異世界転生して「誘惑」スキルを得たはずがなぜか脳筋騎士たちの「食欲」を刺激する体質になった件~俺のフェロモン肉の焼ける匂いか何かなの!?~

たら昆布

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20話

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「……タクミ! 離すな、絶対に離すなと言っているだろう!」

次元の裂け目から降り注ぐ「黄金のフォーク」のような光の中で、ガイの叫びが響き渡る。
タクミの体は宙に浮き、足元から少しずつ粒子となって、元の世界へと引き戻されようとしていた。

「ガイさん……! でも、俺がいたらガイさんの理性が……胃袋が壊れちゃう!」

「壊れても構わん! 胃袋の一つや二つ、お前がいない虚無感に比べれば安いものだ!」

ガイは強引に光の渦へと飛び込み、タクミの腰をがっしりと抱きしめた。
その瞬間、タクミの体から放たれていた「もちもち」の感触も、「肉が焼ける音」も、「加工アプリのようなエフェクト」も、すべてが一箇所に集束し――まばゆい爆発を起こした。

   * * *

「……ん。……ここは?」

タクミが目を覚ますと、そこはいつもの団長室だった。
窓の外には穏やかな朝日が差し込み、小鳥が囀っている。

「……夢、だったのかな」

タクミが起き上がろうとすると、隣で寝ていた「巨大な塊」がもぞりと動いた。
ガイだ。彼はいつも通り、タクミを抱き枕のようにして眠っている。

(……あ、でも。……匂いが、しない)

タクミが自分の腕を嗅いでみる。
焼き肉のタレも、パンケーキも、激辛カレーの匂いもしない。
それどころか、あの「もちもち」とした過剰な弾力も、キラキラしたエフェクトも、すべて消えていた。

「……ガイさん。ガイさん、起きてください!」

「……むぅ。……タクミか。……なんだ、朝から騒がしい。……昨日の『光のフォーク』はどうなったんだ?」

ガイが眠そうに目を擦りながら起き上がる。
そして、タクミの顔をじっと見つめ……そのまま、動きを止めた。

「…………タクミ。お前、匂いは?」

「しないんです。全部消えちゃったみたいで……。俺、ただの『美味しそうじゃない人間』に戻っちゃいました。……ごめんなさい、もうガイさんの食欲を刺激してあげられない」

タクミが俯くと、ガイはしばらく沈黙した後、大きく鼻を鳴らした。
そして、タクミの首筋に深く顔を埋め、何度も、何度も、その「無臭」の肌を確かめるように吸い込んだ。

「…………あぁ。……最高だ」

「え?」

「肉の匂いもしない。菓子の匂いもしない。……ただの、お前の『体温』の匂いだけがする。……タクミ、俺は今、人生で一番、腹が減っているぞ」

ガイの瞳には、かつてのような「狂乱した食欲」はなかった。
代わりに宿っていたのは、深く、静かで、底なしの「愛情」という名の独占欲だった。

「匂いで誤魔化されていたが……。俺は、お前の匂いが好きだったんじゃない。……その匂いを発している、お前という存在に、どうしようもなく飢えていたんだ」

ガイの手が、タクミの後頭部を優しく引き寄せる。
そして、スキルの補正など一切ない、ただの男としての熱い唇が、タクミの唇に重ねられた。

「(……あぁ。……今度は、邪魔が入らない)」

二人がゆっくりと重なり合った、その時。
天井からフェリの声が降ってきた。

「おめでとうございまーす! 『真実の愛』によるスキルの完全中和、確認しました! これでタクミ様は、この世界の住人として定着です。……ただし!」

「……また『ただし』か、貴様」

ガイが不機嫌そうに空を睨む。

「タクミ様の『誘惑』スキルは消えたわけじゃありません。……これからは、『ガイさんが一番食べたいもの』の匂いだけが、時々、ガイさんにだけ届くようになります。……隠し味、ですからね!」

「……ふん。……願ってもないことだ」

ガイはタクミを再びベッドに押し倒すと、耳元で低く囁いた。

「タクミ。……今日の献立は、もう決まっているぞ」

「……何ですか?」

「お前だ。……生涯かけて、ゆっくり、じっくり……一欠片も残さず、完食してやる」

「……最後くらい、もうちょっとロマンチックなこと言えないんですか、この筋肉ダルマ!」

タクミの照れ隠しの絶叫が、今日も騎士団本部に響き渡る。

   * * *

それから、聖騎士団には一つの「伝説」が語り継がれるようになった。
最強の団長ガイには、彼にしか嗅ぐことのできない『最高の一皿』がいる。
その一皿は、時にお肉の匂いをさせ、時に甘い花の香りをさせ、そして常に、団長の心を最高に満たしているのだという。

「……タクミ、飯だ! 今日は俺が、ささみの入っていない完璧なオムレツを作ったぞ!」

「はいはい、今行きますよ。……あ、ガイさん。……今日の俺、何の匂いか分かります?」

「……あぁ。……世界で一番、愛おしい匂いだ」

二人の物語は、これからも続いていく。
お腹を空かせた団長と、彼を癒やす最高の「おかず(伴侶)」の、美味しくて幸せな日々は、まだ始まったばかりなのだから。

(完)
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