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8話
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「……タクミ様。こんな、ささみの破片が浮いている甘味を口にされるなんて……。不憫すぎて、ボク、涙が止まりません!」
翌日、騎士団の庭園で日向ぼっこをしていたタクミの前に、一人の美少年が突如として現れた。
透き通るような銀髪に、吸い込まれそうな青い瞳。背中には小さな羽が見え隠れしている。
「え、誰!? ていうか、羽生えてるし!」
「ボクは女神様の従者、フェリです。タクミ様、あの適当な女神がスキルの設定をトチったせいで、とんだ苦労をされていますね?」
フェリと名乗った少年は、タクミの手を両手で握りしめ、深刻な顔で首を振った。
「ボクは、タクミ様のスキルを『正常化』するため、女神様に内緒で様子を見に来たんです。今のタクミ様からは、重厚な油の匂いや、致死量の糖分の匂いしかしない。これでは『誘惑』ではなく『デブ製造機』ですよ!」
「デブ製造機……。言い方はひどいけど、否定できないのが辛い……」
タクミががっくりと肩を落とした、その時。
「――タクミ! こんなところで何をしている!」
背後から、地響きのような声がした。
ガイ団長だ。彼はフェリを一瞥すると、露骨に不快そうな顔をしてタクミを自分の背後に隠した。
「またルウェリンの差し金か? 今度は子供を使いに出すとは、あの外交官も落ちたものだな」
「失礼ですね、筋肉ダルマさん。ボクはタクミ様を助けに来たんです。貴方みたいな、愛の告白の代わりにプロテインを飲ませるような男から!」
「……何だと? 貴様、俺が昨日タクミに特製パフェを振る舞ったことをなぜ知っている」
「風の噂ですよ(主に女神様のモニターで見てました)。タクミ様、今すぐそのスキル、調整しましょう! もっと清廉で、高潔で、誰もが跪きたくなるような……そう、清らかな『聖水』のような香りに!」
フェリが杖を一振りすると、タクミの体からパチパチと火花が散った。
「うわっ、何!? 熱い熱い!」
「タクミ、大丈夫か!?」
ガイが慌ててタクミを抱きしめる。
しばらくして光が収まると、タクミの周囲に漂っていた「アップルパイ」の匂いが、霧が晴れるように消えていた。
「……あれ? 匂いがしなくなった……?」
タクミが自分の腕をくんくんと嗅ぐ。
そこにあるのは、何の変哲もない、ただの「石鹸で洗ったばかりの人間」の匂いだった。
「……っ!!」
ガイが、目を見開いて硬直した。
彼はタクミの首筋に鼻を近づけ、何度も、何度も深呼吸をする。
「……しない。肉の匂いも、菓子の匂いも……。何も、しないぞ」
ガイの声が、心なしか震えている。
タクミは(あ、これ、ガイさん的には『おかず』が消えて絶望してるパターンかな?)と思い、少し申し訳ない気持ちになった。
「ごめん、ガイさん。……やっぱり、匂いがない俺には、価値がないよな」
タクミが自嘲気味に笑い、ガイから離れようとした。
しかし、ガイの腕の力は緩まなかった。それどころか、先ほどよりも強く、タクミを抱きしめたのだ。
「……違う。価値がないわけではない。……ただ、腹が減る」
「やっぱり食欲かよ!!」
「だが、不思議だ……。匂いがしないのに、こうしてお前を抱いていると……。……なぜか、心臓の音がうるさくて、飯のことなど考えられん。これは、何かの呪いか?」
ガイは真剣な顔で、自分の胸に手を当てていた。
『食材』としてのフィルターが強制的に解除されたことで、ガイの脳は今、初めて「タクミという個体そのもの」を認識し、バグを起こし始めていた。
フェリはそれを見て、フンと鼻を鳴らした。
「ふふん、これで少しは『恋』らしくなるでしょう。……でもタクミ様、気をつけて。匂いが消えたのは一時的なものです。女神様のバグは、そんなに簡単には直りませんからね!」
「えっ、一時的なの!?」
「はい! 次に出るのは……たぶん『健康志向』な匂いだと思いますよ! では、また!」
フェリは光の中に消えていった。
残されたのは、匂いのしなくなったタクミと、そのタクミを抱きしめたまま「……なんだ、この変な感覚は……」と首を傾げ続ける、不器用な騎士団長だけだった。
「(……これ、もしかして、今が一番『普通』のBLっぽい雰囲気なんじゃ……?)」
タクミが淡い期待を抱いたのも束の間。
数分後、タクミの体からは、猛烈な勢いで『もぎたてのセロリと高濃度青汁』の匂いが立ち上り始めた。
