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18話
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レオナルトは、離宮の客間に泊まることになった。
夕食の席。僕はいつもより少しだけ気合を入れて、肉厚なポークソテーに、たっぷりのマッシュルームソースをかけたものを作った。
「……う、うますぎる。陛下、こんな美味しいものを毎日召し上がっていたのですか!? これでは、王宮の専属料理人が泣きますよ!」
レオナルトは涙目になりながら、ものすごい勢いで料理を平らげている。
ヴァルさんはそれを不機嫌そうに眺め、自分の皿にある肉を、なぜか僕の皿へとそっと移した。
「……エリアン。君ももっと食べろ。少し、痩せたのではないか?」
「えっ、そんなことないですよ。……ヴァルさんこそ、明日からお忙しくなるんでしょう?」
僕は、努めて明るい声で聞いた。
けれど、心の中はざわざわとして落ち着かない。
ヴァルさんは、帝国に帰れば、もっと豪華な部屋で、もっと立派な人たちに囲まれて暮らすのだ。
僕のような、追放された無能な王子の料理なんて、すぐに忘れてしまうのではないか。
そんな不安が、胸を締め付ける。
「……陛下、明日の朝一番には出発の準備を……」
「レオナルト。……その話は、後だと言ったはずだ」
ヴァルさんの声が、これまでになく険しく響いた。
食事の後、片付けを終えた僕は、一人で夜のテラスに出た。
月明かりに照らされた庭は、どこか寂しげで、ヴァルさんと出会う前の孤独を思い出させる。
「……エリアン」
背後から、聞き慣れた足音が近づいてくる。
振り返ると、そこには月光を背負い、神々しいまでの美しさを湛えたヴァルさんが立っていた。
「……眠れないのか?」
「……少しだけ。風が気持ちよくて」
嘘だ。
胸が苦しくて、横になっても彼がいなくなる未来ばかりを考えてしまうから。
「……エリアン。君は、私がいなくなるのが嫌か?」
「え……」
核心を突かれ、僕は言葉に詰まった。
「……それは、……寂しい、ですよ。せっかく、コンロも直したし、クッキーの型抜きも上手くなったのに……」
冗談っぽく言おうとしたのに、声が震えてしまった。
ヴァルさんは静かに僕の隣に並び、手すりに手を置いた。
「……私は、君を置いて行くつもりなどない」
「……え?」
「君のいない王宮など、私にはただの冷たい石の箱だ。……エリアン。君も、私と共に来てくれないか。……私の、隣に」
ヴァルさんの大きな手が、僕の頬を包み込んだ。
彼の瞳には、皇帝としての冷徹さなど微塵もなく、ただただ僕を求める、熱くて、切実な光が宿っていた。
僕は、溢れそうになる涙を堪えながら、彼の胸にそっと顔を埋めた。
夕食の席。僕はいつもより少しだけ気合を入れて、肉厚なポークソテーに、たっぷりのマッシュルームソースをかけたものを作った。
「……う、うますぎる。陛下、こんな美味しいものを毎日召し上がっていたのですか!? これでは、王宮の専属料理人が泣きますよ!」
レオナルトは涙目になりながら、ものすごい勢いで料理を平らげている。
ヴァルさんはそれを不機嫌そうに眺め、自分の皿にある肉を、なぜか僕の皿へとそっと移した。
「……エリアン。君ももっと食べろ。少し、痩せたのではないか?」
「えっ、そんなことないですよ。……ヴァルさんこそ、明日からお忙しくなるんでしょう?」
僕は、努めて明るい声で聞いた。
けれど、心の中はざわざわとして落ち着かない。
ヴァルさんは、帝国に帰れば、もっと豪華な部屋で、もっと立派な人たちに囲まれて暮らすのだ。
僕のような、追放された無能な王子の料理なんて、すぐに忘れてしまうのではないか。
そんな不安が、胸を締め付ける。
「……陛下、明日の朝一番には出発の準備を……」
「レオナルト。……その話は、後だと言ったはずだ」
ヴァルさんの声が、これまでになく険しく響いた。
食事の後、片付けを終えた僕は、一人で夜のテラスに出た。
月明かりに照らされた庭は、どこか寂しげで、ヴァルさんと出会う前の孤独を思い出させる。
「……エリアン」
背後から、聞き慣れた足音が近づいてくる。
振り返ると、そこには月光を背負い、神々しいまでの美しさを湛えたヴァルさんが立っていた。
「……眠れないのか?」
「……少しだけ。風が気持ちよくて」
嘘だ。
胸が苦しくて、横になっても彼がいなくなる未来ばかりを考えてしまうから。
「……エリアン。君は、私がいなくなるのが嫌か?」
「え……」
核心を突かれ、僕は言葉に詰まった。
「……それは、……寂しい、ですよ。せっかく、コンロも直したし、クッキーの型抜きも上手くなったのに……」
冗談っぽく言おうとしたのに、声が震えてしまった。
ヴァルさんは静かに僕の隣に並び、手すりに手を置いた。
「……私は、君を置いて行くつもりなどない」
「……え?」
「君のいない王宮など、私にはただの冷たい石の箱だ。……エリアン。君も、私と共に来てくれないか。……私の、隣に」
ヴァルさんの大きな手が、僕の頬を包み込んだ。
彼の瞳には、皇帝としての冷徹さなど微塵もなく、ただただ僕を求める、熱くて、切実な光が宿っていた。
僕は、溢れそうになる涙を堪えながら、彼の胸にそっと顔を埋めた。
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