐった瞬間、会場のあちこちから、耐えきれないといった風な溜息と、膝をつく音が響き始めた。
「……おお、なんという慈愛に満ちた香りだ」
「あの方こそが、伝説の……。我が一族の衝動が、これほどまでに鎮まるとは……」
強面の軍人、誇り高き大貴族。普段は権力を競い合う彼らが、ハルの前ではただの「癒やしを求める獣」へと変貌し、次々と頭を垂れていく。
ハルの歩む道に沿って、獣人たちの耳や尻尾が敬意と恍惚で伏せられていく光景は、まさに奇跡だった。
だが、その華やかな熱気の裏側で。
「……ククッ、噂以上の出力だな。あの一振りの香りに、どれだけの金が動くことか」
会場の柱の影、一人の男がハルを「商品」を見る目で見つめていた。
彼は、表向きは商人を装っているが、実体は絶滅危惧種の獣人や、強力な魔力を持つ人間を攫い、闇のオークションに流す国際密輸組織『黒い牙(ブラックファング)』の幹部であった。
彼らにとって、ハルは「世界を救う聖人」などではない。
「瓶に詰めて薄めれば、一生遊んで暮らせる富を生む最高級の香料源」なのだ。
「……不快な臭いだ」
影の中で、銀髪の青年・フェンの瞳が氷のように鋭く光った。
隠密として気配を断っている彼は、会場に紛れ込んだ「捕食者の殺意」を敏感に察知していた。
「ハル様。……少し、俺から離れないでください」
影からそっとフェンの声が響き、ハルの足元に微かな魔力が走る。フェンが自身の魔力を使って、ハルの存在を「守護の影」で包み込んだのだ。
「フェンくん? ……うん、わかった。なんだか、空気が少しピリピリしてる気がする」
ハルの直感は正しかった。
夜会が最高潮に達し、ギルバートがハルをダンスに誘おうとしたその瞬間、会場の照明が一斉に、不自然なかき消え方をした。
「ハル!!」
ギルバートの叫び声。
闇の中で、特殊な「魔力封じの網」が投げられる音がする。
しかし、犯人たちがハルの体に触れるより先に、闇の中で銀色の火花が散った。
「……獲物に触れるな。……その汚い指を、今すぐ切り落としてやる」
冷徹な殺気を放つフェンの双剣が、暗闇の中で密輸組織の刺客を迎え撃つ。
同時に、タイガが虎の咆哮を上げ、ジークが影から黒い爪を突き出した。
「ハル様に手出しする愚か者には、死すら生温い絶望を与えてやろう」
守護する獣人たちの怒りが、夜会の静寂を野性的な咆哮へと塗り替えていく。
ハルの「癒やし」に救われた獣人たちが、今度は「全力の牙」を剥いて、自分たちの光を守るために立ち上がった。
61
あなたにおすすめの小説
塩対応だった旦那様が記憶喪失になった途端溺愛してくるのですが
詩河とんぼ
BL
貧乏伯爵家の子息であったノアは家を救うことを条件に、援助をしてくれることとなったラインドール公爵家の若気当主のレオンに嫁ぐこととなった。
塩対応で愛人がいるという噂のレオンやノアを嫌う義母の前夫人を見て、ほとんどの使用人たちはノアに嫌がらせをしていた。
そんな中、レオンが階段から転落し、レオンは記憶を失ってしまう。すると――
『君を幸せにする』と毎日プロポーズしてくるチート宮廷魔術師に、飽きられるためにOKしたら、なぜか溺愛が止まらない。
春凪アラシ
BL
「君を一生幸せにする」――その言葉が、これほど厄介だなんて思わなかった。
チート宮廷魔術師×うさぎ獣人の道具屋。
毎朝押しかけてプロポーズしてくる天才宮廷魔術師・シグに、うんざりしながらも返事をしてしまったうさぎ獣人の道具屋である俺・トア。
でもこれは恋人になるためじゃない、“一目惚れの幻想を崩し、幻滅させて諦めさせる作戦”のはずだった。
……なのに、なんでコイツ、飽きることなく俺の元に来るんだよ?
“うさぎ獣人らしくない俺”に、どうしてそんな真っ直ぐな目を向けるんだ――?
見た目も性格も不釣り合いなふたりが織りなす、ちょっと不器用な異種族BL。
同じ世界観の「「世界一美しい僕が、初恋の一目惚れ軍人に振られました」僕の辞書に諦めはないので全力で振り向かせます」を投稿してます!トアも出てくるので良かったらご覧ください✨
【完結】みにくい勇者の子
バナナ男さん
BL
ある田舎町で農夫をしている平凡なおっさんである< ムギ >は、嫁なし!金なし!の寂しい生活を送っていた。 そんなある日、【 光の勇者様 】と呼ばれる英雄が、村の領主様に突然就任する事が決まり、村人達は総出で歓迎の準備をする事に。 初めて会うはずの光の勇者様。 しかし、何故かムギと目が合った瞬間、突然の暴挙に……? 光の勇者様 ✕ 農夫おっさんのムギです。 攻めはヤンデレ、暴走ロケット、意味不明。 受けは不憫受け(?)だと思いますので、ご注意下さい。ノリよくサクッと終わりますm(__)m 頭空っぽにして読んで頂けると嬉しいです。
αからΩになった俺が幸せを掴むまで
なの
BL
柴田海、本名大嶋海里、21歳、今はオメガ、職業……オメガの出張風俗店勤務。
10年前、父が亡くなって新しいお義父さんと義兄貴ができた。
義兄貴は俺に優しくて、俺は大好きだった。
アルファと言われていた俺だったがある日熱を出してしまった。
義兄貴に看病されるうちにヒートのような症状が…
義兄貴と一線を超えてしまって逃げ出した。そんな海里は生きていくためにオメガの出張風俗店で働くようになった。
そんな海里が本当の幸せを掴むまで…
異世界で孵化したので全力で推しを守ります
のぶしげ
BL
ある日、聞いていたシチュエーションCDの世界に転生してしまった主人公。推しの幼少期に出会い、魔王化へのルートを回避して健やかな成長をサポートしよう!と奮闘していく異世界転生BL 執着最強×人外美人BL
俺の居場所を探して
夜野
BL
小林響也は炎天下の中辿り着き、自宅のドアを開けた瞬間眩しい光に包まれお約束的に異世界にたどり着いてしまう。
そこには怪しい人達と自分と犬猿の仲の弟の姿があった。
そこで弟は聖女、自分は弟の付き人と決められ、、、
このお話しは響也と弟が対立し、こじれて決別してそれぞれお互い的に幸せを探す話しです。
シリアスで暗めなので読み手を選ぶかもしれません。
遅筆なので不定期に投稿します。
初投稿です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる