異世界転生して「誘惑」スキルを得たはずがなぜか脳筋騎士たちの「食欲」を刺激する体質になった件~俺のフェロモン肉の焼ける匂いか何かなの!?~

たら昆布

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12話

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「……なんだ、あのヒョロガリな成金どもは。タクミ、いいか、あいつらが近づいてきたら俺の背後に隠れて、息を止めておけ」

騎士団の謁見の間に、ガイの低い不機嫌な声が響いた。
今日、城塞を訪れているのは、王都でも有数の「美食家」として知られる貴族、ヴォルザック伯爵の一行である。

彼らがここに来た理由は一つ。
『聖騎士団が、嗅ぐだけで天国へ行ける稀代の「芳香少年」を囲っている』という噂を聞きつけ、あわよくば自分のパーティーの「余興」として連れ去ろうという魂胆だった。

「おやおや、ガイ団長。そんなに殺気立たないでいただきたい。我々はただ、その噂の少年の『香り』を確認しに来ただけですよ」

ヴォルザック伯爵が、シルクの手袋で鼻を抑えながら、ねっとりとした視線をタクミに向けた。
タクミはガイの背中からおずおずと顔を出す。
今のタクミから漂っているのは、ガイのイライラに呼応したのか、どこかスパイシーな「ガーリックシュリンプ」の香りだった。

「……ほう。これは、食欲をそそる。野性的でありながら、中毒性がある……。団長、この少年を我が館へ貸し出していただけないか? 最高級の銀皿の上で、香炉として座らせておくだけでいい」

タクミは背筋が凍るのを感じた。
(香炉として座らせる……? それ、人間扱いされてなくない!?)

これまでの騎士たちは、確かに「美味そう」と騒いではいたが、そこには常にタクミという存在への親しみがあった。だが、この貴族の目は違う。タクミを完全に「便利な道具」か「珍しい食材」としてしか見ていない。

ガイの拳が、みしりと鳴った。

「断る、と言ったはずだ。……それに伯爵、言葉に気をつけろ。こいつは香炉でもなければ、貴様の退屈を紛らわせるためのスパイスでもない」

「おや、厳しいですね。所詮は身元の知れぬ平民でしょう? 美味しい料理を、より美味しく味わうためのエッセンス。それが彼の価値だ。団長だって、彼を『おかず』に米を食べていると聞きましたが?」

伯爵が嘲笑うように言った。
タクミは、ガイの背中が強張るのを感じた。
(……そうだ。ガイさんだって、最初は俺を『飯テロ』だと思って捕まえたんだし。……反論、できないよね)

タクミが少しだけ寂しくなって、ガイの服の裾を握りしめた、その時。

「……ああ、確かに俺は、こいつを『おかず』だと言った。だが、それは間違いだった」

ガイが、ゆっくりと振り返った。
その目は、ヴォルザック伯爵ではなく、まっすぐにタクミだけを見つめていた。

「タクミ。……俺は、お前がガーリックの匂いだろうが、セロリの匂いだろうが、あるいは……無臭だろうが、もうどうでもいいんだ」

「え……?」

「お前が隣で笑っている時に、俺の胸が騒ぐのは……胃袋が動いているからじゃない。……こいつは、俺の……」

ガイはそこまで言って、再び伯爵の方を向き、剣の鞘で床を激しく叩いた。

「こいつは、俺の『大切な居場所』だ! 食い物に例えるなら、一生かけて味わい尽くしても足りない、最高の一皿……いや、魂の糧だ! 貴様らのような、ただ『嗅ぐ』だけの無粋な連中に、指一本触れさせるか!」

「(……ガイさん、感動的なこと言ってるようで、やっぱり例えが全部食い物だよ!)」

タクミは泣き笑いのような表情になった。
けれど、ガイの腕が自分を守るように肩に回された時、その熱さは、これまでの「空腹」による熱気とは明らかに違う、深い慈愛に満ちていた。

「フン……。騎士団長ともあろう者が、ただの少年に骨抜きとは。……行きましょう、皆さん。こんな野蛮な食卓(騎士団)、こちらから願い下げです!」

伯爵たちは捨て台詞を残して去っていった。
静まり返った謁見の間。

「……ガイさん。……今の、かっこよかったですよ。最後の方、ちょっと食いしん坊が漏れてましたけど」

「……やかましい。本当のことだ。……タクミ、お前はもう、俺の胃袋の一部みたいなものなんだ。……離れるなんて、許さん」

ガイは少し照れたように、タクミの頭を乱暴に撫でた。
その手は少し震えていて、タクミは(ああ、この人、本当に俺のことを考えてくれてるんだな)と、心の底から安心した。

「……じゃあ、お礼に。今日の晩御飯、俺が何か作りましょうか? 匂いだけじゃなくて、本物を」

「……っ!! タクミの手料理!? ……それは、その……『俺』へのご褒美か?」

「ふふ、そうですよ。……エプロン、貸してくださいね」

ガイの瞳が、これまでにないほどキラキラと輝き始めた。
二人の関係は、まだ「恋人」には届かない。けれど、お互いの存在が「空腹を満たすもの」から「心を満たすもの」へと、じっくり、ゆっくりと、熟成の時間を経て変化していた。

……なお、この日の晩、タクミが作った野菜炒めを食べながら、ガイは「幸せすぎて死ぬかもしれん」と男泣きし、カシアンに「重いですよ団長!」と突っ込まれることになるのだが。
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