身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布

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5話

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「……はぁ。どいつもこいつも、人のことをなんだと思ってるんだ……」

 アルフレートに本邸へ連行され、ヴィンセントに意味深な言葉を投げかけられ、レオンには筋肉自慢の特訓に誘われる。
 怒涛の一日が終わり、ようやく離宮の自室に戻った昴は、ベッドに倒れ込んだ。

 ふかふかの枕に顔を埋めると、足元でウルが「キュゥ」と心配そうに鳴きながら、昴の手に鼻先を押し当ててくる。

「ありがとな、ウル。君だけが俺の癒やしだよ……」

 ウルの柔らかい毛並みを撫でていると、不意に、部屋の空気が甘く変わった。
 窓を開けっ放しにしていたわけではない。なのに、夜の闇に紛れて、百合の花のような、むせ返るほど芳醇な香りが漂ってきたのだ。

「おや……。ここが噂の『ゴミ捨て場』かな? ずいぶんと綺麗に磨き上げられているけれど」

 鈴を転がすような、清涼感のある声。
 昴が跳ね起きると、そこにはバルコニーの欄干に腰掛けた一人の青年がいた。

 月光を浴びて輝くプラチナブロンドの髪。宝石のサファイアをそのままはめ込んだような、透明度の高い碧眼。
 この世のものとは思えないほど美しい少年が、悪戯っぽく微笑んでいた。

「だ、誰……? どこから入ったんですか?」

「どこからって、窓から。僕はシオン。この国の第三王子だよ。……君がスバルだね?」

 シオンは軽やかな身のこなしで床に着地すると、流れるような動作で昴との距離を詰めた。
 アルフレートのような威圧感も、レオンのような熱量もない。だが、シオンが近づくだけで、周囲の酸素が薄くなるような不思議な感覚に陥る。

「王子様……? え、どうしてこんなところに」

「みんなが君のことを隠そうとするから、僕も我慢できなくなっちゃって。……ふーん。なるほど、確かにこれは、独り占めしたくなる気持ちもわかるよ」

 シオンは昴の黒髪を一房掬い上げると、その先端に優しく唇を寄せた。
 
「……っ!」

 昴は反射的に身を引こうとしたが、シオンの碧眼が至近距離で自分を捉えた瞬間、金縛りにあったように体が動かなくなった。

「黒い髪、夜色の瞳。そして、魂から溢れ出すこの澄んだ魔力。……君、自分がどれほど価値のある存在か分かっていないでしょう?」

「価値なんて……。俺はただ、間違いで呼ばれただけの、掃除好きの大学生ですよ」

「ふふ、謙遜しなくていいよ。僕の兄さんたちや、あの偏屈な魔導師、脳筋の騎士団長がこれほど必死になるなんて、前代未聞なんだから」

 シオンは昴の耳元に顔を寄せ、吐息を漏らす。

「ねえ、スバル。あんな怖い人たちのところにいるより、僕の離宮に来ない? 君が望むなら、世界中の綺麗なもの、甘いお菓子、すべて君に捧げてあげる。……もちろん、僕の愛もね」

 甘い、誘惑の言葉。
 だが、昴のクリーニング屋としての直感が告げていた。
 この王子の笑顔は、完璧に計算された「磨き上げられた鏡面」だ。その奥には、決して光の届かない闇がある。

「……ご厚意は嬉しいですけど、俺、まだここの掃除が終わってないんで」

「え?」

 シオンが初めて、完璧な微笑みを崩して目を丸くした。

「ここ、まだ換気口の奥に埃が詰まってるし、裏庭の雑草も抜ききってないんです。やりかけの仕事を放り出すのは、俺の流儀に反するので」

「……あはは! 面白い。君、本当に最高だね!」

 シオンは腹を抱えて笑い出した。その笑い声は、今までの猫なで声とは違い、どこか本物の感情がこもっているようだった。

「いいよ。気に入った。無理に連れて行くのはやめておく。その代わり――」

 シオンは突然、昴の首元に手を伸ばすと、そこに小さな青い石がついたチョーカーを巻き付けた。

「これは僕の加護だよ。これを着けていれば、アルフレート兄さんたちも、強引な真似はできなくなる。……僕の所有物に手を出すのは、この国では死罪に等しいからね」

「所有物って……勝手に決めないでください!」

「ふふ、またね、スバル。次はもっと静かな場所で会おう」

 シオンは窓枠に飛び乗ると、夜風とともに闇の中へと消えていった。

 後に残されたのは、首元に光る青い石と、呆然とする昴。
 そして――。

「……スバル。夜中に誰と話していた」

 部屋の入り口に、抜き身の剣のような鋭さを纏ったアルフレートが立っていた。
 その視線は、昴の首元で輝くサファイアに釘付けになっている。

「あ、アルフレート様……」

「……シオンか。あの小僧、一番やってはならぬことを……」

 アルフレートの黄金の瞳が、怒りと独占欲で燃え上がった。
 
 ――こうして、昴を巡る四方向からの争奪戦は、ついに王室をも巻き込んだ本格的な「包囲網」へと進化してしまったのである。
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