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14話
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「……うあああ、目が、目が痛い! なんだ、何が起きたんだ!?」
翌朝、聖騎士団の宿舎は未曾有のパニックに包まれていた。
原因は明白、団長室のベッドで目を覚ましたタクミである。
昨日までの「芳醇な古酒」の香りは一変。今のタクミからは、三十種類以上のスパイスを極限まで煮込み、さらに大量のハバネロを投入したような、暴力的なまでに「激辛なカレー」の匂いが立ち上っていた。
「げほっ、ごほっ! ……だ、誰か、水を……っ!!」
タクミ自身も自分の匂いに咽せながら、涙目で窓を開ける。
しかし、風に乗って拡散されたその香りは、廊下で待機していた騎士たちにダイレクトアタックを仕掛けた。
「ぐわぁぁ! 鼻が……鼻が焼けるようだ! だが……だが、なんだこの食欲をそそる香辛料の刺激は……っ!」
「白米だ! 白米を持ってこい! 胃袋が、胃袋が熱いんだぁぁ!!」
朝の爽やかな空気は一瞬で吹き飛び、騎士団全体が「真夏のカレーフェス」のような熱気に包まれる。
そんな地獄絵図の中、誰よりも近くでその刺激を浴びていたガイは――。
「…………っ、はぁ、はぁ……」
真っ赤な顔で、タクミの手首を掴んでいた。
その瞳は潤み、体からは尋常ならざる熱気が放たれている。
「ガ、ガイさん!? 大丈夫ですか!? 顔、すごい赤いですよ! 一旦離れて、顔洗ってきてください!」
「……離れる、ものか。……この、痺れるような感覚……。タクミ、お前は……どこまで、俺を追い詰めれば気が済むんだ……」
ガイの声は掠れていた。
激辛カレーの匂いは、吸い込むだけで体温を上げ、アドレナリンを分泌させる。
ガイの脳内では今、「辛い!」「美味そう!」「食べたい!」「タクミが可愛い!」という四つの感情が、強火で一気に炒め合わされていた。
「……タクミ。俺は昨日、酒の勢いで妙なことを言ったかもしれん。……だが、今ならはっきり分かる」
ガイが、タクミをベッドに押し戻すようにして、至近距離で見つめてくる。
鼻を突くスパイスの香りの向こう側、ガイの視線はまっすぐにタクミの心を探っていた。
「俺は……お前が肉の匂いでも、酒の匂いでも、この……目を開けていられないほどの激辛の匂いであっても。……その中心にいる、お前自身を、この手に収めておきたいのだ」
「……ガイ、さん」
「お前の存在は、俺の人生にとって最大の『劇薬』だ。……もう、これなしでは、俺の日常は味気なくて耐えられん」
ガイの手が、タクミの頬をそっと撫でる。
その指先が熱くて、タクミは自分の体温がさらに上がるのを感じた。
これはスキルのせいじゃない。きっと、自分の内側から湧き出ている熱だ。
(……じっくり、ゆっくり。そう思ってたけど。……この人、本当にずるいな)
タクミが観念したように目を閉じ、ガイの首に手を回そうとした――その瞬間。
「団長!! 緊急事態です! 激辛の匂いに釣られて、近隣の『火吹きトカゲ』の群れが城壁を登ってきました!! みんな『本物のカレーだ!』と勘違いして、よだれを垂らしながら突っ込んできます!!」
「………………」
「………………」
カシアンの絶叫が、ロマンチックな雰囲気を木っ端微塵に粉砕した。
「……チッ。トカゲどもめ、俺の『食事(タクミ)』を邪魔する気か……」
ガイは殺気を孕んだ動きで立ち上がると、愛剣を手に取った。
「タクミ、待っていろ。……トカゲをすべて駆除し、スパイスの具材にしてから戻ってくる」
「いいから、普通に守ってくださいよ!!」
ガイは「激辛モード」のまま、凄まじい勢いで部屋を飛び出していった。
その背中を見送りながら、タクミはふらふらとベッドに座り込む。
「……あーあ。……あんなにカッコいいこと言った後に、トカゲを具にするとか言っちゃうのが、あの人らしいっていうか……」
タクミは、赤くなった顔を両手で覆った。
