身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布

文字の大きさ
6 / 20

6話

しおりを挟む
 深夜の離宮。
 本来であれば、静寂が支配し、古びた洋館の軋む音だけが聞こえるはずの時間帯だ。
 しかし今、昴が手塩にかけて磨き上げた一階のリビングは、煮えたぎるような魔力と、鋭利な殺気、そして隠しきれない独占欲によって、息が詰まるほどの緊張感に包まれていた。

「……それで? シオン、貴様はいつまでそこに座っているつもりだ」

 低く、重厚な声。
 ソファの主のようにどっしりと腰を下ろしたアルフレートが、目の前の少年に向けて氷のような視線を送る。
 その隣では、ヴィンセントが細い指先で片眼鏡を弄びながら、これ以上ないほど不快そうな笑みを浮かべていた。

「本当だね。王子の身分で、夜中に他人の家のバルコニーから不法侵入なんて……。行儀が悪いどころか、犯罪(ギルティ)じゃないかな?」

 二人の圧力を正面から受けていながら、シオンは優雅に紅茶を啜り、小首を傾げた。
 その首元には、昴が「掃除の邪魔だから」と一時的に外してテーブルに置いた、あの青いサファイアのチョーカーが置かれている。

「ひどいなぁ、二人とも。僕はスバルが心配で見に来ただけだよ。彼、こんな埃っぽい場所に一人で置かれて、寂しくて泣いているんじゃないかと思ってね」

「……あ、あの。俺、全然泣いてないですし、寂しくもないですよ。むしろ掃除する場所がいっぱいあって、やりがいを感じてるくらいで……」

 昴がおずおずと口を挟むが、男たちの視線が交差するたびに火花が散り、その声は空しくかき消された。
 すると、今まで黙って状況を見守っていたレオンが、豪快に腕を組んで鼻を鳴らす。

「まあ待てよ、お前ら! シオンが来たのはいいとして、なんで俺までこんな夜中に呼び出されたんだ? 『スバルに危険が迫っている』ってヴィンセントの使いが来たから、寝間着のまま走ってきたんだぞ!」

 見れば、レオンは確かに隊服を雑に羽織っただけで、胸元が大胆に開いた格好だ。
 ヴィンセントはわざとらしく溜息をついた。

「脳筋の騎士団長殿を呼んだのは、万が一シオンが暴れた時に、力ずくで追い出してもらうためだよ。ゴミ掃除はゴミ掃除の専門家に任せようと思ってね」

「誰がゴミ掃除だ、このメガネ魔導師が!!」

「……黙れ。騒がしい。スバルが怯えているだろう」

 アルフレートが一喝すると、部屋は一瞬だけ静まり返った。
 黄金の瞳が、所在なげに立っている昴を捉える。その視線は、先ほどシオンに向けていたものとは対照的に、熱く、ねっとりとした執着を孕んでいた。

「スバル。シオンが着けたその石は、明日、私が責任を持って破壊させる。代わりに、ベルンハルト家に伝わる『不落の守護石』を君に贈る。……それを肌身離さず着けていれば、誰も君を害することはできない」

「あ、いや、そんな高いものいらないです。重いし……」

「重いのが嫌なら、僕の魔法で羽のように軽くしてあげよう。ついでに、僕以外の人間が君に触れたら、その部位が腐り落ちる呪いもかけてあげようか?」

 ヴィンセントが甘い声で提案するが、それは提案という名の脅迫にしか聞こえない。
 昴は一歩、また一歩と、自分を囲む四人の男たちから後ずさった。

「あの……皆さん。俺、さっきからずっと言おうと思ってたんですけど」

 昴の言葉に、四人が同時に動きを止めた。

「なんですか? スバル。欲しいものがあるなら何でも言ってごらん?」

 シオンが天使のような微笑みで促す。
 昴は大きく深呼吸をし、手に持っていた新しい雑巾を力いっぱい握りしめた。

「平和な掃除タイムを返してください!!」

「……は?」

 四人の顔に、一様に困惑の色が広がる。

「あのですね! 皆さんがここで火花を散らしているせいで、魔力がパチパチして空気が汚れるんですよ! さっき磨いたばかりのテーブルにも、アルフレート様の威圧感で細かいヒビが入ってるし、レオンさんが土足で上がったから床が泥だらけです!」

「……あ。す、すまん」

 レオンが慌てて自分の足元を見る。そこには確かに、庭から持ち込んだ泥の足跡が、ピカピカの床を無惨に汚していた。

「ヴィンセント様も、さっきから変な魔導煙草の煙を吐かないでください。カーテンに匂いがついたらどうするんですか! シオン様も、窓から入るなら網戸――はこの世界にないけど、サッシの溝に砂を落とさないでください!」

