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7話
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「タクミ様! さあ、こちらへ! この『レムリア特製・七層仕立ての極上パフェ』が、貴方の芳醇な香りを待っております!」
聖騎士団の城門前。
ルウェリン特使が、白馬に引かせた豪華な馬車の上で高らかに叫んでいた。馬車の荷台には、氷の魔法で冷やされた、成人男性の背丈ほどもある巨大なガラス容器が鎮座している。
そこには、色とりどりの果実、溢れんばかりの生クリーム、そして金箔(!)まで散らされたパフェがそびえ立っていた。
「……すごっ。異世界にもあんなデカ盛りスイーツあるんだ……」
ガイの小脇に抱えられたまま、タクミは思わず感心の声を漏らした。
だが、その呟きが隣の男の逆鱗に触れたらしい。
「タクミ、あんなチャラついた食い物に目を奪われるな。……あんなものは、ただの『飾った砂糖の塊』だ」
ガイの声は、地響きのように低かった。
彼はタクミを地面に降ろすと、一歩前へ出て腰の剣を引き抜いた。……といっても、殺気を飛ばしている相手はルウェリンではなく、背後にあるパフェの方だ。
「ルウェリン、貴様……。公務を忘れて何をしている。その巨大な物体を今すぐ撤去しろ。我が騎士団の規律が乱れる(主に胃袋が)」
「おやおや、ガイ団長。これは親善の証ですよ。タクミ様の素晴らしい『スイーツ臭』……失礼、甘い香りに敬意を表して、我が国の最高の技術を詰め込んだのです。さあ、タクミ様、一口だけでも!」
ルウェリンが長いスプーンを差し出す。
タクミが思わず一歩踏み出しそうになった、その時。
「待て」
ガイが、タクミの腕をガシッと掴んで引き止めた。
その顔は、これまで見たこともないほど複雑な――まるで「食べたいけれど、食べさせてやりたいけれど、でも負けたくない」という葛藤に満ちた、妙に人間臭い表情だった。
「……ガイさん?」
「タクミ、お前は……そんなに、あんな派手なものが食べたいのか」
「え? あ、いや……。甘い匂いを出してるせいか、ちょっと甘いものが恋しくなったというか。前世でもパフェは好きだったし……」
タクミが正直に答えると、ガイはふいっと顔を背けた。
そして、ぼそりと、消え入りそうな声で呟いた。
「…………なら、俺が、作ってやる」
「………………はい?」
タクミは耳を疑った。
今、この帝国最強の、筋肉と規律の権化のような男が、何と言った?
「俺が! 作ってやると言っているんだ! あんなチャラチャラした外交官のパフェではなく、騎士団伝統の……スタミナのつくパフェをな!」
「騎士団伝統のパフェって何ですか。嫌な予感しかしないんですけど」
カシアン副団長が横から「団長、それは無理ですよ! 団長が作れるのは、肉を焼くか、芋を蒸すか、プロテインを混ぜるかだけじゃないですか!」と叫ぶが、ガイは聞く耳を持たない。
「うるさい! ダグラス(料理長)に教われば、俺だって……!」
* * *
数時間後。
騎士団の厨房は、異様な緊張感に包まれていた。
エプロン(タクミの予備の、牛のロゴ入り)を身につけたガイが、真剣な眼差しで「泡立て器」を握りしめている。
「……ダグラス。なぜ、この白い液体(生クリーム)は固まらんのだ。俺の握力が足りないのか?」
「団長、握力の問題じゃありません。それはもう、攪拌しすぎてバターになってます」
「何だと!? ……くっ、ならば、この赤い果実(イチゴ)を……」
「団長、握りつぶさないでください。それはもうジャムです」
見守るタクミは、ハラハラを通り越して、少しだけ心が温かくなるのを感じていた。
あんなに「甘い匂いは感覚が鈍る」と言っていた男が、慣れない手つきで、自分のために甘いものを作ろうとしている。
たとえ動機が「ルウェリンに対抗するため」だったとしても。
「……あ。ガイさん、そこ。生クリームじゃなくて、ジャムを先に敷いた方が綺麗ですよ」
「む……? そ、そうか。タクミ、お前は詳しいのだな」
「ええ。焼肉屋のデザートメニュー、俺が考えてたこともありますから」
タクミが横から手伝おうとすると、ガイの指が、ふとした拍子にタクミの指先に触れた。
今度は、タクミを捕らえるための強い力ではない。
柔らかく、どこか探るような、臆病な触れ方。
ガイが、タクミの顔をじっと見つめる。
タクミの身体からは、今度は「焦がしキャラメル」のような、少しほろ苦くて甘い匂いが立ち上った。
「……タクミ。俺は、お前が何を考えているか、さっぱり分からん。だが、こうしてお前と並んでいると……その、パフェなど作らなくても、腹がいっぱいになるような気がするのだ」
「それ、胸焼けじゃないですか?」
「………………そうかもしれん」
ガイは不器用そうに笑った。
それは初めて見る、威圧感のない、年相応の青年の笑顔だった。
(……ああ。やっぱり、じわじわ来るな……。この人、本当はすごく優しいんだ)
二人の間に流れる、少しだけ甘くて、少しだけ不器用な時間。
結局、その日完成した『ガイ特製・筋肉パフェ(プロテイン入り)』は、見た目こそ「茶色の塊」だったが、タクミにとってはルウェリンの豪華パフェよりも、ずっと特別な味がしたのだった。
「……で、ガイさん。これ、一番下に何で鶏のささみが入ってるんですか?」
「隠し味(タンパク質)だ」
