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13話
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「……うっ。なんだ、この……頭がふわふわするような、芳醇な香りは……」
翌朝、一番に目を覚ましたタクミは、自分の体から立ち上る強烈な「残り香」に顔をしかめた。
昨日までのガーリックシュリンプの力強さは消え失せ、今の彼からは、最高級の赤ワイン、あるいはキンキンに冷えたエールの泡、さらには熟成されたウイスキーを混ぜ合わせたような、極上の「酒の匂い」が漂っていた。
「(最悪だ……。今度は『歩く居酒屋』かよ……!)」
タクミが絶望していると、隣で寝ていたガイが、いつも以上に重々しく身悶えを始めた。
「……タクミ……。お前、今日は一段と……『酔わせる』匂いがするな……」
ガイの目は、心なしかトロンとしていた。
彼はタクミの首筋に鼻を押し当て、深く息を吸い込む。
「……ふぅ。……なんだか、戦いの傷が癒えるような……すべてがどうでもよくなるような、いい気分だ……。タクミ、お前は……やはり、聖女(酒神)だったのか……」
「ガイさん、目が座ってますよ! まだ朝の六時ですからね!」
タクミは慌ててガイを押し返したが、ガイの腕はタコの吸盤のようにタクミの腰に吸い付いて離れない。
どうやら今回の『誘惑(酒テロ)』スキルは、吸い込んだ者の理性を、食欲ではなく「酔い」によって奪う性質があるらしい。
* * *
その日の聖騎士団は、午前中にして既に「宴会場」と化していた。
タクミが廊下を通るだけで、訓練中の騎士たちが「ふら……」と足元をよろめかせ、剣を杖代わりにして座り込む。
「……あぁ、いい匂いだ。……これ、つまみに干し肉があれば最高なんだけどなぁ」
「副団長……。俺、なんだか、隠してた悩みとか全部話しちゃいそうです……」
カシアン副団長も、壁に背を預けて頬を真っ赤に染めていた。
「……ダメだ、みんな。仕事中だぞ。……ははっ、でも、タクミ君。……君、本当……いい匂いだねぇ……。もう、騎士団なんて辞めて、二人で飲み直さない?」
「カシアンさんまで!? しっかりしてください!」
タクミが右往左往していると、奥から「ドスドス」と地響きのような足音が聞こえてきた。
顔を真っ赤にしたガイが、髪を振り乱して現れた。
「……タクミィ……! どこだ、タクミ……! 俺の『極上の一杯』を、誰にも嗅がせるなぁぁ!!」
「ガイさん! 声が大きいし、歩き方が千鳥足ですよ!」
ガイはタクミを見つけるなり、周囲の騎士たちを「散れ、酔っ払いどもめ!」と(自分も酔っているくせに)一蹴し、タクミを力いっぱい抱き寄せた。
「……お前、ルウェリンとかいう眼鏡にも、この匂いを嗅がせたのか……?」
「嗅がせてないですよ! ……っていうか、ガイさん。これ、ただのスキルのバグですから。俺が本当にお酒を出してるわけじゃないんです」
「……分かっている。……だが、心地いいのだ。……お前の隣にいると、心が……温かくて、ふわふわして……」
ガイはタクミの肩に顎を乗せ、甘えるように頭を擦り付けた。
普段の威厳はどこへやら。今の彼は、主人の帰りを待ちわびていた大型犬、それも少し酒癖の悪いわんこだ。
「……タクミ。俺は、お前を『家族』にしたい」
唐突に、ガイが耳元で囁いた。
タクミの心臓が、跳ね上がる。
「……家族、ですか?」
「ああ。……毎日、お前のこの匂いを嗅いで……お前の作った飯(野菜炒め)を食って……。そうすれば、俺はもっと強くなれる気がするんだ。……これって、その……いわゆる、プロポーズ……っていうやつか?」
ガイは酔った勢いか、それとも本気か、タクミの目をじっと見つめてきた。
そこには「食欲」の濁りはない。ただ、一人の人間を側に置きたいという、切実な願いが透けて見えた。
タクミは、少しだけ顔を赤くして、視線を逸らした。
「……ガイさん。……それ、明日、お酒(匂い)が抜けてから、もう一度言ってください」
「……む。……俺は、シラフでも……同じことを言うぞ」
ガイはそう言うと、タクミの腕の中で、幸せそうに高いイビキをかき始めた。
(……じっくり、ゆっくり。……でも、少しずつ、この人の『好き』が、食べ物から俺自身に移ってきてるのかな)
タクミは、重たい騎士団長の体を支えながら、窓の外に広がる青空を見上げた。
アルコールの香りは、二人の本音を少しだけ引き出し、もどかしい距離をほんの数センチだけ縮めたようだった。
……なお、翌朝。
