18 / 22
18話
しおりを挟む
「……タクミ。眩しい。眩しすぎるぞ。お前はついに、発光体になったのか」
翌朝、ガイは腕で目を覆いながら、呻くように言った。
団長室のベッドの上に座るタクミの周囲には、物理的な「光」が溢れていた。
それは単なる光ではない。
よくテレビのグルメ番組や、SNSの映える料理写真で使われる、あのキラキラとした「美味しそうなエフェクト」である。タクミが首をかしげるたびに、黄金色の星が飛び散り、湯気が立ち上り、背景にはなぜか「新鮮なパセリ」の幻影が舞っている。
「(……最悪だ。今度は『歩く加工アプリ』かよ!!)」
タクミがため息をつくと、その吐息さえもが「極上のフレンチのソースの香り」を伴った虹色の粒子となって室内に拡散される。
「ガイさん、これ、俺の意思じゃないんです! 女神のバグが視覚にまで進出したみたいで……」
「……分かっている。だが、タクミ。……今の貴様は、その、あまりにも……『神々しいまでのメインディッシュ』だ。俺の理性が、白旗を揚げてバイキング会場へ走り出そうとしているぞ」
ガイは抗うように枕に顔を埋めたが、タクミから放たれる「特上うな重のタレの照り」のような黄金のオーラに、胃袋が激しく鳴動するのを止められなかった。
* * *
その日の騎士団本部は、もはや仕事どころではなかった。
タクミが廊下を通るだけで、周囲の風景が「超高画質のグルメ映画」に変貌する。
石造りの冷たい壁は、タクミが通り過ぎる瞬間だけ「こんがり焼けたトースト」のような色味になり、騎士たちが持つ槍は「アスパラガスの肉巻き」に見えてくるという始末だ。
「……見てくれ、あのタクミ君の後光を。……俺、あの光を浴びているだけで、健康診断の結果が良くなる気がする」
「ああ……。タクミ君が歩いた後に落ちているキラキラ(エフェクト)、あれ、集めてパンに振りかけたら美味いんじゃないか?」
「食べられませんよ! それ、ただの光の粒子ですから!」
タクミのツッコミも、エフェクトの輝きの前では虚しく霧散する。
そんな中、ガイは一人、深刻な顔でタクミを城塞のバルコニーへと連れ出した。
夕暮れ時。茜色の空と、タクミから放たれる「肉汁を閉じ込めたような琥珀色のオーラ」が混ざり合い、なんとも言えない幻想的な光景が広がっていた。
「……タクミ。俺は、さっきからずっと考えていた」
ガイが、タクミの肩をそっと抱き寄せる。
その手は震えておらず、ただ、そこにある存在を確かめるように温かかった。
「お前は、いつか消えてしまうのではないか? ……こんなに美味しそうで、こんなに眩しくて……。こんな、おかしな『奇跡』のような存在が、いつまでも俺のような脳筋の側にいてくれるはずがない」
ガイの瞳には、食欲ではない、純粋な「不安」が宿っていた。
タクミのスキルが進化すればするほど、それはタクミが「この世界の住人ではない」ことを強調しているようにも見えたのだ。
「……ガイさん。……俺、さっきフェリに言われたんです」
タクミは、夕陽を見つめながら静かに続けた。
「このスキルのバグが全部出切った時……つまり、五感のすべてを制覇した時、俺は元の世界に強制送還されるかもしれないって」
「……っ!!」
ガイの腕に、力がこもる。
「……返さん。……神が何を言おうと、俺は……俺の胃袋と心臓が、お前を離すなと叫んでいる」
「……ふふ。……ガイさん。……俺も、帰りたくないですよ。……だって、向こうの世界には……俺のことをこんなに『美味しそうに』、……いえ、こんなに『大切そうに』見てくれる人、他にいませんから」
タクミがガイの胸に顔を埋めると、タクミの周囲に舞っていたキラキラとしたエフェクトが、一瞬だけ「ハート型」に変化した。
「(……じっくり、ゆっくり。……でも、期限が決まっているなら、俺は……)」
「……タクミ。……俺の、負けだ。……お前が、食べ物に見えるからじゃない。……お前がいないと、俺の人生の『味』がしなくなるんだ」
ガイはそう言うと、タクミを包み込むように深く抱きしめた。
二人の間に、美味しい匂いも、音も、光も溢れている。
けれど、今の二人にとって一番大切なのは、お互いの体温という「本物の感触」だけだった。
……その直後。
「あ、団長ー! そこでイチャついてると、タクミ君のエフェクトのせいで城塞全体が『巨大なプリン』に見え始めて、近隣の住民がスプーン持って集まってきてますよー!」
カシアンの野次が、しんみりした空気を一瞬でブチ壊した。
