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17話
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「……なんだ、この『いい音』は。タクミ、お前、布団の中に鉄板でも隠し持っているのか?」
翌朝、ガイは己の耳を疑いながら目を覚ました。
団長室の静寂を破っていたのは、タクミの寝息……ではない。
じゅうぅぅぅ……、パチパチッ!
という、強火で熱せられた鉄板に最高級の肉を乗せた瞬間にしか出せない、黄金のメロディだった。
「……ん、んん? ガイさん、おはようございます……。なんか、部屋の中、騒がしくないですか?」
タクミが寝返りを打つたびに、
「ザクッ、じゅわぁぁ……」
と、肉厚のカツにナイフを入れた時のような、衣が弾ける小気味よい音がタクミの体から響き渡る。
「(……最悪だ。今度は『歩くASMR(音テロ)』かよ!!)」
タクミが起き上がると、音はさらに鮮明になった。
今の彼からは、ガーリックステーキが焼ける匂いと同時に、その「焼ける音」までもがリアルタイムで再生されていた。
「タクミ、お前……。匂いだけでも白米が三杯はいけるというのに、この『音』まで加わるとは……。俺の胃袋を破裂させる気か!」
「俺のせいじゃないって言ってるでしょ! うわっ、ちょっと、お腹を叩かないでください!」
タクミが自分のお腹をさすると、「ポシュッ」と肉汁が溢れ出すような音が響く。
ガイはたまらず、タクミの腹部に耳を押し当てた。
「……あぁ、いい音だ。……脂が跳ねる音まで聞こえる。……タクミ、お前、本当は人間ではなく、精巧に作られた『肉の精霊』なんじゃないのか?」
「それ、褒めてないですよね!? 完全に食材扱いですよね!?」
* * *
その日の騎士団は、かつてないほどの「静寂」に包まれていた。
……いや、全員が「聞き耳を立てていた」のだ。
タクミが廊下を一歩歩くたびに、「サクッ……じゅわっ……」と、揚げたての唐揚げのような軽快な音が響く。
騎士たちは訓練の手を止め、息を殺してその音に酔いしれていた。
「……聞こえるか。あの、衣のクリスピーな響き」
「ああ……。昨晩の質素な粥が、耳の中でトンカツに変換されていく……」
もはや騎士団は、タクミを「見る」ことも「嗅ぐ」こともせず、ただ「聴く」ことに専念する変態集団と化していた。
そこへ、我慢の限界を迎えたガイが、愛剣をバットのように担いで現れた。
「貴様らぁぁ!! 俺のタクミの『ASMR』を盗み聞きするなぁぁ!!」
ガイはタクミの耳を両手で塞ぎ(自分の耳を塞ぐべきなのだが)、周囲の騎士たちを怒鳴り散らした。
「この音は、俺の耳元だけで奏でられるべき聖歌(讃美歌)だ! 誰にも一デシベルたりとも聞かせてなるものか!!」
「ガイさん! もういいから、とりあえず部屋に戻りましょう! 恥ずかしくて死にそうです!」
タクミはガイを引っ張って、中庭の奥にある東屋へと逃げ込んだ。
そこは、周囲に誰もいない、二人きりの空間。
けれど、タクミが椅子に座るたびに、「カリッ、ふわぁ……」と、焼きたてのクロワッサンのような音が響いてしまう。
「……ふぅ。……タクミ。お前は本当に、騒がしい奴だな」
ガイは苦笑しながら、タクミの隣に腰を下ろした。
ガイの大きな手が、タクミの頭を優しく撫でる。
すると今度は、音ではなく、ガイの「本音」がポツリと漏れた。
「……タクミ。俺は、この音が『肉が焼ける音』に聞こえるから、お前の側にいたいわけじゃないんだ」
「……え?」
「お前が動くたびに、音がする。……それは、お前がそこに『生きている』という証拠のように聞こえるんだ。……俺は、お前という存在そのものに、ずっと耳を傾けていたいんだよ」
ガイの視線が、かつてないほど穏やかにタクミを包み込む。
タクミの体からは、いつの間にか激しい肉の音は消え、トクトク……という、力強い「心臓の鼓動」だけが響き始めていた。
「(……じっくり、ゆっくり。……食欲のふりをして、この人はずっと、俺の『命』を肯定してくれてるんだな)」
「……ガイさん。……俺の心臓の音、うるさくないですか?」
「……いや。……これまでのどんな御馳走よりも、俺を元気にしてくれる、最高の音だ」
ガイはそう言うと、タクミの額にそっと、羽に触れるような軽いキスを落とした。
二人の間に流れるのは、美味しい匂いでも、賑やかな音でもない。
ただ、お互いを大切に想う、静かな「呼吸」だけだった。
……が、その十秒後。
タクミの体から「ぐうぅぅぅぅ……」という、盛大な空腹の音が響き渡った。
「…………タクミ。今の音は、ステーキか?」
「……いえ、ただの俺の腹時計です。……ガイさん、お腹空きました」
「よし。……今日は、俺が最高のオムレツを作ってやろう」
二人の恋は、やっぱり「胃袋」を通って、一歩ずつ、のんびりと進んでいくのであった。
翌朝、ガイは己の耳を疑いながら目を覚ました。
団長室の静寂を破っていたのは、タクミの寝息……ではない。
じゅうぅぅぅ……、パチパチッ!
