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20話
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数日の旅を経て、馬車はグランツ帝国の帝都へと入り込んだ。
窓の外には、僕の故郷とは比べものにならないほど高く、壮麗な石造りの建物が並んでいる。道行く人々の服装は華やかで、街全体が魔力の輝きに満ちているようだった。
「すごい……。本当に、別世界ですね」
「……騒がしいだけだ。私はあまり好きではない」
ヴァルさんは不機嫌そうに窓のカーテンを閉めると、僕を自分の膝の上へと引き寄せた。
えっ、と声を上げる間もなく、彼の逞しい腕が僕の腰をがっちりとホールドする。
「ヴ、ヴァルさん!? レオナルトさんが向かいに座ってるんですよ!」
「気にするな。こいつは壁だと思えばいい」
「陛下、あまりに酷い扱いですな……。まあ、私は慣れておりますが」
レオナルトさんは呆れたように笑いながら、窓の外を眺めていた。
皇帝の居城である『黒曜宮』に到着すると、そこには何百人もの侍従や騎士たちが整列していた。重苦しいほどの静寂と、冷徹なまでの規律。
(……やっぱり、ここは僕のいた場所とは違う)
少しだけ身を縮めた僕の手を、ヴァルさんは迷いなく繋いだ。
そして、大広間を通り過ぎ、迷路のような回廊を抜け、一番奥まった静かな一画へと僕を連れて行った。
「……ここは?」
「私の私室に繋がる、離宮だ。……ここを見てみろ」
ヴァルさんが開いた大きな扉の先には、驚くべき光景が広がっていた。
最新式の魔導調理器、磨き上げられた白銀の調理台。そして、壁一面に並んだ、世界中から集められたであろうスパイスの小瓶。
「君専用のキッチンだ。……エリアン、気に入ってくれるか?」
ヴァルさんは、不安げに僕の顔を覗き込んだ。
その豪華すぎる『プレゼント』に、僕はただただ呆然とするしかなかった。皇帝が、ただ一人の料理を作る男のために、城の一部をこれほどまでに改造してしまうなんて。
「……ヴァルさん、これ……」
「君が、ここで笑って料理をしてくれるなら、私は何でもする。……私の、大切なエリアン」
彼は僕の後ろから首筋に顔を埋め、深く、深く呼吸をした。
冷酷皇帝の執着は、僕の想像を遥かに超えて、甘く、重く、僕を絡め取ろうとしていた。
窓の外には、僕の故郷とは比べものにならないほど高く、壮麗な石造りの建物が並んでいる。道行く人々の服装は華やかで、街全体が魔力の輝きに満ちているようだった。
「すごい……。本当に、別世界ですね」
「……騒がしいだけだ。私はあまり好きではない」
ヴァルさんは不機嫌そうに窓のカーテンを閉めると、僕を自分の膝の上へと引き寄せた。
えっ、と声を上げる間もなく、彼の逞しい腕が僕の腰をがっちりとホールドする。
「ヴ、ヴァルさん!? レオナルトさんが向かいに座ってるんですよ!」
「気にするな。こいつは壁だと思えばいい」
「陛下、あまりに酷い扱いですな……。まあ、私は慣れておりますが」
レオナルトさんは呆れたように笑いながら、窓の外を眺めていた。
皇帝の居城である『黒曜宮』に到着すると、そこには何百人もの侍従や騎士たちが整列していた。重苦しいほどの静寂と、冷徹なまでの規律。
(……やっぱり、ここは僕のいた場所とは違う)
少しだけ身を縮めた僕の手を、ヴァルさんは迷いなく繋いだ。
そして、大広間を通り過ぎ、迷路のような回廊を抜け、一番奥まった静かな一画へと僕を連れて行った。
「……ここは?」
「私の私室に繋がる、離宮だ。……ここを見てみろ」
ヴァルさんが開いた大きな扉の先には、驚くべき光景が広がっていた。
最新式の魔導調理器、磨き上げられた白銀の調理台。そして、壁一面に並んだ、世界中から集められたであろうスパイスの小瓶。
「君専用のキッチンだ。……エリアン、気に入ってくれるか?」
ヴァルさんは、不安げに僕の顔を覗き込んだ。
その豪華すぎる『プレゼント』に、僕はただただ呆然とするしかなかった。皇帝が、ただ一人の料理を作る男のために、城の一部をこれほどまでに改造してしまうなんて。
「……ヴァルさん、これ……」
「君が、ここで笑って料理をしてくれるなら、私は何でもする。……私の、大切なエリアン」
彼は僕の後ろから首筋に顔を埋め、深く、深く呼吸をした。
冷酷皇帝の執着は、僕の想像を遥かに超えて、甘く、重く、僕を絡め取ろうとしていた。
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