「隠しきれてないですよ!!」
二人の「美味しい」関係は、まだ始まったばかり。
恋の熟成には、もう少し時間がかかりそうだった。
聖騎士団の城門前。
ルウェリン特使が、白馬に引かせた豪華な馬車の上で高らかに叫んでいた。馬車の荷台には、氷の魔法で冷やされた、成人男性の背丈ほどもある巨大なガラス容器が鎮座している。
そこには、色とりどりの果実、溢れんばかりの生クリーム、そして金箔(!)まで散らされたパフェがそびえ立っていた。
「……すごっ。異世界にもあんなデカ盛りスイーツあるんだ……」
ガイの小脇に抱えられたまま、タクミは思わず感心の声を漏らした。
だが、その呟きが隣の男の逆鱗に触れたらしい。
「タクミ、あんなチャラついた食い物に目を奪われるな。……あんなものは、ただの『飾った砂糖の塊』だ」
ガイの声は、地響きのように低かった。
彼はタクミを地面に降ろすと、一歩前へ出て腰の剣を引き抜いた。……といっても、殺気を飛ばしている相手はルウェリンではなく、背後にあるパフェの方だ。
「ルウェリン、貴様……。公務を忘れて何をしている。その巨大な物体を今すぐ撤去しろ。我が騎士団の規律が乱れる(主に胃袋が)」
「おやおや、ガイ団長。これは親善の証ですよ。タクミ様の素晴らしい『スイーツ臭』……失礼、甘い香りに敬意を表して、我が国の最高の技術を詰め込んだのです。さあ、タクミ様、一口だけでも!」
ルウェリンが長いスプーンを差し出す。
タクミが思わず一歩踏み出しそうになった、その時。
「待て」
ガイが、タクミの腕をガシッと掴んで引き止めた。
その顔は、これまで見たこともないほど複雑な――まるで「食べたいけれど、食べさせてやりたいけれど、でも負けたくない」という葛藤に満ちた、妙に人間臭い表情だった。
「……ガイさん?」
「タクミ、お前は……そんなに、あんな派手なものが食べたいのか」
「え? あ、いや……。甘い匂いを出してるせいか、ちょっと甘いものが恋しくなったというか。前世でもパフェは好きだったし……」
タクミが正直に答えると、ガイはふいっと顔を背けた。
そして、ぼそりと、消え入りそうな声で呟いた。
「…………なら、俺が、作ってやる」
「………………はい?」
タクミは耳を疑った。
今、この帝国最強の、筋肉と規律の権化のような男が、何と言った?
「俺が! 作ってやると言っているんだ! あんなチャラチャラした外交官のパフェではなく、騎士団伝統の……スタミナのつくパフェをな!」
「騎士団伝統のパフェって何ですか。嫌な予感しかしないんですけど」
カシアン副団長が横から「団長、それは無理ですよ! 団長が作れるのは、肉を焼くか、芋を蒸すか、プロテインを混ぜるかだけじゃないですか!」と叫ぶが、ガイは聞く耳を持たない。
「うるさい! ダグラス(料理長)に教われば、俺だって……!」
* * *
数時間後。
騎士団の厨房は、異様な緊張感に包まれていた。
エプロン(タクミの予備の、牛のロゴ入り)を身につけたガイが、真剣な眼差しで「泡立て器」を握りしめている。
「……ダグラス。なぜ、この白い液体(生クリーム)は固まらんのだ。俺の握力が足りないのか?」
「団長、握力の問題じゃありません。それはもう、攪拌しすぎてバターになってます」
「何だと!? ……くっ、ならば、この赤い果実(イチゴ)を……」
「団長、握りつぶさないでください。それはもうジャムです」
見守るタクミは、ハラハラを通り越して、少しだけ心が温かくなるのを感じていた。
あんなに「甘い匂いは感覚が鈍る」と言っていた男が、慣れない手つきで、自分のために甘いものを作ろうとしている。
たとえ動機が「ルウェリンに対抗するため」だったとしても。
「……あ。ガイさん、そこ。生クリームじゃなくて、ジャムを先に敷いた方が綺麗ですよ」
「む……? そ、そうか。タクミ、お前は詳しいのだな」
「ええ。焼肉屋のデザートメニュー、俺が考えてたこともありますから」
タクミが横から手伝おうとすると、ガイの指が、ふとした拍子にタクミの指先に触れた。
今度は、タクミを捕らえるための強い力ではない。
柔らかく、どこか探るような、臆病な触れ方。
ガイが、タクミの顔をじっと見つめる。
タクミの身体からは、今度は「焦がしキャラメル」のような、少しほろ苦くて甘い匂いが立ち上った。
「……タクミ。俺は、お前が何を考えているか、さっぱり分からん。だが、こうしてお前と並んでいると……その、パフェなど作らなくても、腹がいっぱいになるような気がするのだ」
「それ、胸焼けじゃないですか?」
「………………そうかもしれん」
ガイは不器用そうに笑った。
それは初めて見る、威圧感のない、年相応の青年の笑顔だった。
(……ああ。やっぱり、じわじわ来るな……。この人、本当はすごく優しいんだ)
二人の間に流れる、少しだけ甘くて、少しだけ不器用な時間。
結局、その日完成した『ガイ特製・筋肉パフェ(プロテイン入り)』は、見た目こそ「茶色の塊」だったが、タクミにとってはルウェリンの豪華パフェよりも、ずっと特別な味がしたのだった。
「……で、ガイさん。これ、一番下に何で鶏のささみが入ってるんですか?」
「隠し味(タンパク質)だ」
「隠しきれてないですよ!!」
二人の「美味しい」関係は、まだ始まったばかり。
恋の熟成には、もう少し時間がかかりそうだった。
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