異世界転生して「誘惑」スキルを得たはずがなぜか脳筋騎士たちの「食欲」を刺激する体質になった件~俺のフェロモン肉の焼ける匂いか何かなの!?~

たら昆布

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5話

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「……ん? なんだ、この匂いは」

翌朝、一番に声を上げたのは、やはりタクミの横で寝ていたガイだった。
いつもなら「特上カルビの目覚め」を期待して鼻をヒクつかせているはずの彼が、今朝はひどく困惑した顔でタクミの首筋を見つめている。

タクミは眠い目をこすりながら、寝ぼけ眼で応えた。
「ん……。なんですか、ガイさん。朝からまたテイスティングですか……?」

「いや、違う。タクミ、お前……昨日の肉の匂いはどうした。今はその……もっと、こう……」

「……?」

タクミが自分の腕の匂いを嗅いでみる。
すると、そこから漂ってきたのは、昨日までの「香ばしい醤油と脂の香り」ではなかった。

「……あ。これ、バニラエッセンス……? それに、焼きたてのスポンジ生地みたいな……」

「そうだ! パンケーキだ! それも、これでもかと蜂蜜と生クリームをぶっかけた、背徳的なまでの甘い匂いだぞ!」

ガイがガタッとベッドから起き上がった。
タクミも驚いて飛び起きる。

「え、えええっ!? 何で!? 俺、昨日はお肉のことばっかり考えて寝たのに!」

「知らん! だが、この匂い……昨日までの『白米を呼ぶ力』とは違うが、これはこれで……抗いがたい破壊力がある……!」

ガイの瞳が、これまでの「肉食獣」のそれから、何か「未知の甘美な快楽に目覚めそうな男」のそれに変化していく。
どうやら女神の言っていた『誘惑(チャーム)』スキルは、タクミの状態や時間経過によって「提供メニュー」が変わる仕様らしい。

「(最悪だ……。これじゃ、ただの『歩くデザートバイキング』じゃないか!)」

   * * *

その日の訓練場は、いつにも増して殺気立っていた。
いや、殺気というよりは……「浮足立っていた」という方が正しい。

タクミがガイに連れられて訓練場の端を通るだけで、木剣を振るっていた騎士たちの動きがピタリと止まる。

「……おい、嗅いだか。今、団長の隣を通り過ぎたタクミ君の匂い」
「ああ。天国のような甘い香りだ。……俺、本当は辛いものより甘いものの方が好きだったんだよな……」
「わかる。あの匂いに包まれて、紅茶が飲みたい……」

屈強な筋肉自慢の騎士たちが、頬を赤らめてタクミをうっとりと見送っている。
昨日までの「ガツガツとした食欲」とは違い、今の彼らの目は、どこか乙女チックな熱を帯びていた。

「(こ、こっちの方が怖い! 視線がねっとりしてる気がする!)」

タクミはガイの背中に隠れるようにして歩くが、ガイ自身もどこか落ち着かない様子だった。

「……タクミ、お前。あまりキョロキョロするな。その、甘い匂いを撒き散らすなと言っている」

「俺だって好きで出してるんじゃないですよ! そもそも、ガイさんは甘いもの興味ないんじゃなかったんですか?」

「興味は……なかった。戦士の食事に菓子など不要だと思っていたからな。だが……」

ガイが立ち止まり、タクミの方を振り返る。
彼の手が、タクミの頬をそっと撫でた。
その指先が震えているのは、怒りのせいか、それとも――。

「……この匂いを嗅いでいると、なんだかこう、胸の奥がムズムズする。肉の時とは違う……もっと、お前そのものを『甘やかしたくなる』ような、妙な気分だ」

「え……?」

タクミはドキン、と心臓が跳ねるのを感じた。
今までの「美味しそう」という評価は、あくまでタクミを「食材」として見ていたものだ。
けれど今のガイの言葉は、ほんの少しだけ、タクミという「人間」に向けられているような気がした。

(……いやいや、騙されるな俺! 相手は脳筋団長だぞ。きっと『糖分が足りてない』だけだ!)

タクミが顔を赤くして俯くと、そこへ新たな伏兵が現れた。

「――おやおや。本日は随分とスイートな香りが漂っておりますね」

昨日、米を餌にタクミを釣ろうとした特使・ルウェリンだ。
彼は何食わぬ顔で歩み寄り、タクミの目の前で優雅に一礼した。

「タクミ様。我が国の王宮には、世界最高のパティシエがおります。その匂いに相応しい、宝石のようなスイーツを共に楽しみませんか?」

「パティシエ……! ショートケーキとか、ありますか?」

「ええ、もちろん。イチゴをふんだんに使ったものを」

「タクミ! 待てと言っているだろう!」

ガイが割って入る。
「ルウェリン、貴様……。昨日は米だと言ったはずだ。今日は菓子で釣るつもりか!」

「フフ、柔軟な対応こそ外交の基本ですよ。さあ、タクミ様。どちらが貴方に相応しい『甘いひととき』を提供できるか、試してみませんか?」

ガイはルウェリンを睨みつけるが、その手はしっかりとタクミの腕を掴んでいた。
「……試すまでもない。こいつのデザート(匂い)を独占するのは、俺だ。タクミ、部屋に戻るぞ!」

「わわっ! ちょっと、ガイさん! 引っ張らないで!」

ガイはタクミを連れ去るように歩き出す。
その背中は昨日よりも少しだけ焦っているようで、タクミにはそれが、ほんの少しだけ可笑しく、そして嬉しく感じられた。

(……じっくり、ゆっくり。俺、この世界でちゃんと『人間』として好きになってもらえるのかな……)

タクミから漂う甘い香りは、二人の間に漂う微妙な空気も、少しずつ甘く変えようとしていた。
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