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21話
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城での生活が始まり、僕はさっそく専用のキッチンで料理をすることにした。
今日のお客様は、ヴァルさんの右腕であり、帝国の政務を一手に引き受けているという側近の**ソーレン**さんだ。
「……初めまして、エリアン様。ソーレンと申します。陛下が辺境から『宝物』を持ち帰ったと聞き、こうして参上いたしました」
眼鏡をかけた知的な面立ちのソーレンさんは、丁寧だがどこか冷淡な雰囲気を持っていた。
彼はヴァルさんの不眠症が改善されたことを喜びつつも、僕という存在が帝国にどのような影響を与えるか、冷静に見極めようとしているのが伝わってくる。
「お手柔らかにお願いします。今日は、疲れた体に優しい『鶏肉とキノコのホワイト煮込み』を作りました」
僕は、浄化の力を無自覚に込めながら、丁寧にソースを練り上げた。
前世で母が作ってくれたような、心まで温まる優しい味。
バターの芳醇な香りと、生クリームの濃厚なコク。そこに、隠し味としてほんの少しの白ワインを加えて。
「……どうぞ、召し上がってください」
ヴァルさんとソーレンさんの前に、湯気の立つ皿を置く。
ヴァルさんは当然のように一口食べ、「やはり、君の料理が世界一だ」と幸せそうに目を細めた。
問題は、ソーレンさんだ。彼は疑い深い様子で、スプーンを口に運んだ。
「…………っ」
ソーレンさんの手が、ピタリと止まった。
彼の冷徹だった瞳が、見る間に驚愕と困惑に揺れる。
「……これは、何だ。……ただの煮込み料理のはずなのに、なぜ、これほどまでに……『清らか』な味がするのですか?」
「え? 浄化の魔法……あ、いえ、アク抜きを丁寧にしたからでしょうか?」
ソーレンさんは何度もうなずき、それからは無言で、けれど猛烈な勢いで皿を空にしていった。
最後の一口を飲み込んだ時、彼の顔には、それまでの険しさが消え、憑き物が落ちたような穏やかな笑みが浮かんでいた。
「……陛下。……私が間違っておりました。この方は『宝物』などという生易しいものではない。……帝国にとっての、唯一無二の『心臓』ですな」
ソーレンさんは深く頭を下げ、僕に心からの敬意を示してくれた。
ヴァルさんは、どこか得意げに僕の肩を抱き寄せ、耳元で低く囁いた。
「言っただろう。……君の味を知れば、誰も君を離したくなくなるのだと。……もちろん、一番離したくないのは、私だがな」
側近の前だというのに、ヴァルさんは僕の頬に深いキスを落とした。
こうして、僕の帝国での生活は、胃袋から始まる平和な征服と共に、甘く幕を開けたのだった。
今日のお客様は、ヴァルさんの右腕であり、帝国の政務を一手に引き受けているという側近の**ソーレン**さんだ。
「……初めまして、エリアン様。ソーレンと申します。陛下が辺境から『宝物』を持ち帰ったと聞き、こうして参上いたしました」
眼鏡をかけた知的な面立ちのソーレンさんは、丁寧だがどこか冷淡な雰囲気を持っていた。
彼はヴァルさんの不眠症が改善されたことを喜びつつも、僕という存在が帝国にどのような影響を与えるか、冷静に見極めようとしているのが伝わってくる。
「お手柔らかにお願いします。今日は、疲れた体に優しい『鶏肉とキノコのホワイト煮込み』を作りました」
僕は、浄化の力を無自覚に込めながら、丁寧にソースを練り上げた。
前世で母が作ってくれたような、心まで温まる優しい味。
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「……どうぞ、召し上がってください」
ヴァルさんとソーレンさんの前に、湯気の立つ皿を置く。
ヴァルさんは当然のように一口食べ、「やはり、君の料理が世界一だ」と幸せそうに目を細めた。
問題は、ソーレンさんだ。彼は疑い深い様子で、スプーンを口に運んだ。
「…………っ」
ソーレンさんの手が、ピタリと止まった。
彼の冷徹だった瞳が、見る間に驚愕と困惑に揺れる。
「……これは、何だ。……ただの煮込み料理のはずなのに、なぜ、これほどまでに……『清らか』な味がするのですか?」
「え? 浄化の魔法……あ、いえ、アク抜きを丁寧にしたからでしょうか?」
ソーレンさんは何度もうなずき、それからは無言で、けれど猛烈な勢いで皿を空にしていった。
最後の一口を飲み込んだ時、彼の顔には、それまでの険しさが消え、憑き物が落ちたような穏やかな笑みが浮かんでいた。
「……陛下。……私が間違っておりました。この方は『宝物』などという生易しいものではない。……帝国にとっての、唯一無二の『心臓』ですな」
ソーレンさんは深く頭を下げ、僕に心からの敬意を示してくれた。
ヴァルさんは、どこか得意げに僕の肩を抱き寄せ、耳元で低く囁いた。
「言っただろう。……君の味を知れば、誰も君を離したくなくなるのだと。……もちろん、一番離したくないのは、私だがな」
側近の前だというのに、ヴァルさんは僕の頬に深いキスを落とした。
こうして、僕の帝国での生活は、胃袋から始まる平和な征服と共に、甘く幕を開けたのだった。
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