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55話
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第一の綻びである泉を浄化した後、聖域を覆っていた凍てつく吹雪は完全に止んでいた。しかし、ハルの身体には、無自覚に聖者のフェロモンを放出し続けたことによる、深い倦怠感と熱っぽさが残っていた。
「……う、なんだか、身体に力が入らなくて……」
ハルが膝を折りそうになった瞬間、ギルバートの逞しい腕が迷わずその腰を抱き止めた。
「無理をするな、ハル。自分の『力』をあれほど解放したんだ、無理もない。……このまま運んでやる」
「えっ、でも、悪いよ……歩けると思うし……」
「騎士の言葉に従え。お前の安全を確保するのが俺の任務だ」
ギルバートは異論を許さない力強さで、ハルの膝裏に腕を通し、軽々と「お姫様抱っこ」の体勢で抱え上げた。ライオンの獣人としての熱い体温が、マント越しにハルの身体に伝わってくる。ハルは抗う元気もなく、観念して彼の首に腕を回した。
一方、双子門の外では、残された守護者たちが焦燥感の中で門を見つめていた。結界が消滅した合図と共に、霧の向こうからギルバートが姿を現す。だが、その光景は他のメンバーにとって、心穏やかでないものだった。
「……ハル様! 大丈夫ですか!」
真っ先に駆け寄ったカイルが、ギルバートの腕の中でぐったりとしているハルを見て顔を強張らせた。ポポも「キュイッ!?」と叫び、心配そうにハルの顔を覗き込む。
「案ずるな、綻びは浄化した。ハルは少しばかり、その身に宿る聖なる力……『香り』を使いすぎただけだ」
ギルバートはハルを抱きかかえたまま、一歩も譲る気配を見せない。それどころか、彼はわざとらしくハルの顔を自分の方へ寄せ、周囲の守護者たちに聞こえるような声で淡々と告げた。
「あの窮地で、ハルは俺を信じ、その力の全てを俺に預けてくれた。……そのおかげで、俺の剣にはこれまでにない加護が宿ったようだ。見ての通り、傷一つ残っていないだろう?」
ギルバートは、浄化されたばかりの傷のない肩を敢えて晒し、泰然自若とした態度を取る。それは表面上は戦況報告であったが、獣人としての本能からすれば「俺だけがこの香りを浴び、選ばれたのだ」という、これ以上ないほど雄弁な自慢であった。
フェンが微かに目を細め、ギルバートの体から漂う、ハルのものと同じ甘い残り香を敏感に嗅ぎ取った。
「……団長。報告は結構ですが、いつまでハル様をそうしているつもりですか。俺が代わりましょう」
「いや、ハルの脈動はまだ安定していない。俺の腕の中が最も落ち着くようだ。……そうだろう、ハル?」
「えっ……あ、うん。ギルバートさん、すごく温かくて……」
ハルが朦朧としながら答えると、カイルの背後に黒いオーラが立ち上り、ヨシュアは「ずるい……僕だってハルの役に立ちたかったのに」と不満げに頬を膨らませた。
ギルバートは、他のメンバーの刺すような視線を涼しい顔で受け流しながら、勝利者の余裕を湛えてハルを抱き直した。
「次は誰が行くのかは知らんが……ハルの力を引き出すには、相当な信頼と覚悟が必要だぞ。俺のように、な」
不器用な騎士団長による、精一杯の独占の示威。それは、これから続く「7つの綻び」を巡る、守護者たちの激しい争奪戦の幕開けでもあった。
ハルの身体から漂う、かすかな安らぎの香りが、残された者たちの心を静かに、けれど激しく燃え上がらせていた。
「……う、なんだか、身体に力が入らなくて……」
ハルが膝を折りそうになった瞬間、ギルバートの逞しい腕が迷わずその腰を抱き止めた。
「無理をするな、ハル。自分の『力』をあれほど解放したんだ、無理もない。……このまま運んでやる」
「えっ、でも、悪いよ……歩けると思うし……」
「騎士の言葉に従え。お前の安全を確保するのが俺の任務だ」
ギルバートは異論を許さない力強さで、ハルの膝裏に腕を通し、軽々と「お姫様抱っこ」の体勢で抱え上げた。ライオンの獣人としての熱い体温が、マント越しにハルの身体に伝わってくる。ハルは抗う元気もなく、観念して彼の首に腕を回した。
一方、双子門の外では、残された守護者たちが焦燥感の中で門を見つめていた。結界が消滅した合図と共に、霧の向こうからギルバートが姿を現す。だが、その光景は他のメンバーにとって、心穏やかでないものだった。
「……ハル様! 大丈夫ですか!」
真っ先に駆け寄ったカイルが、ギルバートの腕の中でぐったりとしているハルを見て顔を強張らせた。ポポも「キュイッ!?」と叫び、心配そうにハルの顔を覗き込む。
「案ずるな、綻びは浄化した。ハルは少しばかり、その身に宿る聖なる力……『香り』を使いすぎただけだ」
ギルバートはハルを抱きかかえたまま、一歩も譲る気配を見せない。それどころか、彼はわざとらしくハルの顔を自分の方へ寄せ、周囲の守護者たちに聞こえるような声で淡々と告げた。
「あの窮地で、ハルは俺を信じ、その力の全てを俺に預けてくれた。……そのおかげで、俺の剣にはこれまでにない加護が宿ったようだ。見ての通り、傷一つ残っていないだろう?」
ギルバートは、浄化されたばかりの傷のない肩を敢えて晒し、泰然自若とした態度を取る。それは表面上は戦況報告であったが、獣人としての本能からすれば「俺だけがこの香りを浴び、選ばれたのだ」という、これ以上ないほど雄弁な自慢であった。
フェンが微かに目を細め、ギルバートの体から漂う、ハルのものと同じ甘い残り香を敏感に嗅ぎ取った。
「……団長。報告は結構ですが、いつまでハル様をそうしているつもりですか。俺が代わりましょう」
「いや、ハルの脈動はまだ安定していない。俺の腕の中が最も落ち着くようだ。……そうだろう、ハル?」
「えっ……あ、うん。ギルバートさん、すごく温かくて……」
ハルが朦朧としながら答えると、カイルの背後に黒いオーラが立ち上り、ヨシュアは「ずるい……僕だってハルの役に立ちたかったのに」と不満げに頬を膨らませた。
ギルバートは、他のメンバーの刺すような視線を涼しい顔で受け流しながら、勝利者の余裕を湛えてハルを抱き直した。
「次は誰が行くのかは知らんが……ハルの力を引き出すには、相当な信頼と覚悟が必要だぞ。俺のように、な」
不器用な騎士団長による、精一杯の独占の示威。それは、これから続く「7つの綻び」を巡る、守護者たちの激しい争奪戦の幕開けでもあった。
ハルの身体から漂う、かすかな安らぎの香りが、残された者たちの心を静かに、けれど激しく燃え上がらせていた。
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