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19話
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「……タクミ。貴様、身体に何を塗った。……なぜ、そんなに『吸いつく』のだ」
翌朝、ガイの声は、快楽と苦悩が入り混じったような、形容しがたい響きを帯びていた。
団長室のベッドの上で、ガイはタクミの腕を掴んだまま、呆然と固まっている。
タクミが自分の肌を触ってみると、そこにはかつてない「革命的な感触」が備わっていた。
柔らかく、しっとりとしていて、指を押し戻すような絶妙な弾力。それは、最高級の小麦粉を丹念に捏ね上げ、完璧な温度で発酵させた直後の「生食パンの生地」、あるいはつきたての「最高級の大福」そのものだった。
「(……最悪だ。五感のトドメは『歩く癒やしグッズ(物理)』かよ!!)」
タクミが動くたびに、その肌は「もちっ、ふわっ」と官能的な音を立て(聞こえるのはガイの脳内だけかもしれないが)、触れる者の指を離さない。
「ガイさん、これ……触覚のバグです。離してください、捏ねないでください!」
「……離せん。……この、指が沈み込むような……それでいて、確かな存在感のある弾力。……タクミ、お前はもう、人間というより『至高の寝具(兼、非常食)』だな。……あぁ、このまま顔を埋めて、永眠したい……」
ガイは、タクミの二の腕に顔を埋め、深いため息をついた。
これまでの「匂い」や「音」は、まだ理性の鎖で繋ぎ止めることができた。だが、この「触感」はダイレクトに本能を揺さぶってくる。
* * *
その日の騎士団は、かつてないほどの「労働意欲の低下」に見舞われていた。
タクミが中庭の椅子に座っているだけで、通りかかる騎士たちが次々と「吸い寄せられて」くる。
「……タクミ君。……一回だけでいい。その、ほっぺたを……一突きさせてくれないか? ……俺、今日すごく嫌なことがあったんだけど、君に触れたら全部忘れられそうな気がするんだ」
「列に並べ! 団長公認の『モチモチ体験会』は十五時からだぞ!」
「そんな会、開いてませんから!!」
タクミの周囲には、すでに「癒やし」を求める騎士たちの行列ができ始めていた。
だが、そこへ――これまでの「食欲モード」とは一線を画す、真剣な殺気を纏ったガイが現れた。
「……どけ。……その『もちもち』を、一微塵たりとも他人に触れさせるなと言ったはずだ」
ガイは、列に並んでいた騎士たちを眼光だけで追い散らすと、タクミの肩を抱き寄せた。
その手つきは、先ほどまでの「捏ね回す」ようなものではなく、壊れやすい宝物を包み込むような、慈しみに満ちたものに変わっていた。
「……タクミ。……俺は、決めたぞ」
ガイは、タクミを城塞の最も高い塔にある、隠れ家のような小部屋へと連れて行った。
夕暮れの光が差し込む中、ガイはタクミを椅子に座らせ、自分はその前に膝をついた。
「フェリが言っていたな。五感を制覇した時、お前は消えてしまうかもしれないと。……ならば、お前が『消える』前に、俺がお前を『定着』させてやる」
「……定着?」
「俺のこの手が、お前の『もちもち』を覚えている限り……俺のこの鼻が、お前の匂いを忘れない限り……。神だろうが、女神だろうが、お前を連れ去ることはさせん」
ガイの手が、タクミの両頬をそっと包み込む。
タクミの肌は相変わらず「もちもち」で、ガイの指を優しく押し返している。
けれど、二人の視線がぶつかり合った瞬間、スキルのエフェクトも、匂いも、触感も、すべてが背景へと退いていった。
「……タクミ。俺は、お前が好きだ。……肉でも、パンでも、酒でもない。……俺の横で、情けない顔をしてツッコミを入れ、たまに美味そうに飯を食う、佐藤巧(さとう たくみ)という、ただの一人の男を……俺の生涯の『メインディッシュ(伴侶)』として迎えたい」
「…………っ」
タクミの目から、一粒の涙がこぼれた。
その涙さえもが「最高級のシロップ」のような輝きを放っているけれど、ガイはそれを拭い、濡れた指先を自分の胸に当てた。
「……じっくり、ゆっくり。……そう言っていたが、もう待てん。……お前が消える前に、俺の『印』を刻ませろ」
ガイの顔が、ゆっくりと近づいてくる。
タクミは、もう逃げようとはしなかった。
「もちもち」の頬に、ガイの熱い唇が触れようとした、その時。
空が、まばゆい光に包まれた。
「タクミ様ー! タイムリミットでーす! さあ、元の世界に帰りましょうか!」
フェリの声が、非情にも響き渡る。
二人の「最後の仕上げ」を邪魔するように、次元の裂け目から巨大な「フォーク」のような光が降りてきた。
「……ふざけるなッ!!」
ガイが、愛剣を抜いて光を切り裂こうとする。
タクミは、ガイの腕を必死に掴んだ。
「ガイさん! 俺……俺、帰りたくない! ずっと、ガイさんのオカズでいたい!!」
「……タクミィィィ!!」
二人の手が、光の中で強く、強く結ばれた。
