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16話
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「……くっ、寒い。なんだ、この急激な冷気は……」
翌朝、ガイはガチガチと歯を鳴らして目を覚ました。
夏真っ盛りのこの時期、団長室はいつもなら蒸し風呂状態のはずだ。しかし今、この部屋の温度は明らかに氷点下へ向かっていた。
原因は、ベッドの真ん中で丸まって寝ているタクミである。
「うう……。ガイさん、おはよう……って、何その格好」
「タクミ、お前こそ……。今朝のお前は、匂い以前に……物理的に『冷えて』いないか?」
タクミが自分の腕を触ってみると、肌はひんやりと冷たく、そこからは驚くほど清涼感のある香りが立ち上っていた。
それは、キンキンに冷えたバニラアイス、あるいは、削りたての氷に練乳をたっぷりかけた「かき氷」の匂いだ。
「(……今度は『歩くアイスクリーム』かよ! しかも保冷機能付き!?)」
タクミが起き上がると、彼を中心に冷たい霧のようなオーラがふわりと広がる。
ガイはその冷気に吸い寄せられるように、タクミにぴたりと密着した。
「……あぁ、いい。……最高だ。……お前の隣にいるだけで、昨日の猛暑が嘘のようだ……」
「ガイさん、さっきまで寒いって言ってたのに! 離れてください、くっつかれると俺まで冷えすぎて凍りそうです!」
* * *
その日の騎士団は、記録的な猛暑に見舞われていた。
防具を纏った騎士たちが次々と熱中症で倒れそうになる中、訓練場に「氷結の天使(タクミ)」が現れた。
「あ、あの匂いは……!」「冷たい……!」「アイスだ、アイスクリーム様が来たぞ!!」
タクミが歩くたびに、周囲の気温が三度ずつ下がっていく。
騎士たちは訓練を放り出し、ゾロゾロとタクミの後に続いて歩き始めた。
「タクミ君、少しでいい。その冷気(フェロモン)を俺に分けてくれ!」「タクミ様、我々の『室外機』になってください!」
「室外機って何!? 扱いがひどくなってないか!?」
タクミが困惑していると、背後から猛烈な「熱気」を帯びたガイが現れた。
「貴様らぁぁ! 俺のタクミを『涼』を取るための道具にするなぁぁ!!」
ガイは汗だくになりながらも、騎士たちを蹴散らし、タクミをがっちりと抱え上げた。
ガイの体温は高い。氷のようなタクミと合わさると、ちょうどいい「ぬるま湯」のような、あるいは「溶けかけたアイス」のような、絶妙な温度感になる。
「ガイさん、暑苦しいですよ! 離してください!」
「離さん! お前が冷えているなら、俺が温めてやらねばならんだろう! これは団長としての、至極全うな『体温管理』だ!」
「絶対今、自分が涼みたいだけですよね!?」
ガイはタクミを抱えたまま、城塞の地下にある「氷室(ひむろ)」へと避難した。
ひんやりとした薄暗い空間で、二人の吐息が白く光る。
「……ふぅ。……やっと静かになったな」
ガイがタクミを地面に降ろす。
タクミの体からは、今度は「ひんやりしたラムネ」のような、少し切なくて爽やかな香りが漂い始めた。
「……タクミ。お前がどんな匂いになっても驚かないつもりだったが……。……まさか、自分自身を冷やしてまで、俺を涼ませてくれるとはな」
「……いや、スキルのバグだって何度も言ってるじゃないですか」
「分かっている。……だが、感謝しているんだ。……お前が来てから、俺の毎日には、必ず『楽しみな献立』がある。……そして今日は、お前という最高の『デザート』が、目の前に冷えた状態で鎮座している……」
ガイの指先が、タクミの冷たい頬をなぞる。
ガイの熱気が、タクミの氷を少しずつ溶かしていくような感覚。
「(……じっくり、ゆっくり。……でも、この温度差、なんだかすごく……ドキドキする)」
「……タクミ。……一口、食べていいか。……いや、舐めるだけでもいい」
「……ガイさん、それ。アイスのつもりで言ってます? それとも……俺のことが、好きだから言ってます?」
タクミが勇気を出して尋ねると、ガイは一瞬、呆けたような顔をした。
そして、耳元まで真っ赤に染め、氷室の中で白い息を吐きながら、絞り出すように答えた。
「……俺は、嫌いな食い物を、最後まで大事に残しておくような男ではない。……お前は、俺の……人生で一番、取っておきたい……特別な『一口』なんだ」
「……結局、また食い物に例えたぁぁぁ!!」
タクミの絶叫が、静かな氷室に響き渡る。
しかし、ガイの腕の強さは、これまでで一番、タクミを一人の人間として慈しんでいるように感じられた。
二人の夏は、まだ半分。
