異世界転生して「誘惑」スキルを得たはずがなぜか脳筋騎士たちの「食欲」を刺激する体質になった件~俺のフェロモン肉の焼ける匂いか何かなの!?~

たら昆布

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11話

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「……あの、ガイさん。俺、そろそろ外の空気が吸いたいんですけど」

「ダメだ。外にはお前の『旨味』を狙うハイエナ(部下)どもがうろついている。……ここで俺の帰りを待っていろ」

騎士団長室の扉が、ガチャンと重々しく閉まった。
タクミは一人、ふかふかのソファに沈み込みながら、天井を見上げた。

昨日の「俺だけの隠し味」宣言以来、ガイの過保護ぶりは加速の一途を辿っている。
食事はすべてガイが部屋まで運び(しかも毒味という名目で半分くらい食べられる)、着替えや入浴の際も「不審者が侵入しないか」という建前で扉のすぐ外に立たれている。

「(……これ、BLでよくある『監禁・執着展開』のはずなんだけど……。なんでだろう、漂う空気が全然シリアスじゃない)」

それは、ガイの目が「お前を離さない(愛)」というよりは、「この焼きたてパンのような幸福感を誰にも一嗅ぎたりともさせん(食い意地)」という情熱に満ちているからだろう。

「タクミ様、随分と愛されちゃってますねぇ」

不意に、窓枠に腰掛けた美少年・フェリが姿を現した。

「うわっ、フェリ! また勝手に出てきて。……愛されてるっていうか、保存食扱いされてる気がするんだけど」

「ふふ、同じことですよ。……でも、タクミ様。そろそろ覚悟を決めた方がいいかもしれません」

フェリが羽をパタパタとさせながら、タクミの目の前に浮遊する。その表情は、少しだけ悪戯っぽかった。

「実はあの女神様、スキルの設定資料に小さな注釈を付けてたんです。……『この誘惑(飯テロ)スキルは、対象者と心から結ばれ、真実の愛を確認するまで、メニューのランダム更新が止まらない』って」

「……はぁ!? じゃあ、何。俺、ガイさんとちゃんと両想いにならない限り、一生『今日は何の匂いかな?』って怯えながら暮らさなきゃいけないの?」

「そういうことです。しかも、想いが深まれば深まるほど、匂いの威力は増し、より相手の『一番好きな味』に最適化されていきます」

タクミは顔面蒼白になった。
今のままでも十分にガイの理性を揺さぶっているのに、これ以上「最適化」されたら、本当に物理的に齧られかねない。

「……結ばれるって、具体的にどうすればいいんだよ」

「それはもちろん、甘い口づけ……とか? とにかく、相手が貴方を『食べ物』としてではなく『一人のパートナー』として愛していると証明することですね」

「難易度高すぎだろ! あの人の脳内、九割が胃袋直結なんだぞ!」

フェリは「頑張ってくださいねー」と言い残し、再び光の中に消えた。
入れ替わるように、廊下から激しい足音が近づいてくる。

「タクミ! 昼飯だ! 今日は……今日はすごいぞ、厨房のダグラスが奇跡的に『米』を手に入れた!」

バターン!と勢いよく扉が開く。
そこには、黄金色に輝く炊きたての米が入った茶碗を、聖遺物のように高く掲げたガイが立っていた。

「……こ、米……!」

「そうだ。これでお前を……お前の匂いをオカズに、この米を食らう。これ以上の贅沢があるか!?」

ガイはタクミのすぐ隣に座ると、鼻をこれでもかと動かした。
今のタクミから漂っているのは、図ったように「濃厚な肉汁が滴る、炭火焼きハンバーグ」の匂いだった。

「……っ!! なんだ、この肉感は……。タクミ、お前……俺を殺す気か」

「俺のせいじゃないです! 勝手にメニューが更新されたんです!」

ガイは震える手で米を口に運び、タクミの首筋に顔を寄せた。
ハフハフと熱い吐息がタクミの肌をくすぐる。
それは、食事というにはあまりにも淫らで、けれど本人は至って真剣に「米を美味しく食べる」ことに集中しているという、奇妙な空間。

「……うまい。タクミ、お前は……最高だ。……俺はもう、お前なしでは生きていけん」

米を頬張りながら、ガイがボソリと呟いた。
その言葉に、タクミの心臓が跳ねる。

(……これ、フェリが言ってた『真実の愛』にカウントされるのか? いや、どう考えても米の感想だよね!?)

「……ガイさん。……俺のこと、ちゃんと見てますか?」

「見ている。……お前の、その……美味そうな、赤い唇も」

ガイの視線が、タクミの唇に固定される。
そこにあるのは空腹だけではない。もっと熱く、ドロリとした「男の欲望」が、ようやく顔を覗かせ始めていた。

「……一口、もらってもいいか」

「……え」

ガイの顔が近づく。
米の匂いと、肉の匂い。そして、二人の間に漂う、初めての「シリアスな」熱気。
タクミは思わず目を閉じた。

だが。

「……あ。団長、すみませーん! 米のおかわり、持ってきちゃいましたー!」

「………………」
「………………」

空気を読まないカシアンの乱入により、歴史的な初キス(?)は、米のおかわりと共に霧散した。

「……カシアン。貴様、後で練兵場にこい。死ぬまで特訓だ」

「えぇっ!? 親切心なのに!?」

タクミは赤くなった顔を隠しながら、「……やっぱり、先は長そうだな」と、幸せな溜息をつくのだった。
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