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40話
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国境へと向かう旅路は、驚くほど快適だった。
最新の魔導技術を詰め込んだ超巨大な魔導馬車の中は、ハルの癒やし香で満たされ、外の荒野が嘘のような穏やかな時間が流れている。
「ハル様、お疲れではありませんか? 乾燥した空気に負けないよう、保湿効果の高い果実を冷やしておきました」
ジークが銀のトレイを差し出す。馬車の中だというのに、彼の給仕には一切の乱れがない。
「ありがとう、ジークさん。……でも、本当にみんな至れり尽くせりで、俺、座っているだけなのが申し訳ないくらいだよ」
ハルが苦笑しながら果実を口に運ぶと、その隣で「クッション役」を自称して離れないタイガが、大きな背中をさらにハルに寄せた。
「いいんだよ。ハルは大人しく座ってろ。俺がこうして結界を張ってりゃ、砂埃一つ入ってこねぇからな」
タイガはそう言って笑うが、その瞳は時折、窓の外に広がる故郷ガリア帝国の山並みを遠く見つめていた。ハルはそっと、タイガの逞しい腕に手を添える。
「……タイガさん。お父さんのこと、心配……?」
核心を突かれたタイガは一瞬だけ視線を泳がせたが、やがて小さく息を吐いた。
「……ああ。親父は、とにかく厳格な奴でさ。俺みたいな自由奔放な長男は、目障りでしかなかったはずなんだ。……それなのに、あんなに強かった親父が倒れたなんて、まだ信じられなくてな」
タイガの言葉には、息子としての複雑な愛憎と、消えない絆が滲んでいた。ハルは何も言わず、ただタイガの腕を優しくさすり続ける。その手の温もりが、タイガの焦燥をゆっくりと溶かしていく。
「大丈夫ですよ。俺、精一杯頑張りますから。タイガさんの大切なお父さんですもんね」
ハルの優しい声に、タイガは照れ隠しにガシガシと頭を掻いた。
「……おう! ありがとな、ハル。お前がそう言ってくれるなら、親父も一発で目が覚めるはずだぜ」
夕刻になり、一行は国境付近で野営をすることになった。
ハルは「俺にやらせて」と自分から火の前に立ち、旅の疲れを癒やす特製スープを作り始める。その香りが広がると、ピリついていた護衛の騎士たちの表情が一気に緩んでいった。
すると、ガリア側の国境警備隊が、不審な大軍――実態は超豪華な特使団――に気づき、殺気立って駆け寄ってきた。
「止まれ! 貴様ら、この鉄血の国ガリアに何用だ!」
屈強な虎の獣人たちが武器を構える。一触即発の空気。しかし、ハルが鍋を持ったまま「あ、こんばんは」と微笑んだ瞬間、すべてが変わった。
「(……っ、なんだ、この清らかな香りは……!?)」
「(怒りが……闘争本能が、消えていく……?)」
武器を下ろし、呆然とする警備隊。そこへ、馬車からタイガが悠然と姿を現した。
「おい、久しぶりだな。俺が誰だか、忘れたわけじゃねぇだろ?」
「タ、タイガ第一王子殿下……!? それに、そのお隣の御方は……!?」
最強の将兵たちが、ハルの癒やし香とタイガの威圧感の前に、吸い寄せられるように跪く。国境の殺伐とした空気は、ハルの笑顔一つで、瞬く間に「歓迎の祝宴」へと塗り替えられてしまった。
「キュイッ!(ボクが一番にお友達になってあげるよ!)」
ポポがハルの肩から飛び出し、強面の兵士の頭にちょこんと乗る。
こうして、恐れられる軍事国家ガリアの門は、一人の優しい人間と一匹の小動物によって、実にあっさりと開かれることになった。
最新の魔導技術を詰め込んだ超巨大な魔導馬車の中は、ハルの癒やし香で満たされ、外の荒野が嘘のような穏やかな時間が流れている。
「ハル様、お疲れではありませんか? 乾燥した空気に負けないよう、保湿効果の高い果実を冷やしておきました」
ジークが銀のトレイを差し出す。馬車の中だというのに、彼の給仕には一切の乱れがない。
「ありがとう、ジークさん。……でも、本当にみんな至れり尽くせりで、俺、座っているだけなのが申し訳ないくらいだよ」
ハルが苦笑しながら果実を口に運ぶと、その隣で「クッション役」を自称して離れないタイガが、大きな背中をさらにハルに寄せた。
「いいんだよ。ハルは大人しく座ってろ。俺がこうして結界を張ってりゃ、砂埃一つ入ってこねぇからな」
タイガはそう言って笑うが、その瞳は時折、窓の外に広がる故郷ガリア帝国の山並みを遠く見つめていた。ハルはそっと、タイガの逞しい腕に手を添える。
「……タイガさん。お父さんのこと、心配……?」
核心を突かれたタイガは一瞬だけ視線を泳がせたが、やがて小さく息を吐いた。
「……ああ。親父は、とにかく厳格な奴でさ。俺みたいな自由奔放な長男は、目障りでしかなかったはずなんだ。……それなのに、あんなに強かった親父が倒れたなんて、まだ信じられなくてな」
タイガの言葉には、息子としての複雑な愛憎と、消えない絆が滲んでいた。ハルは何も言わず、ただタイガの腕を優しくさすり続ける。その手の温もりが、タイガの焦燥をゆっくりと溶かしていく。
「大丈夫ですよ。俺、精一杯頑張りますから。タイガさんの大切なお父さんですもんね」
ハルの優しい声に、タイガは照れ隠しにガシガシと頭を掻いた。
「……おう! ありがとな、ハル。お前がそう言ってくれるなら、親父も一発で目が覚めるはずだぜ」
夕刻になり、一行は国境付近で野営をすることになった。
ハルは「俺にやらせて」と自分から火の前に立ち、旅の疲れを癒やす特製スープを作り始める。その香りが広がると、ピリついていた護衛の騎士たちの表情が一気に緩んでいった。
すると、ガリア側の国境警備隊が、不審な大軍――実態は超豪華な特使団――に気づき、殺気立って駆け寄ってきた。
「止まれ! 貴様ら、この鉄血の国ガリアに何用だ!」
屈強な虎の獣人たちが武器を構える。一触即発の空気。しかし、ハルが鍋を持ったまま「あ、こんばんは」と微笑んだ瞬間、すべてが変わった。
「(……っ、なんだ、この清らかな香りは……!?)」
「(怒りが……闘争本能が、消えていく……?)」
武器を下ろし、呆然とする警備隊。そこへ、馬車からタイガが悠然と姿を現した。
「おい、久しぶりだな。俺が誰だか、忘れたわけじゃねぇだろ?」
「タ、タイガ第一王子殿下……!? それに、そのお隣の御方は……!?」
最強の将兵たちが、ハルの癒やし香とタイガの威圧感の前に、吸い寄せられるように跪く。国境の殺伐とした空気は、ハルの笑顔一つで、瞬く間に「歓迎の祝宴」へと塗り替えられてしまった。
「キュイッ!(ボクが一番にお友達になってあげるよ!)」
ポポがハルの肩から飛び出し、強面の兵士の頭にちょこんと乗る。
こうして、恐れられる軍事国家ガリアの門は、一人の優しい人間と一匹の小動物によって、実にあっさりと開かれることになった。
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