「……カシアン。貴様、今すぐスプーンを持って、外の住民を追い払ってこい! 邪魔をするなと言ったはずだ!!」
二人の恋は、いよいよ「最高潮の盛り付け」へと向かっていく。
けれど、やっぱりどこか「お腹が空く」展開からは、逃げられそうになかった。
翌朝、ガイは腕で目を覆いながら、呻くように言った。
団長室のベッドの上に座るタクミの周囲には、物理的な「光」が溢れていた。
それは単なる光ではない。
よくテレビのグルメ番組や、SNSの映える料理写真で使われる、あのキラキラとした「美味しそうなエフェクト」である。タクミが首をかしげるたびに、黄金色の星が飛び散り、湯気が立ち上り、背景にはなぜか「新鮮なパセリ」の幻影が舞っている。
「(……最悪だ。今度は『歩く加工アプリ』かよ!!)」
タクミがため息をつくと、その吐息さえもが「極上のフレンチのソースの香り」を伴った虹色の粒子となって室内に拡散される。
「ガイさん、これ、俺の意思じゃないんです! 女神のバグが視覚にまで進出したみたいで……」
「……分かっている。だが、タクミ。……今の貴様は、その、あまりにも……『神々しいまでのメインディッシュ』だ。俺の理性が、白旗を揚げてバイキング会場へ走り出そうとしているぞ」
ガイは抗うように枕に顔を埋めたが、タクミから放たれる「特上うな重のタレの照り」のような黄金のオーラに、胃袋が激しく鳴動するのを止められなかった。
* * *
その日の騎士団本部は、もはや仕事どころではなかった。
タクミが廊下を通るだけで、周囲の風景が「超高画質のグルメ映画」に変貌する。
石造りの冷たい壁は、タクミが通り過ぎる瞬間だけ「こんがり焼けたトースト」のような色味になり、騎士たちが持つ槍は「アスパラガスの肉巻き」に見えてくるという始末だ。
「……見てくれ、あのタクミ君の後光を。……俺、あの光を浴びているだけで、健康診断の結果が良くなる気がする」
「ああ……。タクミ君が歩いた後に落ちているキラキラ(エフェクト)、あれ、集めてパンに振りかけたら美味いんじゃないか?」
「食べられませんよ! それ、ただの光の粒子ですから!」
タクミのツッコミも、エフェクトの輝きの前では虚しく霧散する。
そんな中、ガイは一人、深刻な顔でタクミを城塞のバルコニーへと連れ出した。
夕暮れ時。茜色の空と、タクミから放たれる「肉汁を閉じ込めたような琥珀色のオーラ」が混ざり合い、なんとも言えない幻想的な光景が広がっていた。
「……タクミ。俺は、さっきからずっと考えていた」
ガイが、タクミの肩をそっと抱き寄せる。
その手は震えておらず、ただ、そこにある存在を確かめるように温かかった。
「お前は、いつか消えてしまうのではないか? ……こんなに美味しそうで、こんなに眩しくて……。こんな、おかしな『奇跡』のような存在が、いつまでも俺のような脳筋の側にいてくれるはずがない」
ガイの瞳には、食欲ではない、純粋な「不安」が宿っていた。
タクミのスキルが進化すればするほど、それはタクミが「この世界の住人ではない」ことを強調しているようにも見えたのだ。
「……ガイさん。……俺、さっきフェリに言われたんです」
タクミは、夕陽を見つめながら静かに続けた。
「このスキルのバグが全部出切った時……つまり、五感のすべてを制覇した時、俺は元の世界に強制送還されるかもしれないって」
「……っ!!」
ガイの腕に、力がこもる。
「……返さん。……神が何を言おうと、俺は……俺の胃袋と心臓が、お前を離すなと叫んでいる」
「……ふふ。……ガイさん。……俺も、帰りたくないですよ。……だって、向こうの世界には……俺のことをこんなに『美味しそうに』、……いえ、こんなに『大切そうに』見てくれる人、他にいませんから」
タクミがガイの胸に顔を埋めると、タクミの周囲に舞っていたキラキラとしたエフェクトが、一瞬だけ「ハート型」に変化した。
「(……じっくり、ゆっくり。……でも、期限が決まっているなら、俺は……)」
「……タクミ。……俺の、負けだ。……お前が、食べ物に見えるからじゃない。……お前がいないと、俺の人生の『味』がしなくなるんだ」
ガイはそう言うと、タクミを包み込むように深く抱きしめた。
二人の間に、美味しい匂いも、音も、光も溢れている。
けれど、今の二人にとって一番大切なのは、お互いの体温という「本物の感触」だけだった。
……その直後。