スキルのバグが最高潮に達し、世界が「焼きたてのパン」のような黄金色の光に包まれていく――。
翌朝、ガイの声は、快楽と苦悩が入り混じったような、形容しがたい響きを帯びていた。
団長室のベッドの上で、ガイはタクミの腕を掴んだまま、呆然と固まっている。
タクミが自分の肌を触ってみると、そこにはかつてない「革命的な感触」が備わっていた。
柔らかく、しっとりとしていて、指を押し戻すような絶妙な弾力。それは、最高級の小麦粉を丹念に捏ね上げ、完璧な温度で発酵させた直後の「生食パンの生地」、あるいはつきたての「最高級の大福」そのものだった。
「(……最悪だ。五感のトドメは『歩く癒やしグッズ(物理)』かよ!!)」
タクミが動くたびに、その肌は「もちっ、ふわっ」と官能的な音を立て(聞こえるのはガイの脳内だけかもしれないが)、触れる者の指を離さない。
「ガイさん、これ……触覚のバグです。離してください、捏ねないでください!」
「……離せん。……この、指が沈み込むような……それでいて、確かな存在感のある弾力。……タクミ、お前はもう、人間というより『至高の寝具(兼、非常食)』だな。……あぁ、このまま顔を埋めて、永眠したい……」
ガイは、タクミの二の腕に顔を埋め、深いため息をついた。
これまでの「匂い」や「音」は、まだ理性の鎖で繋ぎ止めることができた。だが、この「触感」はダイレクトに本能を揺さぶってくる。
* * *
その日の騎士団は、かつてないほどの「労働意欲の低下」に見舞われていた。
タクミが中庭の椅子に座っているだけで、通りかかる騎士たちが次々と「吸い寄せられて」くる。
「……タクミ君。……一回だけでいい。その、ほっぺたを……一突きさせてくれないか? ……俺、今日すごく嫌なことがあったんだけど、君に触れたら全部忘れられそうな気がするんだ」
「列に並べ! 団長公認の『モチモチ体験会』は十五時からだぞ!」
「そんな会、開いてませんから!!」
タクミの周囲には、すでに「癒やし」を求める騎士たちの行列ができ始めていた。
だが、そこへ――これまでの「食欲モード」とは一線を画す、真剣な殺気を纏ったガイが現れた。
「……どけ。……その『もちもち』を、一微塵たりとも他人に触れさせるなと言ったはずだ」
ガイは、列に並んでいた騎士たちを眼光だけで追い散らすと、タクミの肩を抱き寄せた。
その手つきは、先ほどまでの「捏ね回す」ようなものではなく、壊れやすい宝物を包み込むような、慈しみに満ちたものに変わっていた。
「……タクミ。……俺は、決めたぞ」
ガイは、タクミを城塞の最も高い塔にある、隠れ家のような小部屋へと連れて行った。
夕暮れの光が差し込む中、ガイはタクミを椅子に座らせ、自分はその前に膝をついた。
「フェリが言っていたな。五感を制覇した時、お前は消えてしまうかもしれないと。……ならば、お前が『消える』前に、俺がお前を『定着』させてやる」
「……定着?」
「俺のこの手が、お前の『もちもち』を覚えている限り……俺のこの鼻が、お前の匂いを忘れない限り……。神だろうが、女神だろうが、お前を連れ去ることはさせん」
ガイの手が、タクミの両頬をそっと包み込む。
タクミの肌は相変わらず「もちもち」で、ガイの指を優しく押し返している。
けれど、二人の視線がぶつかり合った瞬間、スキルのエフェクトも、匂いも、触感も、すべてが背景へと退いていった。
「……タクミ。俺は、お前が好きだ。……肉でも、パンでも、酒でもない。……俺の横で、情けない顔をしてツッコミを入れ、たまに美味そうに飯を食う、佐藤巧(さとう たくみ)という、ただの一人の男を……俺の生涯の『メインディッシュ(伴侶)』として迎えたい」
「…………っ」
タクミの目から、一粒の涙がこぼれた。
その涙さえもが「最高級のシロップ」のような輝きを放っているけれど、ガイはそれを拭い、濡れた指先を自分の胸に当てた。
「……じっくり、ゆっくり。……そう言っていたが、もう待てん。……お前が消える前に、俺の『印』を刻ませろ」
ガイの顔が、ゆっくりと近づいてくる。
タクミは、もう逃げようとはしなかった。
「もちもち」の頬に、ガイの熱い唇が触れようとした、その時。
空が、まばゆい光に包まれた。
「タクミ様ー! タイムリミットでーす! さあ、元の世界に帰りましょうか!」
フェリの声が、非情にも響き渡る。
二人の「最後の仕上げ」を邪魔するように、次元の裂け目から巨大な「フォーク」のような光が降りてきた。
「……ふざけるなッ!!」
ガイが、愛剣を抜いて光を切り裂こうとする。
タクミは、ガイの腕を必死に掴んだ。
「ガイさん! 俺……俺、帰りたくない! ずっと、ガイさんのオカズでいたい!!」
「……タクミィィィ!!」
二人の手が、光の中で強く、強く結ばれた。
スキルのバグが最高潮に達し、世界が「焼きたてのパン」のような黄金色の光に包まれていく――。
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