溶けそうで溶けない、もどかしいアイスクリームのような恋が、じわじわと熟成されていく。
翌朝、ガイはガチガチと歯を鳴らして目を覚ました。
夏真っ盛りのこの時期、団長室はいつもなら蒸し風呂状態のはずだ。しかし今、この部屋の温度は明らかに氷点下へ向かっていた。
原因は、ベッドの真ん中で丸まって寝ているタクミである。
「うう……。ガイさん、おはよう……って、何その格好」
「タクミ、お前こそ……。今朝のお前は、匂い以前に……物理的に『冷えて』いないか?」
タクミが自分の腕を触ってみると、肌はひんやりと冷たく、そこからは驚くほど清涼感のある香りが立ち上っていた。
それは、キンキンに冷えたバニラアイス、あるいは、削りたての氷に練乳をたっぷりかけた「かき氷」の匂いだ。
「(……今度は『歩くアイスクリーム』かよ! しかも保冷機能付き!?)」
タクミが起き上がると、彼を中心に冷たい霧のようなオーラがふわりと広がる。
ガイはその冷気に吸い寄せられるように、タクミにぴたりと密着した。
「……あぁ、いい。……最高だ。……お前の隣にいるだけで、昨日の猛暑が嘘のようだ……」
「ガイさん、さっきまで寒いって言ってたのに! 離れてください、くっつかれると俺まで冷えすぎて凍りそうです!」
* * *
その日の騎士団は、記録的な猛暑に見舞われていた。
防具を纏った騎士たちが次々と熱中症で倒れそうになる中、訓練場に「氷結の天使(タクミ)」が現れた。
「あ、あの匂いは……!」「冷たい……!」「アイスだ、アイスクリーム様が来たぞ!!」
タクミが歩くたびに、周囲の気温が三度ずつ下がっていく。
騎士たちは訓練を放り出し、ゾロゾロとタクミの後に続いて歩き始めた。
「タクミ君、少しでいい。その冷気(フェロモン)を俺に分けてくれ!」「タクミ様、我々の『室外機』になってください!」
「室外機って何!? 扱いがひどくなってないか!?」
タクミが困惑していると、背後から猛烈な「熱気」を帯びたガイが現れた。
「貴様らぁぁ! 俺のタクミを『涼』を取るための道具にするなぁぁ!!」
ガイは汗だくになりながらも、騎士たちを蹴散らし、タクミをがっちりと抱え上げた。
ガイの体温は高い。氷のようなタクミと合わさると、ちょうどいい「ぬるま湯」のような、あるいは「溶けかけたアイス」のような、絶妙な温度感になる。
「ガイさん、暑苦しいですよ! 離してください!」
「離さん! お前が冷えているなら、俺が温めてやらねばならんだろう! これは団長としての、至極全うな『体温管理』だ!」
「絶対今、自分が涼みたいだけですよね!?」
ガイはタクミを抱えたまま、城塞の地下にある「氷室(ひむろ)」へと避難した。
ひんやりとした薄暗い空間で、二人の吐息が白く光る。
「……ふぅ。……やっと静かになったな」
ガイがタクミを地面に降ろす。
タクミの体からは、今度は「ひんやりしたラムネ」のような、少し切なくて爽やかな香りが漂い始めた。
「……タクミ。お前がどんな匂いになっても驚かないつもりだったが……。……まさか、自分自身を冷やしてまで、俺を涼ませてくれるとはな」
「……いや、スキルのバグだって何度も言ってるじゃないですか」
「分かっている。……だが、感謝しているんだ。……お前が来てから、俺の毎日には、必ず『楽しみな献立』がある。……そして今日は、お前という最高の『デザート』が、目の前に冷えた状態で鎮座している……」
ガイの指先が、タクミの冷たい頬をなぞる。
ガイの熱気が、タクミの氷を少しずつ溶かしていくような感覚。
「(……じっくり、ゆっくり。……でも、この温度差、なんだかすごく……ドキドキする)」
「……タクミ。……一口、食べていいか。……いや、舐めるだけでもいい」
「……ガイさん、それ。アイスのつもりで言ってます? それとも……俺のことが、好きだから言ってます?」
タクミが勇気を出して尋ねると、ガイは一瞬、呆けたような顔をした。
そして、耳元まで真っ赤に染め、氷室の中で白い息を吐きながら、絞り出すように答えた。
「……俺は、嫌いな食い物を、最後まで大事に残しておくような男ではない。……お前は、俺の……人生で一番、取っておきたい……特別な『一口』なんだ」
「……結局、また食い物に例えたぁぁぁ!!」
タクミの絶叫が、静かな氷室に響き渡る。
しかし、ガイの腕の強さは、これまでで一番、タクミを一人の人間として慈しんでいるように感じられた。
二人の夏は、まだ半分。
溶けそうで溶けない、もどかしいアイスクリームのような恋が、じわじわと熟成されていく。
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