異世界転生して「誘惑」スキルを得たはずがなぜか脳筋騎士たちの「食欲」を刺激する体質になった件~俺のフェロモン肉の焼ける匂いか何かなの!?~

たら昆布

文字の大きさ
17 / 22

17話

しおりを挟む
「……なんだ、この『いい音』は。タクミ、お前、布団の中に鉄板でも隠し持っているのか?」

翌朝、ガイは己の耳を疑いながら目を覚ました。
団長室の静寂を破っていたのは、タクミの寝息……ではない。

じゅうぅぅぅ……、パチパチッ!
という、強火で熱せられた鉄板に最高級の肉を乗せた瞬間にしか出せない、黄金のメロディだった。

「……ん、んん? ガイさん、おはようございます……。なんか、部屋の中、騒がしくないですか?」

タクミが寝返りを打つたびに、
「ザクッ、じゅわぁぁ……」
と、肉厚のカツにナイフを入れた時のような、衣が弾ける小気味よい音がタクミの体から響き渡る。

「(……最悪だ。今度は『歩くASMR(音テロ)』かよ!!)」

タクミが起き上がると、音はさらに鮮明になった。
今の彼からは、ガーリックステーキが焼ける匂いと同時に、その「焼ける音」までもがリアルタイムで再生されていた。

「タクミ、お前……。匂いだけでも白米が三杯はいけるというのに、この『音』まで加わるとは……。俺の胃袋を破裂させる気か!」

「俺のせいじゃないって言ってるでしょ! うわっ、ちょっと、お腹を叩かないでください!」

タクミが自分のお腹をさすると、「ポシュッ」と肉汁が溢れ出すような音が響く。
ガイはたまらず、タクミの腹部に耳を押し当てた。

「……あぁ、いい音だ。……脂が跳ねる音まで聞こえる。……タクミ、お前、本当は人間ではなく、精巧に作られた『肉の精霊』なんじゃないのか?」

「それ、褒めてないですよね!? 完全に食材扱いですよね!?」

   * * *

その日の騎士団は、かつてないほどの「静寂」に包まれていた。
……いや、全員が「聞き耳を立てていた」のだ。

タクミが廊下を一歩歩くたびに、「サクッ……じゅわっ……」と、揚げたての唐揚げのような軽快な音が響く。
騎士たちは訓練の手を止め、息を殺してその音に酔いしれていた。

「……聞こえるか。あの、衣のクリスピーな響き」
「ああ……。昨晩の質素な粥が、耳の中でトンカツに変換されていく……」

もはや騎士団は、タクミを「見る」ことも「嗅ぐ」こともせず、ただ「聴く」ことに専念する変態集団と化していた。

そこへ、我慢の限界を迎えたガイが、愛剣をバットのように担いで現れた。

「貴様らぁぁ!! 俺のタクミの『ASMR』を盗み聞きするなぁぁ!!」

ガイはタクミの耳を両手で塞ぎ(自分の耳を塞ぐべきなのだが)、周囲の騎士たちを怒鳴り散らした。

「この音は、俺の耳元だけで奏でられるべき聖歌(讃美歌)だ! 誰にも一デシベルたりとも聞かせてなるものか!!」

「ガイさん! もういいから、とりあえず部屋に戻りましょう! 恥ずかしくて死にそうです!」

タクミはガイを引っ張って、中庭の奥にある東屋へと逃げ込んだ。
そこは、周囲に誰もいない、二人きりの空間。
けれど、タクミが椅子に座るたびに、「カリッ、ふわぁ……」と、焼きたてのクロワッサンのような音が響いてしまう。

「……ふぅ。……タクミ。お前は本当に、騒がしい奴だな」

ガイは苦笑しながら、タクミの隣に腰を下ろした。
ガイの大きな手が、タクミの頭を優しく撫でる。
すると今度は、音ではなく、ガイの「本音」がポツリと漏れた。

「……タクミ。俺は、この音が『肉が焼ける音』に聞こえるから、お前の側にいたいわけじゃないんだ」

「……え?」

「お前が動くたびに、音がする。……それは、お前がそこに『生きている』という証拠のように聞こえるんだ。……俺は、お前という存在そのものに、ずっと耳を傾けていたいんだよ」