「……俺は昨日、何を言ったんだ……?」と頭を抱えてのたうち回るガイと、それをニヤニヤしながら見守るタクミの姿があったが、それはまた別のお話。
翌朝、一番に目を覚ましたタクミは、自分の体から立ち上る強烈な「残り香」に顔をしかめた。
昨日までのガーリックシュリンプの力強さは消え失せ、今の彼からは、最高級の赤ワイン、あるいはキンキンに冷えたエールの泡、さらには熟成されたウイスキーを混ぜ合わせたような、極上の「酒の匂い」が漂っていた。
「(最悪だ……。今度は『歩く居酒屋』かよ……!)」
タクミが絶望していると、隣で寝ていたガイが、いつも以上に重々しく身悶えを始めた。
「……タクミ……。お前、今日は一段と……『酔わせる』匂いがするな……」
ガイの目は、心なしかトロンとしていた。
彼はタクミの首筋に鼻を押し当て、深く息を吸い込む。
「……ふぅ。……なんだか、戦いの傷が癒えるような……すべてがどうでもよくなるような、いい気分だ……。タクミ、お前は……やはり、聖女(酒神)だったのか……」
「ガイさん、目が座ってますよ! まだ朝の六時ですからね!」
タクミは慌ててガイを押し返したが、ガイの腕はタコの吸盤のようにタクミの腰に吸い付いて離れない。
どうやら今回の『誘惑(酒テロ)』スキルは、吸い込んだ者の理性を、食欲ではなく「酔い」によって奪う性質があるらしい。
* * *
その日の聖騎士団は、午前中にして既に「宴会場」と化していた。
タクミが廊下を通るだけで、訓練中の騎士たちが「ふら……」と足元をよろめかせ、剣を杖代わりにして座り込む。
「……あぁ、いい匂いだ。……これ、つまみに干し肉があれば最高なんだけどなぁ」
「副団長……。俺、なんだか、隠してた悩みとか全部話しちゃいそうです……」
カシアン副団長も、壁に背を預けて頬を真っ赤に染めていた。
「……ダメだ、みんな。仕事中だぞ。……ははっ、でも、タクミ君。……君、本当……いい匂いだねぇ……。もう、騎士団なんて辞めて、二人で飲み直さない?」
「カシアンさんまで!? しっかりしてください!」
タクミが右往左往していると、奥から「ドスドス」と地響きのような足音が聞こえてきた。
顔を真っ赤にしたガイが、髪を振り乱して現れた。
「……タクミィ……! どこだ、タクミ……! 俺の『極上の一杯』を、誰にも嗅がせるなぁぁ!!」
「ガイさん! 声が大きいし、歩き方が千鳥足ですよ!」
ガイはタクミを見つけるなり、周囲の騎士たちを「散れ、酔っ払いどもめ!」と(自分も酔っているくせに)一蹴し、タクミを力いっぱい抱き寄せた。
「……お前、ルウェリンとかいう眼鏡にも、この匂いを嗅がせたのか……?」
「嗅がせてないですよ! ……っていうか、ガイさん。これ、ただのスキルのバグですから。俺が本当にお酒を出してるわけじゃないんです」
「……分かっている。……だが、心地いいのだ。……お前の隣にいると、心が……温かくて、ふわふわして……」
ガイはタクミの肩に顎を乗せ、甘えるように頭を擦り付けた。
普段の威厳はどこへやら。今の彼は、主人の帰りを待ちわびていた大型犬、それも少し酒癖の悪いわんこだ。
「……タクミ。俺は、お前を『家族』にしたい」
唐突に、ガイが耳元で囁いた。
タクミの心臓が、跳ね上がる。
「……家族、ですか?」
「ああ。……毎日、お前のこの匂いを嗅いで……お前の作った飯(野菜炒め)を食って……。そうすれば、俺はもっと強くなれる気がするんだ。……これって、その……いわゆる、プロポーズ……っていうやつか?」
ガイは酔った勢いか、それとも本気か、タクミの目をじっと見つめてきた。
そこには「食欲」の濁りはない。ただ、一人の人間を側に置きたいという、切実な願いが透けて見えた。
タクミは、少しだけ顔を赤くして、視線を逸らした。
「……ガイさん。……それ、明日、お酒(匂い)が抜けてから、もう一度言ってください」
「……む。……俺は、シラフでも……同じことを言うぞ」
ガイはそう言うと、タクミの腕の中で、幸せそうに高いイビキをかき始めた。
(……じっくり、ゆっくり。……でも、少しずつ、この人の『好き』が、食べ物から俺自身に移ってきてるのかな)
タクミは、重たい騎士団長の体を支えながら、窓の外に広がる青空を見上げた。
アルコールの香りは、二人の本音を少しだけ引き出し、もどかしい距離をほんの数センチだけ縮めたようだった。
……なお、翌朝。
「……俺は昨日、何を言ったんだ……?」と頭を抱えてのたうち回るガイと、それをニヤニヤしながら見守るタクミの姿があったが、それはまた別のお話。
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