「……うっ。……タクミ、お前。……今度は、健康を強要してくるのか?」
「俺のせいじゃないって言ってるだろおおお!!」
二人の恋路(と献立)は、今日も迷走を続けるのであった。
翌日、騎士団の庭園で日向ぼっこをしていたタクミの前に、一人の美少年が突如として現れた。
透き通るような銀髪に、吸い込まれそうな青い瞳。背中には小さな羽が見え隠れしている。
「え、誰!? ていうか、羽生えてるし!」
「ボクは女神様の従者、フェリです。タクミ様、あの適当な女神がスキルの設定をトチったせいで、とんだ苦労をされていますね?」
フェリと名乗った少年は、タクミの手を両手で握りしめ、深刻な顔で首を振った。
「ボクは、タクミ様のスキルを『正常化』するため、女神様に内緒で様子を見に来たんです。今のタクミ様からは、重厚な油の匂いや、致死量の糖分の匂いしかしない。これでは『誘惑』ではなく『デブ製造機』ですよ!」
「デブ製造機……。言い方はひどいけど、否定できないのが辛い……」
タクミががっくりと肩を落とした、その時。
「――タクミ! こんなところで何をしている!」
背後から、地響きのような声がした。
ガイ団長だ。彼はフェリを一瞥すると、露骨に不快そうな顔をしてタクミを自分の背後に隠した。
「またルウェリンの差し金か? 今度は子供を使いに出すとは、あの外交官も落ちたものだな」
「失礼ですね、筋肉ダルマさん。ボクはタクミ様を助けに来たんです。貴方みたいな、愛の告白の代わりにプロテインを飲ませるような男から!」
「……何だと? 貴様、俺が昨日タクミに特製パフェを振る舞ったことをなぜ知っている」
「風の噂ですよ(主に女神様のモニターで見てました)。タクミ様、今すぐそのスキル、調整しましょう! もっと清廉で、高潔で、誰もが跪きたくなるような……そう、清らかな『聖水』のような香りに!」
フェリが杖を一振りすると、タクミの体からパチパチと火花が散った。
「うわっ、何!? 熱い熱い!」
「タクミ、大丈夫か!?」
ガイが慌ててタクミを抱きしめる。
しばらくして光が収まると、タクミの周囲に漂っていた「アップルパイ」の匂いが、霧が晴れるように消えていた。
「……あれ? 匂いがしなくなった……?」
タクミが自分の腕をくんくんと嗅ぐ。
そこにあるのは、何の変哲もない、ただの「石鹸で洗ったばかりの人間」の匂いだった。
「……っ!!」
ガイが、目を見開いて硬直した。
彼はタクミの首筋に鼻を近づけ、何度も、何度も深呼吸をする。
「……しない。肉の匂いも、菓子の匂いも……。何も、しないぞ」
ガイの声が、心なしか震えている。
タクミは(あ、これ、ガイさん的には『おかず』が消えて絶望してるパターンかな?)と思い、少し申し訳ない気持ちになった。
「ごめん、ガイさん。……やっぱり、匂いがない俺には、価値がないよな」
タクミが自嘲気味に笑い、ガイから離れようとした。
しかし、ガイの腕の力は緩まなかった。それどころか、先ほどよりも強く、タクミを抱きしめたのだ。
「……違う。価値がないわけではない。……ただ、腹が減る」
「やっぱり食欲かよ!!」
「だが、不思議だ……。匂いがしないのに、こうしてお前を抱いていると……。……なぜか、心臓の音がうるさくて、飯のことなど考えられん。これは、何かの呪いか?」
ガイは真剣な顔で、自分の胸に手を当てていた。
『食材』としてのフィルターが強制的に解除されたことで、ガイの脳は今、初めて「タクミという個体そのもの」を認識し、バグを起こし始めていた。
フェリはそれを見て、フンと鼻を鳴らした。
「ふふん、これで少しは『恋』らしくなるでしょう。……でもタクミ様、気をつけて。匂いが消えたのは一時的なものです。女神様のバグは、そんなに簡単には直りませんからね!」
「えっ、一時的なの!?」
「はい! 次に出るのは……たぶん『健康志向』な匂いだと思いますよ! では、また!」
フェリは光の中に消えていった。
残されたのは、匂いのしなくなったタクミと、そのタクミを抱きしめたまま「……なんだ、この変な感覚は……」と首を傾げ続ける、不器用な騎士団長だけだった。
「(……これ、もしかして、今が一番『普通』のBLっぽい雰囲気なんじゃ……?)」
タクミが淡い期待を抱いたのも束の間。
数分後、タクミの体からは、猛烈な勢いで『もぎたてのセロリと高濃度青汁』の匂いが立ち上り始めた。
「……うっ。……タクミ、お前。……今度は、健康を強要してくるのか?」
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