ガイの視線が、かつてないほど穏やかにタクミを包み込む。
タクミの体からは、いつの間にか激しい肉の音は消え、トクトク……という、力強い「心臓の鼓動」だけが響き始めていた。

「(……じっくり、ゆっくり。……食欲のふりをして、この人はずっと、俺の『命』を肯定してくれてるんだな)」

「……ガイさん。……俺の心臓の音、うるさくないですか?」

「……いや。……これまでのどんな御馳走よりも、俺を元気にしてくれる、最高の音だ」

ガイはそう言うと、タクミの額にそっと、羽に触れるような軽いキスを落とした。
二人の間に流れるのは、美味しい匂いでも、賑やかな音でもない。
ただ、お互いを大切に想う、静かな「呼吸」だけだった。

……が、その十秒後。
タクミの体から「ぐうぅぅぅぅ……」という、盛大な空腹の音が響き渡った。

「…………タクミ。今の音は、ステーキか?」

「……いえ、ただの俺の腹時計です。……ガイさん、お腹空きました」

「よし。……今日は、俺が最高のオムレツを作ってやろう」

二人の恋は、やっぱり「胃袋」を通って、一歩ずつ、のんびりと進んでいくのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *本編完結しました

聖女召喚の巻き添えで喚ばれた「オマケ」の男子高校生ですが、魔王様の「抱き枕」として重宝されています

八百屋 成美
BL
聖女召喚に巻き込まれて異世界に来た主人公。聖女は優遇されるが、魔力のない主人公は城から追い出され、魔の森へ捨てられる。 そこで出会ったのは、強大な魔力ゆえに不眠症に悩む魔王。なぜか主人公の「匂い」や「体温」だけが魔王を安眠させることができると判明し、魔王城で「生きた抱き枕」として飼われることになる。

悩める文官のひとりごと

きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。 そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。 エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。 ムーンライト様にも掲載しております。 

推しのために自分磨きしていたら、いつの間にか婚約者!

木月月
BL
異世界転生したモブが、前世の推し(アプリゲームの攻略対象者)の幼馴染な側近候補に同担拒否されたので、ファンとして自分磨きしたら推しの婚約者にされる話。 この話は小説家になろうにも投稿しています。

【16話完結】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /チャッピー AI比較企画作品

とある文官のひとりごと

きりか
BL
貧乏な弱小子爵家出身のノア・マキシム。 アシュリー王国の花形騎士団の文官として、日々頑張っているが、学生の頃からやたらと絡んでくるイケメン部隊長であるアベル・エメを大の苦手というか、天敵認定をしていた。しかし、ある日、父の借金が判明して…。 基本コメディで、少しだけシリアス? エチシーンところか、チュッどまりで申し訳ございません(土下座) ムーンライト様でも公開しております。

悪役令息の兄って需要ありますか?

焦げたせんべい
BL
今をときめく悪役による逆転劇、ザマァやらエトセトラ。 その悪役に歳の離れた兄がいても、気が強くなければ豆電球すら光らない。 これは物語の終盤にチラッと出てくる、折衷案を出す兄の話である。

ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。~旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます2~

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
 第二夫人に最愛の旦那様も息子も奪われ、挙句の果てに家から追い出された伯爵夫人・フィーリアは、なけなしの餞別だけを持って大雨の中を歩き続けていたところ、とある男の子たちに出会う。  言葉汚く直情的で、だけど決してフィーリアを無視したりはしない、ディーダ。  喋り方こそ柔らかいが、その実どこか冷めた毒舌家である、ノイン。    12、3歳ほどに見える彼らとひょんな事から共同生活を始めた彼女は、人々の優しさに触れて少しずつ自身の居場所を確立していく。 ==== ●本作は「ボロ雑巾な伯爵夫人、旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます。」からの続き作品です。  前作では、二人との出会い~同居を描いています。  順番に読んでくださる方は、目次下にリンクを張っておりますので、そちらからお入りください。  ※アプリで閲覧くださっている方は、タイトルで検索いただけますと表示されます。

処理中です...