異世界転生した俺のフェロモンが「全種族共通の特効薬」だった件 ~最強の獣人たちに囲まれて、毎日代わりばんこに可愛がられています~

たら昆布

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56話

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ハルがギルバートの腕に抱かれたまま拠点へ戻ってから、数時間が経過した。聖域の綻びを浄化する際に無自覚に「聖者のフェロモン」を放出した代償は大きく、ハルは深い眠りの中にいた。

「……ハル様の熱、なかなか下がりませんね。やはり、あの短時間で膨大な理を書き換えた反動でしょう」

ジークが濡らしたタオルをハルの額に置きながら、静かに告げた。その横では、カイルが今にも代わってやりたそうに拳を握りしめ、フェンは壁に背を預けたまま、鋭い視線をギルバートへと向けていた。

「団長。ハル様を無事に連れ戻したことには感謝しますが……少し、当てられすぎではありませんか。貴方のマントから、まだハル様の香りが強く漂っています」

フェンの冷徹な指摘に、ギルバートは腕組みをしたままフンと鼻を鳴らした。

「任務を遂行した結果だ。不可抗力だろう。……それに、ハルがあの状況で俺に力を貸してくれた事実は変わらん」

「それは『俺にだけ』力を貸した、と言いたいのですか? 騎士団長ともあろうお方が、子供じみた優越感に浸るのは感心しませんね」

カイルの声には、隠しきれない嫉妬の火が混じっている。ハルから漂う、浄化後の清々しくも甘い残り香は、獣人である彼らの本能を静かに、けれど確実に刺激し続けていた。

そんな大人たちの殺伐とした空気を切り裂くように、ヨシュアがハルのベッドサイドへ歩み寄った。彼はハルの手をそっと握り、その熱を確かめるように自分の額を近づける。

「……ハル。ごめんね、僕、門の外で待ってることしかできなくて。ギルバートさんが自慢するたびに、僕、すごく自分が情けなくなるんだ」

ヨシュアの瞳には、かつてハルが植物の魔物に襲われた際、自分の魔法が届かず、ハルに怖い思いをさせてしまった時の記憶が色濃く影を落としていた。あの時、力不足で守れなかったという悔恨は、幼い魔導師の心に深い傷を残している。

「……ヨシュア……くん……?」

ハルが微かに目を開け、焦点の定まらない瞳でヨシュアを見つめた。ヨシュアはハッと息を呑み、力強くその手を握り返す。

「ハル! 起きたの? 具合はどう? どこか痛いところはない?」

「……大丈夫。少し、身体が熱いだけ……。みんな、いてくれたんだね」

ハルが弱々しく微笑むと、部屋の中に充満していた緊張感がわずかに和らいだ。ハルから溢れる香りは、今は攻撃的なものではなく、側にいる者たちを包み込むような、穏やかで柔らかなものへと変わっている。

「キュイ……キュイッ!」

ポポがハルの胸元に潜り込み、顔を擦り寄せる。ハルはその小さな頭を撫でながら、改めて仲間たちの顔を見渡した。

「ギルバートさん、助けてくれてありがとう。……みんなも、心配かけてごめんね。俺、早く元気になって、次の場所も直したいんだ」

ハルの真っ直ぐな言葉に、誰もが言葉を失った。自分たちが独占欲や嫉妬に駆られている間も、ハルはこの世界と自分たちを救うことだけを考えていたのだ。

「……次の目的地は、南の『大樹の回廊』です。そこは植物の魔力が異常増殖し、迷宮と化した森。ハル様、貴方の浄化の力が最も必要とされる場所ですが……同時に、物理的な攻撃よりも魔法的な干渉が強い場所でもあります」

ジークの説明を聞き、ヨシュアが誰よりも早く顔を上げた。

「……次は、僕が行く。僕の魔法なら、植物の暴走を止められる。……それに、今度こそ僕がハルを守るって、決めてるんだ」

ヨシュアの言葉には、いつもの無邪気さだけではない、悲壮なまでの決意が宿っていた。かつて守れなかった過去を払拭するために、彼は自ら志願したのだ。

ハルはヨシュアの震える手の上に、自分の手を重ねた。

「……うん。ヨシュアくん、一緒に行こう。君がいてくれたら、俺、百人力だよ」

ハルのその信頼に満ちた言葉が、ヨシュアにとっての何よりの救いであり、そして新たな試練の始まりでもあった。

拠点の夜は更けていく。ハルの熱が下がるのを待つ間、守護者たちはそれぞれに、自分とハルとの絆を、そして次の戦いを見据えていた。
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