二人の関係は、辛くて、熱くて、けれどたまらなく癖になる――そんな「煮込み料理」のように、少しずつ、深みを増していくのであった。
翌朝、聖騎士団の宿舎は未曾有のパニックに包まれていた。
原因は明白、団長室のベッドで目を覚ましたタクミである。
昨日までの「芳醇な古酒」の香りは一変。今のタクミからは、三十種類以上のスパイスを極限まで煮込み、さらに大量のハバネロを投入したような、暴力的なまでに「激辛なカレー」の匂いが立ち上っていた。
「げほっ、ごほっ! ……だ、誰か、水を……っ!!」
タクミ自身も自分の匂いに咽せながら、涙目で窓を開ける。
しかし、風に乗って拡散されたその香りは、廊下で待機していた騎士たちにダイレクトアタックを仕掛けた。
「ぐわぁぁ! 鼻が……鼻が焼けるようだ! だが……だが、なんだこの食欲をそそる香辛料の刺激は……っ!」
「白米だ! 白米を持ってこい! 胃袋が、胃袋が熱いんだぁぁ!!」
朝の爽やかな空気は一瞬で吹き飛び、騎士団全体が「真夏のカレーフェス」のような熱気に包まれる。
そんな地獄絵図の中、誰よりも近くでその刺激を浴びていたガイは――。
「…………っ、はぁ、はぁ……」
真っ赤な顔で、タクミの手首を掴んでいた。
その瞳は潤み、体からは尋常ならざる熱気が放たれている。
「ガ、ガイさん!? 大丈夫ですか!? 顔、すごい赤いですよ! 一旦離れて、顔洗ってきてください!」
「……離れる、ものか。……この、痺れるような感覚……。タクミ、お前は……どこまで、俺を追い詰めれば気が済むんだ……」
ガイの声は掠れていた。
激辛カレーの匂いは、吸い込むだけで体温を上げ、アドレナリンを分泌させる。
ガイの脳内では今、「辛い!」「美味そう!」「食べたい!」「タクミが可愛い!」という四つの感情が、強火で一気に炒め合わされていた。
「……タクミ。俺は昨日、酒の勢いで妙なことを言ったかもしれん。……だが、今ならはっきり分かる」
ガイが、タクミをベッドに押し戻すようにして、至近距離で見つめてくる。
鼻を突くスパイスの香りの向こう側、ガイの視線はまっすぐにタクミの心を探っていた。
「俺は……お前が肉の匂いでも、酒の匂いでも、この……目を開けていられないほどの激辛の匂いであっても。……その中心にいる、お前自身を、この手に収めておきたいのだ」
「……ガイ、さん」
「お前の存在は、俺の人生にとって最大の『劇薬』だ。……もう、これなしでは、俺の日常は味気なくて耐えられん」
ガイの手が、タクミの頬をそっと撫でる。
その指先が熱くて、タクミは自分の体温がさらに上がるのを感じた。
これはスキルのせいじゃない。きっと、自分の内側から湧き出ている熱だ。
(……じっくり、ゆっくり。そう思ってたけど。……この人、本当にずるいな)
タクミが観念したように目を閉じ、ガイの首に手を回そうとした――その瞬間。
「団長!! 緊急事態です! 激辛の匂いに釣られて、近隣の『火吹きトカゲ』の群れが城壁を登ってきました!! みんな『本物のカレーだ!』と勘違いして、よだれを垂らしながら突っ込んできます!!」
「………………」
「………………」
カシアンの絶叫が、ロマンチックな雰囲気を木っ端微塵に粉砕した。
「……チッ。トカゲどもめ、俺の『食事(タクミ)』を邪魔する気か……」
ガイは殺気を孕んだ動きで立ち上がると、愛剣を手に取った。
「タクミ、待っていろ。……トカゲをすべて駆除し、スパイスの具材にしてから戻ってくる」
「いいから、普通に守ってくださいよ!!」
ガイは「激辛モード」のまま、凄まじい勢いで部屋を飛び出していった。
その背中を見送りながら、タクミはふらふらとベッドに座り込む。
「……あーあ。……あんなにカッコいいこと言った後に、トカゲを具にするとか言っちゃうのが、あの人らしいっていうか……」
タクミは、赤くなった顔を両手で覆った。
二人の関係は、辛くて、熱くて、けれどたまらなく癖になる――そんな「煮込み料理」のように、少しずつ、深みを増していくのであった。
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