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2話
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「……ちょっと、離してください! 担がないで! 俺は米袋じゃないんです!」
「黙れ。逃がすわけがないだろう。これほどの……これほどの『香ばしさ』を、野放しにできるはずがない」
ガイ団長の声は低く、そしてひどく真剣だった。
だが、その真剣さは「愛しい人を守りたい」という騎士の決意ではなく、「今すぐ網を持ってこい」というバーベキュー奉行のそれである。
タクミはガイの逞しい肩に担がれたまま、ガタゴトと揺られていた。
視界に入るのは、ガイのよく鍛えられたお尻と、その後ろをぞろぞろとついてくる部下の騎士たちの顔だ。
騎士たちは皆、一様に頬を赤らめ、口元を緩ませている。
本来なら美形騎士たちの熱い視線を浴びるという、BL的には最高潮のシチュエーションのはずなのだが……。
「……なぁ、副団長。あの少年が動くたびに、タレの焦げる匂いが強くなってないか?」
「ああ。特にあのエプロンのあたり……あそこが一番、脂が乗っている気がする……」
「団長、ずるいですよ。自分だけ特等席(肩)で匂いを独占するなんて」
(聞こえてるぞ! 全部聞こえてるからな、お前ら!!)
タクミはエプロンのロゴを握りしめ、心の中で絶叫した。
どうやら自分から放たれている『誘惑』スキルは、女神の怠慢によって完全に『飯テロ』スキルへと変換されているらしい。
一行が到着したのは、巨大な石造りの城塞――聖騎士団の本部だった。
威風堂々としたその門をくぐり、タクミが降ろされたのは、あろうことか豪華な応接室……ではなく、広大な『食堂』の真ん中だった。
「団長、お帰りなさいませ! ちょうど夕食の準備を――って、なんですか、その……美味しそうな子供は」
厨房から出てきた料理番の男が、お玉を握ったまま硬直した。
タクミが「あ、どうも……」と力なく手を振ると、料理番の鼻がピクピクと激しく動く。
「……っ!! 炭火……! 備長炭でじっくり焼き上げられた、極上のカルビとロースの……っ!」
「そうだろう、ダグラス。この少年は森で拾った。いや、天から降ってきた『奇跡』だ」
ガイがドカッと椅子に座り、タクミを隣の席(というより、ほとんど自分の膝の上に近い距離)に座らせた。
「あの、ガイさん……。さっきから『匂い』の話ばっかりですけど、俺、人間ですよ? 食べられませんよ?」
「分かっている。安心しろ。我ら聖騎士団は、規律を重んじる。いくら美味そうだからといって、生身の人間を齧るような真似はせん」
「そ、そうですか。それなら良かった……」
タクミがホッと胸をなでおろした、その瞬間だった。
「だが」
ガイが、タクミの手首をそっと掴んだ。
その指先が、タクミの肌を優しくなぞる。一瞬、タクミの心臓が跳ねた。
え、何。今の間、ちょっとドキッとしたんだけど。もしかして、ついにBL展開が来る!?
ガイは至近距離でタクミの目を見つめ、熱っぽく囁いた。
「この匂いだけで、パンが十個は食える。少年、お前はそこに座っているだけでいい。俺が食事を終えるまで、ずっとだ」
「…………。……はい?」
「ダグラス! 今すぐありったけのパンと、味の薄いスープを持ってこい! おかずはこの少年(の匂い)だ!!」
「イエス・サー! 最高のコンディションで提供します!!」
「おいふざけんな!!」
タクミのツッコミも虚しく、食堂には次々と山盛りのパンが運ばれてきた。
ガイをはじめとする騎士たちが、タクミを円状に囲む。
そして彼らは、一心不乱にパンを口に運び、タクミの方を向いて思いっきり鼻から空気を吸い込み、「う、美味い……! 肉だ、肉の味がする……!」と涙を流して食事を始めた。
シュールすぎる。
あまりにもシュールな光景に、タクミは遠い目をした。
「……女神様、聞いてるか。俺、転生して初日の夜が『騎士団のおかず』なんだけど。これ、なんていうプレイ?」
当然、女神からの返答はない。
隣ではガイが、幸せそうな顔をしてカサカサのパンを頬張っている。
「……なあ、少年。名前は何という?」
「……タクミです」
「そうか、タクミ。お前は今日から、この騎士団の『特級重要保護対象』だ」
「それ、要するに『非常食』って意味じゃないですよね?」
「まさか。お前を食うなんて勿体ない。ずっと傍に置いて、毎食のクオリティを上げてもらう」
ガイの瞳に宿っているのは、確かに「離したくない」という強い意志だった。
それは執着といえば執着だが、その根源が「食費の節約」と「幸福な食卓」にあると思うと、タクミは怒る気力も失せてくる。
「……はぁ。もう好きにしてくださいよ」
「話が早くて助かる。よし、今夜は俺の部屋で寝ろ」
「……えっ?」
ようやくパンを完食したガイが、何気ない風に言った。
タクミの顔が、一気に熱くなる。
「いや、部屋って……それは流石に、マズくないですか? その、俺も男だし、ガイさんも男だし……」
「何がマズいんだ? お前の匂いを嗅ぎながら寝れば、きっといい夢(焼肉パーティーの夢)が見られる。安眠には最高だ」
「結局、食欲かよ!!」
タクミの貞操(?)の危機は、まだ先になりそうだった。
しかし、ガイがタクミを見る目は、空腹だけではなく、ほんの少しだけ「得体の知れない愛着」が混ざり始めていることに、二人ともまだ気づいていない。
こうして、タクミの「寝ても覚めても飯テロ」な日々が本格的にスタートした。
「黙れ。逃がすわけがないだろう。これほどの……これほどの『香ばしさ』を、野放しにできるはずがない」
ガイ団長の声は低く、そしてひどく真剣だった。
だが、その真剣さは「愛しい人を守りたい」という騎士の決意ではなく、「今すぐ網を持ってこい」というバーベキュー奉行のそれである。
タクミはガイの逞しい肩に担がれたまま、ガタゴトと揺られていた。
視界に入るのは、ガイのよく鍛えられたお尻と、その後ろをぞろぞろとついてくる部下の騎士たちの顔だ。
騎士たちは皆、一様に頬を赤らめ、口元を緩ませている。
本来なら美形騎士たちの熱い視線を浴びるという、BL的には最高潮のシチュエーションのはずなのだが……。
「……なぁ、副団長。あの少年が動くたびに、タレの焦げる匂いが強くなってないか?」
「ああ。特にあのエプロンのあたり……あそこが一番、脂が乗っている気がする……」
「団長、ずるいですよ。自分だけ特等席(肩)で匂いを独占するなんて」
(聞こえてるぞ! 全部聞こえてるからな、お前ら!!)
