不遇な転生聖子は冷酷皇帝に「君のご飯が一番」と胃袋から愛し抜かれる 〜自炊スキルで無自覚に無双して最強の番に指名されました〜

たら昆布

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24話

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帝都での生活にも慣れ、エリアンはヴァルさんの強い希望で、小規模な夜会に出席することになった。
「君を私の隣に立たせたい。……嫌か?」
そう真剣な顔で乞われれば、断れるはずもない。エリアンは慣れない正装――琥珀色の刺繍が施された白い礼服に身を包み、ヴァルさんの隣で庭園のパーティー会場へと足を運んだ。

会場には、帝国の名だたる貴族たちが集まっていた。ヴァルさんが挨拶のために少し席を外した隙だった。
「……おや、これがあの噂の『料理番』ですか」
扇を片手にした壮年の貴族――ヴォルスト侯爵が、取り巻きを引き連れてエリアンを包囲した。その瞳には、隠そうともしない蔑みが宿っている。
「不遇な追放王子と聞いておりましたが、媚を売る技術だけは超一流のようだ。皇帝陛下をたぶらかし、神聖な城の一部を調理場に変えさせるとは……。卑しい平民の真似事は、今のうちに止めておくことですな」

周囲から、くすくすと忍び笑いが漏れる。
エリアンは前世で鍛えた「スルースキル」を発揮し、静かに微笑みを返した。
「……ご助言ありがとうございます、侯爵。ですが、陛下は私の作る料理でようやく安眠できるようになったとおっしゃっています。陛下のご健康より優先すべき『礼儀』がこの帝国にあるのなら、不勉強な私にご教示いただけますか?」
「なっ、貴様……!」

ヴォルストが激昂し、エリアンの胸ぐらを掴もうと手を伸ばした、その時。
背後から、大気がパキリと凍りつくような、凄まじい魔圧が会場を支配した。
「……その手を、エリアンから離せ」
地響きのような低い声。いつの間にか戻っていたヴァルさんが、ヴォルストの背後に立っていた。彼の周囲だけ、目に見えるほどの冷気が渦巻き、美しい薔薇の花びらが白く凍りついていく。

「へ、陛下……! これは、その、行きすぎた教育を……」
「黙れ。私の愛する者を侮辱することは、私自身を、そしてこの帝国を侮辱することと同義だ。ヴォルスト……お前の領地も、その傲慢な舌も、すべて氷の下に沈みたいか?」
ヴァルさんの瞳が、爬虫類のような冷徹な光を放つ。侯爵はガタガタと震えだし、その場に膝をついた。

ヴァルさんは跪く貴族たちを一瞥もせず、エリアンの腰を強く抱き寄せた。
「……エリアン、怖かったか。すまない、目を離した私が愚かだった」
「……大丈夫ですよ、ヴァルさん。少し、びっくりしただけです」
エリアンがヴァルさんの腕にそっと手を添えると、それだけで刺すような魔圧が霧散していった。
「……帰るぞ。こんな不快な場所、一刻もいたくない」
大勢が見守る中、皇帝は『料理番』を抱き上げるようにして会場を後にした。その独占欲を隠そうともしない背中に、貴族たちは二度とエリアンを侮ってはならないと、深く胸に刻み込んだのだった。
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