「あ、団長ー! そこでイチャついてると、タクミ君のエフェクトのせいで城塞全体が『巨大なプリン』に見え始めて、近隣の住民がスプーン持って集まってきてますよー!」
カシアンの野次が、しんみりした空気を一瞬でブチ壊した。
「……カシアン。貴様、今すぐスプーンを持って、外の住民を追い払ってこい! 邪魔をするなと言ったはずだ!!」
二人の恋は、いよいよ「最高潮の盛り付け」へと向かっていく。
けれど、やっぱりどこか「お腹が空く」展開からは、逃げられそうになかった。
11
あなたにおすすめの小説
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*本編完結しました
聖女召喚の巻き添えで喚ばれた「オマケ」の男子高校生ですが、魔王様の「抱き枕」として重宝されています
八百屋 成美
BL
聖女召喚に巻き込まれて異世界に来た主人公。聖女は優遇されるが、魔力のない主人公は城から追い出され、魔の森へ捨てられる。
そこで出会ったのは、強大な魔力ゆえに不眠症に悩む魔王。なぜか主人公の「匂い」や「体温」だけが魔王を安眠させることができると判明し、魔王城で「生きた抱き枕」として飼われることになる。
悩める文官のひとりごと
きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。
そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。
エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。
ムーンライト様にも掲載しております。
推しのために自分磨きしていたら、いつの間にか婚約者!
木月月
BL
異世界転生したモブが、前世の推し(アプリゲームの攻略対象者)の幼馴染な側近候補に同担拒否されたので、ファンとして自分磨きしたら推しの婚約者にされる話。
この話は小説家になろうにも投稿しています。
【16話完結】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /チャッピー
AI比較企画作品
とある文官のひとりごと
きりか
BL
貧乏な弱小子爵家出身のノア・マキシム。
アシュリー王国の花形騎士団の文官として、日々頑張っているが、学生の頃からやたらと絡んでくるイケメン部隊長であるアベル・エメを大の苦手というか、天敵認定をしていた。しかし、ある日、父の借金が判明して…。
基本コメディで、少しだけシリアス?
エチシーンところか、チュッどまりで申し訳ございません(土下座)
ムーンライト様でも公開しております。
悪役令息の兄って需要ありますか?
焦げたせんべい
BL
今をときめく悪役による逆転劇、ザマァやらエトセトラ。
その悪役に歳の離れた兄がいても、気が強くなければ豆電球すら光らない。
これは物語の終盤にチラッと出てくる、折衷案を出す兄の話である。
ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。~旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます2~
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
第二夫人に最愛の旦那様も息子も奪われ、挙句の果てに家から追い出された伯爵夫人・フィーリアは、なけなしの餞別だけを持って大雨の中を歩き続けていたところ、とある男の子たちに出会う。
言葉汚く直情的で、だけど決してフィーリアを無視したりはしない、ディーダ。
喋り方こそ柔らかいが、その実どこか冷めた毒舌家である、ノイン。
12、3歳ほどに見える彼らとひょんな事から共同生活を始めた彼女は、人々の優しさに触れて少しずつ自身の居場所を確立していく。
====
●本作は「ボロ雑巾な伯爵夫人、旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます。」からの続き作品です。
前作では、二人との出会い~同居を描いています。
順番に読んでくださる方は、目次下にリンクを張っておりますので、そちらからお入りください。
※アプリで閲覧くださっている方は、タイトルで検索いただけますと表示されます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる