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4話
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「……ええい、離せと言っているだろう! この少年は、我がアルカディア騎士団が保護した重要機密事項だ!」
食堂のど真ん中で、ガイ団長がカシアン副団長の襟足を掴んで引き剥がしていた。
その中心に立たされているタクミは、もはや無の境地である。
現在、騎士団の食堂はカオスと化していた。
並んでいるのは、質素な麦の粥と、少しの塩漬け野菜。本来なら「朝からこれはキついな……」とテンションが下がるメニューだが、タクミがそこに立っているだけで、騎士たちの目には豪華な「牛丼・特盛」に見えているらしい。
「いいですか団長、タクミ君を食堂の換気口付近に立たせるだけで、団員たちの士気は通常の三倍になるんです! これは軍事革命ですよ!」
「やかましい! タクミの匂いが薄まるだろうが! そんなに嗅ぎたければ、俺の許可証を取れ!」
(許可証って何だよ……。俺は観光名所か?)
タクミが心の中で盛大なツッコミを入れていると、食堂の重厚な扉が再び開いた。
そこへ現れたのは、これまでの脳筋騎士たちとは明らかに毛色の違う、シュッとした細身の男だった。
「――お騒がせしております。聖騎士団の方々が朝からこれほど熱狂されているとは。一体どんな『秘宝』を隠し持っておられるのかと思えば……」
男は、隣国・レムリア公国の特使である。
名はルウェリン。眼鏡の奥の瞳が、いかにも「計算高いです」という光を放っている。
ガイが即座にタクミを自分の背後に隠した。
「レムリアの特使か。……見ての通り、ただの迷い子を保護しただけだ。貴公に関係のあることではない」
「ほう……? ただの迷い子、ですか」
ルウェリンが、すっと鼻を鳴らした。
次の瞬間、彼の眼鏡がキラリと不敵に光る。
「……嘘をおっしゃい。今、私の嗅覚が捉えたこの芳香。これは我が国に伝わる古文書にある『聖なる琥珀の滴(秘伝のタレ)』の香りに酷似している。その背後にいる少年……彼こそが、伝説の『神の厨房』の鍵を握る者ではありませんか?」
「……ちっ。鼻の利く野郎だ」
ガイが忌々しそうに舌打ちする。
タクミは背後からそっと顔を出して、思わずルウェリンに話しかけた。
「あの、すみません。さっきから『神の厨房』とか『秘宝』とか言ってますけど、俺、ただの元・焼肉屋の店員ですよ? その、タレの匂いがするのはスキルのバグらしくて……」
「なんと! 自覚がないとは! これほどの芳醇な熟成香を放ちながら、なんという謙虚さ……! 素晴らしい、ぜひ我が国へお越しください。最高の調理器具と、最高級の米をご用意しましょう!」
「米!? 今、米って言いました!?」
タクミの目が輝いた。
この異世界に来てから、パンと粥ばかりで、白いご飯が恋しくてたまらなかったのだ。
しかし、その言葉に反応したのはガイも同じだった。
ガイはタクミの腰をグイと引き寄せ、ルウェリンを睨みつける。
「断る。タクミは俺が……いや、我が騎士団が先に契約(?)したのだ。米など、我が国でも用意できる!」
「おやおや、アルカディア王国は慢性的な米不足のはず。そんな貴重な資源を、たかが一人の少年のために放出できるのですか?」
「……ぐぬぬ……」
ガイが言葉に詰まる。
実際、この国での米は金と同等の価値がある高級品だ。
タクミは、二人の男が自分を挟んで火花を散らしている光景に、少しだけ「おっ、これは奪い合い的なBLイベントか?」と期待してみる。
だが、現実は非情だった。
「タクミ君。我が国へ来れば、君を『特級調理補助・兼・芳香剤』として爵位を与えてもいい」
「芳香剤……。やっぱり人間扱いじゃないんですね」
「タクミ! 惑わされるな! 米なら……米なら俺が、隣の農村まで行って、力ずくで(?)耕してきてやる!」
「団長、それは公務執行妨害です!」
カシアンのツッコミが飛ぶ中、ガイはタクミを抱きかかえ、そのまま食堂を後にした。
足早に廊下を歩くガイの腕は、少しだけ震えているようにも見えた。
「……タクミ」
「はい?」
「……あんな奴に、ついていくなよ。米に釣られるな。お前は……俺の傍にいろ」
「ガイさん……」
(え、何。この急な甘い雰囲気。ガイさん、もしかして少しは俺のこと、一人の男として見てくれてる……?)
タクミが柄にもなくドキドキしながらガイの顔を見上げると、ガイは真剣な顔で続けた。
「お前がいなくなったら……俺は明日から、何を目標にパンを食べればいいんだ……!」
「結局それかよ! 俺をモチベーションの源にするのやめてください!」
「……いや、それだけではない。お前が、その……誰かに食べられてしまう(比喩ではなく物理的に)のが、耐えられないのだ」
「食べられませんよ!? 俺、人間ですから!」
しかし、ガイの手の温もりだけは、嘘偽りなくタクミを求めているように感じられた。
食欲から始まる恋は、まだ序の口。
二人の距離は、ステーキが焼けるスピードよりもずっと、ゆっくりと熱を帯びていくのであった。
食堂のど真ん中で、ガイ団長がカシアン副団長の襟足を掴んで引き剥がしていた。
その中心に立たされているタクミは、もはや無の境地である。
現在、騎士団の食堂はカオスと化していた。
並んでいるのは、質素な麦の粥と、少しの塩漬け野菜。本来なら「朝からこれはキついな……」とテンションが下がるメニューだが、タクミがそこに立っているだけで、騎士たちの目には豪華な「牛丼・特盛」に見えているらしい。
「いいですか団長、タクミ君を食堂の換気口付近に立たせるだけで、団員たちの士気は通常の三倍になるんです! これは軍事革命ですよ!」
「やかましい! タクミの匂いが薄まるだろうが! そんなに嗅ぎたければ、俺の許可証を取れ!」
(許可証って何だよ……。俺は観光名所か?)
タクミが心の中で盛大なツッコミを入れていると、食堂の重厚な扉が再び開いた。
そこへ現れたのは、これまでの脳筋騎士たちとは明らかに毛色の違う、シュッとした細身の男だった。
「――お騒がせしております。聖騎士団の方々が朝からこれほど熱狂されているとは。一体どんな『秘宝』を隠し持っておられるのかと思えば……」
男は、隣国・レムリア公国の特使である。
名はルウェリン。眼鏡の奥の瞳が、いかにも「計算高いです」という光を放っている。
ガイが即座にタクミを自分の背後に隠した。
「レムリアの特使か。……見ての通り、ただの迷い子を保護しただけだ。貴公に関係のあることではない」
「ほう……? ただの迷い子、ですか」
ルウェリンが、すっと鼻を鳴らした。
次の瞬間、彼の眼鏡がキラリと不敵に光る。
「……嘘をおっしゃい。今、私の嗅覚が捉えたこの芳香。これは我が国に伝わる古文書にある『聖なる琥珀の滴(秘伝のタレ)』の香りに酷似している。その背後にいる少年……彼こそが、伝説の『神の厨房』の鍵を握る者ではありませんか?」
「……ちっ。鼻の利く野郎だ」
ガイが忌々しそうに舌打ちする。
タクミは背後からそっと顔を出して、思わずルウェリンに話しかけた。
「あの、すみません。さっきから『神の厨房』とか『秘宝』とか言ってますけど、俺、ただの元・焼肉屋の店員ですよ? その、タレの匂いがするのはスキルのバグらしくて……」
「なんと! 自覚がないとは! これほどの芳醇な熟成香を放ちながら、なんという謙虚さ……! 素晴らしい、ぜひ我が国へお越しください。最高の調理器具と、最高級の米をご用意しましょう!」
「米!? 今、米って言いました!?」
タクミの目が輝いた。
この異世界に来てから、パンと粥ばかりで、白いご飯が恋しくてたまらなかったのだ。
しかし、その言葉に反応したのはガイも同じだった。
ガイはタクミの腰をグイと引き寄せ、ルウェリンを睨みつける。
「断る。タクミは俺が……いや、我が騎士団が先に契約(?)したのだ。米など、我が国でも用意できる!」
「おやおや、アルカディア王国は慢性的な米不足のはず。そんな貴重な資源を、たかが一人の少年のために放出できるのですか?」
「……ぐぬぬ……」
ガイが言葉に詰まる。
実際、この国での米は金と同等の価値がある高級品だ。
タクミは、二人の男が自分を挟んで火花を散らしている光景に、少しだけ「おっ、これは奪い合い的なBLイベントか?」と期待してみる。
だが、現実は非情だった。
「タクミ君。我が国へ来れば、君を『特級調理補助・兼・芳香剤』として爵位を与えてもいい」
「芳香剤……。やっぱり人間扱いじゃないんですね」
「タクミ! 惑わされるな! 米なら……米なら俺が、隣の農村まで行って、力ずくで(?)耕してきてやる!」
「団長、それは公務執行妨害です!」
カシアンのツッコミが飛ぶ中、ガイはタクミを抱きかかえ、そのまま食堂を後にした。
足早に廊下を歩くガイの腕は、少しだけ震えているようにも見えた。
「……タクミ」
「はい?」
「……あんな奴に、ついていくなよ。米に釣られるな。お前は……俺の傍にいろ」
「ガイさん……」
(え、何。この急な甘い雰囲気。ガイさん、もしかして少しは俺のこと、一人の男として見てくれてる……?)
タクミが柄にもなくドキドキしながらガイの顔を見上げると、ガイは真剣な顔で続けた。
「お前がいなくなったら……俺は明日から、何を目標にパンを食べればいいんだ……!」
「結局それかよ! 俺をモチベーションの源にするのやめてください!」
「……いや、それだけではない。お前が、その……誰かに食べられてしまう(比喩ではなく物理的に)のが、耐えられないのだ」
「食べられませんよ!? 俺、人間ですから!」
しかし、ガイの手の温もりだけは、嘘偽りなくタクミを求めているように感じられた。
食欲から始まる恋は、まだ序の口。
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