という、強火で熱せられた鉄板に最高級の肉を乗せた瞬間にしか出せない、黄金のメロディだった。
「……ん、んん? ガイさん、おはようございます……。なんか、部屋の中、騒がしくないですか?」
タクミが寝返りを打つたびに、
「ザクッ、じゅわぁぁ……」
と、肉厚のカツにナイフを入れた時のような、衣が弾ける小気味よい音がタクミの体から響き渡る。
「(……最悪だ。今度は『歩くASMR(音テロ)』かよ!!)」
タクミが起き上がると、音はさらに鮮明になった。
今の彼からは、ガーリックステーキが焼ける匂いと同時に、その「焼ける音」までもがリアルタイムで再生されていた。
「タクミ、お前……。匂いだけでも白米が三杯はいけるというのに、この『音』まで加わるとは……。俺の胃袋を破裂させる気か!」
「俺のせいじゃないって言ってるでしょ! うわっ、ちょっと、お腹を叩かないでください!」
タクミが自分のお腹をさすると、「ポシュッ」と肉汁が溢れ出すような音が響く。
ガイはたまらず、タクミの腹部に耳を押し当てた。
「……あぁ、いい音だ。……脂が跳ねる音まで聞こえる。……タクミ、お前、本当は人間ではなく、精巧に作られた『肉の精霊』なんじゃないのか?」
「それ、褒めてないですよね!? 完全に食材扱いですよね!?」
* * *
その日の騎士団は、かつてないほどの「静寂」に包まれていた。
……いや、全員が「聞き耳を立てていた」のだ。
タクミが廊下を一歩歩くたびに、「サクッ……じゅわっ……」と、揚げたての唐揚げのような軽快な音が響く。
騎士たちは訓練の手を止め、息を殺してその音に酔いしれていた。
「……聞こえるか。あの、衣のクリスピーな響き」
「ああ……。昨晩の質素な粥が、耳の中でトンカツに変換されていく……」
もはや騎士団は、タクミを「見る」ことも「嗅ぐ」こともせず、ただ「聴く」ことに専念する変態集団と化していた。
そこへ、我慢の限界を迎えたガイが、愛剣をバットのように担いで現れた。
「貴様らぁぁ!! 俺のタクミの『ASMR』を盗み聞きするなぁぁ!!」
ガイはタクミの耳を両手で塞ぎ(自分の耳を塞ぐべきなのだが)、周囲の騎士たちを怒鳴り散らした。
「この音は、俺の耳元だけで奏でられるべき聖歌(讃美歌)だ! 誰にも一デシベルたりとも聞かせてなるものか!!」
「ガイさん! もういいから、とりあえず部屋に戻りましょう! 恥ずかしくて死にそうです!」
タクミはガイを引っ張って、中庭の奥にある東屋へと逃げ込んだ。
そこは、周囲に誰もいない、二人きりの空間。
けれど、タクミが椅子に座るたびに、「カリッ、ふわぁ……」と、焼きたてのクロワッサンのような音が響いてしまう。
「……ふぅ。……タクミ。お前は本当に、騒がしい奴だな」
ガイは苦笑しながら、タクミの隣に腰を下ろした。
ガイの大きな手が、タクミの頭を優しく撫でる。
すると今度は、音ではなく、ガイの「本音」がポツリと漏れた。
「……タクミ。俺は、この音が『肉が焼ける音』に聞こえるから、お前の側にいたいわけじゃないんだ」
「……え?」
「お前が動くたびに、音がする。……それは、お前がそこに『生きている』という証拠のように聞こえるんだ。……俺は、お前という存在そのものに、ずっと耳を傾けていたいんだよ」
ガイの視線が、かつてないほど穏やかにタクミを包み込む。
タクミの体からは、いつの間にか激しい肉の音は消え、トクトク……という、力強い「心臓の鼓動」だけが響き始めていた。
「(……じっくり、ゆっくり。……食欲のふりをして、この人はずっと、俺の『命』を肯定してくれてるんだな)」
「……ガイさん。……俺の心臓の音、うるさくないですか?」
「……いや。……これまでのどんな御馳走よりも、俺を元気にしてくれる、最高の音だ」
ガイはそう言うと、タクミの額にそっと、羽に触れるような軽いキスを落とした。
二人の間に流れるのは、美味しい匂いでも、賑やかな音でもない。
ただ、お互いを大切に想う、静かな「呼吸」だけだった。
……が、その十秒後。
タクミの体から「ぐうぅぅぅぅ……」という、盛大な空腹の音が響き渡った。
「…………タクミ。今の音は、ステーキか?」
「……いえ、ただの俺の腹時計です。……ガイさん、お腹空きました」
「よし。……今日は、俺が最高のオムレツを作ってやろう」
二人の恋は、やっぱり「胃袋」を通って、一歩ずつ、のんびりと進んでいくのであった。
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