 昴の怒涛の説教に、最強の騎士、最高の魔導師、冷酷な公爵、そして腹黒い王子が、気圧されるように沈黙した。

「もう深夜の一時ですよ? 明日は裏庭の生い茂った雑草を全部抜いて、ついでに倉庫に眠ってるボロボロの家具を修理したいんです。邪魔するなら、全員出入り禁止にしますからね!」

 「出入り禁止」という言葉が、彼らにとっては処刑宣告よりも重く響いた。
 アルフレートが静かに立ち上がる。

「……すまなかった。スバル、君の眠りを妨げるつもりはなかったのだ。レオン、泥を拭け。ヴィンセント、換気しろ」

「えぇっ!? 俺が拭くのかよ!?」

「当たり前だ。主の部屋を汚したのだからな。……シオン、貴様も帰れ。次に勝手に忍び込めば、国境の警備に飛ばすぞ」

「ちぇっ……。冷たいなぁ。でも、怒った顔のスバルも可愛いから、今日はこれで我慢するよ」

 シオンは名残惜しそうに昴の手の甲に軽くキスを落とすと、窓から闇へと消えていった。
 レオンは昴に渡された雑巾で、ブツブツ言いながら必死に床を磨き、ヴィンセントは魔法で部屋の空気を浄化していく。

 ようやく静かになった離宮。
 最後の一人となったアルフレートが、扉を閉める直前、昴を振り返った。

「……スバル。私は、君に嫌われたいわけではない。……おやすみ」

 その声は、驚くほど優しく、そして震えていた。
 扉が閉まり、昴は「はぁ……」と深いため息をついて、ベッドに倒れ込んだ。

「掃除の方が、一億倍楽だ……」

 だが、昴は気づいていなかった。
 自分に厳しく説教をされ、雑用を押し付けられたにもかかわらず、男たちの瞳には、恐怖ではなく、より深く、より甘い「愛着」が宿ってしまったことに。

 彼らにとって、自分に物怖じせず立ち向かってくる昴は、この世界のどんな宝物よりも眩しく、手に入れたい存在になっていた。

「キュゥ……」

 ウルが昴の胸に乗り、よしよしとなぐさめるように鳴く。
 昴の異世界サバイバル(兼・清掃生活)は、まだ始まったばかりだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果

ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。 そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。 2023/04/06 後日談追加

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

執着

紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。

塩対応の同室αが実は俺の番を狙っていた

雪兎
BL
あらすじ 全寮制の名門学園に入学したΩの俺は、入寮初日から最悪の同室相手に当たった。 相手は学年でも有名な優等生α。 成績優秀、運動もできる、顔もいい。なのに—— めちゃくちゃ塩対応。 挨拶しても「……ああ」。 話しかけても「別に」。 距離も近づけないし、なぜか妙に警戒されている気がする。 (俺、そんなに嫌われてる……?) 同室なのに会話は最低限。 むしろ避けられている気さえある。 けれどある日、発情期トラブルで倒れた俺を助けてくれたのは、 その塩対応αだった。 しかも普段とは違い、必死な顔で言われる。 「……他のαに近づくな」 「お前は俺の……」 そこで言葉を飲み込む彼。 それ以来、少しずつ態度が変わり始める。 距離は相変わらず近くない。 口数も少ない。 だけど―― 他のαが近づくと、さりげなく間に入る。 発情期が近いと察すると、さりげなく世話を焼く。 そして時々、独占欲を隠しきれない視線。 実は彼はずっと前から知っていた。 俺が、 自分の運命の番かもしれないΩだということを。 だからこそ距離を取っていた。 触れたら、もう止まれなくなるから。 だけど同室生活の中で、 少しずつ、確実に距離は変わっていく。 塩対応の裏に隠されていたのは―― 重すぎるほどの独占欲だった。

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

「これからも応援してます」と言おう思ったら誘拐された

あまさき
BL
国民的アイドル×リアコファン社会人 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 学生時代からずっと大好きな国民的アイドルのシャロンくん。デビューから一度たりともファンと直接交流してこなかった彼が、初めて握手会を開くことになったらしい。一名様限定の激レアチケットを手に入れてしまった僕は、感動の対面に胸を躍らせていると… 「あぁ、ずっと会いたかった俺の天使」 気付けば、僕の世界は180°変わってしまっていた。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 初めましてです。お手柔らかにお願いします。 ムーンライトノベルズさんにも掲載しております

処理中です...