タクミはエプロンのロゴを握りしめ、心の中で絶叫した。
どうやら自分から放たれている『誘惑』スキルは、女神の怠慢によって完全に『飯テロ』スキルへと変換されているらしい。
一行が到着したのは、巨大な石造りの城塞――聖騎士団の本部だった。
威風堂々としたその門をくぐり、タクミが降ろされたのは、あろうことか豪華な応接室……ではなく、広大な『食堂』の真ん中だった。
「団長、お帰りなさいませ! ちょうど夕食の準備を――って、なんですか、その……美味しそうな子供は」
厨房から出てきた料理番の男が、お玉を握ったまま硬直した。
タクミが「あ、どうも……」と力なく手を振ると、料理番の鼻がピクピクと激しく動く。
「……っ!! 炭火……! 備長炭でじっくり焼き上げられた、極上のカルビとロースの……っ!」
「そうだろう、ダグラス。この少年は森で拾った。いや、天から降ってきた『奇跡』だ」
ガイがドカッと椅子に座り、タクミを隣の席(というより、ほとんど自分の膝の上に近い距離)に座らせた。
「あの、ガイさん……。さっきから『匂い』の話ばっかりですけど、俺、人間ですよ? 食べられませんよ?」
「分かっている。安心しろ。我ら聖騎士団は、規律を重んじる。いくら美味そうだからといって、生身の人間を齧るような真似はせん」
「そ、そうですか。それなら良かった……」
タクミがホッと胸をなでおろした、その瞬間だった。
「だが」
ガイが、タクミの手首をそっと掴んだ。
その指先が、タクミの肌を優しくなぞる。一瞬、タクミの心臓が跳ねた。
え、何。今の間、ちょっとドキッとしたんだけど。もしかして、ついにBL展開が来る!?
ガイは至近距離でタクミの目を見つめ、熱っぽく囁いた。
「この匂いだけで、パンが十個は食える。少年、お前はそこに座っているだけでいい。俺が食事を終えるまで、ずっとだ」
「…………。……はい?」
「ダグラス! 今すぐありったけのパンと、味の薄いスープを持ってこい! おかずはこの少年(の匂い)だ!!」
「イエス・サー! 最高のコンディションで提供します!!」
「おいふざけんな!!」
タクミのツッコミも虚しく、食堂には次々と山盛りのパンが運ばれてきた。
ガイをはじめとする騎士たちが、タクミを円状に囲む。
そして彼らは、一心不乱にパンを口に運び、タクミの方を向いて思いっきり鼻から空気を吸い込み、「う、美味い……! 肉だ、肉の味がする……!」と涙を流して食事を始めた。
シュールすぎる。
あまりにもシュールな光景に、タクミは遠い目をした。
「……女神様、聞いてるか。俺、転生して初日の夜が『騎士団のおかず』なんだけど。これ、なんていうプレイ?」
当然、女神からの返答はない。
隣ではガイが、幸せそうな顔をしてカサカサのパンを頬張っている。
「……なあ、少年。名前は何という?」
「……タクミです」
「そうか、タクミ。お前は今日から、この騎士団の『特級重要保護対象』だ」
「それ、要するに『非常食』って意味じゃないですよね?」
「まさか。お前を食うなんて勿体ない。ずっと傍に置いて、毎食のクオリティを上げてもらう」
ガイの瞳に宿っているのは、確かに「離したくない」という強い意志だった。
それは執着といえば執着だが、その根源が「食費の節約」と「幸福な食卓」にあると思うと、タクミは怒る気力も失せてくる。
「……はぁ。もう好きにしてくださいよ」
「話が早くて助かる。よし、今夜は俺の部屋で寝ろ」
「……えっ?」
ようやくパンを完食したガイが、何気ない風に言った。
タクミの顔が、一気に熱くなる。
「いや、部屋って……それは流石に、マズくないですか? その、俺も男だし、ガイさんも男だし……」
「何がマズいんだ? お前の匂いを嗅ぎながら寝れば、きっといい夢(焼肉パーティーの夢)が見られる。安眠には最高だ」
「結局、食欲かよ!!」
タクミの貞操(?)の危機は、まだ先になりそうだった。
しかし、ガイがタクミを見る目は、空腹だけではなく、ほんの少しだけ「得体の知れない愛着」が混ざり始めていることに、二人ともまだ気づいていない。
こうして、タクミの「寝ても覚めても飯テロ」な日々が本格的にスタートした。
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