身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布

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8話

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 王都のメインストリートは、朝から活気に満ち溢れていた。色とりどりの露店が並び、威勢のいい商人の声が響く。しかし今日、その喧騒は一行が姿を現した瞬間に、波が引くような静寂へと塗り替えられた。

「お、おい……見ろよ、あれ」
「ベルンハルト公爵に、ハワード団長、ロウ魔導師……それにシオン様まで揃って……何事だ!?」

 民衆が道を開け、一斉に跪く。国の最高権力者たちが揃って歩くなど、有事の際でも滅多にないことだ。その中心で、場違いなほど質素な麻のシャツを着た昴(スバル)だけが、不思議そうに首を傾げていた。

「……やっぱり目立ちますね。皆さん、もう少し普通に歩けませんか?」
 昴が小声で零すと、隣を歩くアルフレートが、いつになく穏やかな眼差しを向けた。
「無茶を言うな。我々が揃えばこうなるのは自明だ。それよりもスバル、目当ての店はどこだ」

 アルフレートの髪は、夜の闇を凝縮したような、鋭く重厚な黒だ。この国において、黒髪は「強大な魔力の持ち主」であることを意味し、畏怖の対象である。アルフレートが通るだけで周囲の空気が張り詰めるのは、彼が放つ圧倒的な魔力の威圧ゆえだった。

 対して、昴の黒髪は。
「あ、あの薬草屋です。あの青い実、サポンの実が欲しかったんです!」
 昴が弾んだ声で駆け寄ると、風に揺れるその黒髪は、アルフレートのそれとは対照的に、光を柔らかく反射し、どこか透き通るような清涼感を放っていた。

 薬草屋の店主は、近づいてくる一行を見て腰を抜かさんばかりに震えていた。
「ひ、ひぃっ! 閣下、それにシオン様……! ど、どのようなご用件で……!」

「店主、驚かせてすみません。この実をいくつか分けて欲しいんです」
 昴が身を乗り出して店主に微笑みかけると、店主は言葉を失って固まった。至近距離で見る少年の髪と瞳。それは、アルフレートのような「圧し潰す黒」ではなく、吸い込まれるような「清らかな黒」だったからだ。

「……こ、これは。閣下のような高密度の魔力色ではなく……これほど純粋な、澱みのない黒。まるですべての穢れを無に帰すような……」

「え、汚れを無に? まさに掃除にぴったりの色じゃないですか!」
 昴がポジティブに解釈して笑うと、店主はポカンと口を開けた。すかさずヴィンセントが昴の横に立ち、手際よくやり取りを代わる。
「店主、驚かせてすまないね。彼が欲しがっているものを、全部包んでくれるかな」

 ヴィンセントは薄々気づいていた。昴が「魔力なし」と判定されたのは、その魔力の質があまりに高純度で安定しているため、既存の測定器が感知できなかっただけだということに。彼の掃除によって離宮が「聖域化」したのは、無自覚に放たれるその清浄な魔力の恩恵なのだ。

 材料を待つ間、シオンが昴の背後に回り、その黒髪を一房掬い上げた。
「ねえ、スバル。この国で黒髪は、アルフレートのように強すぎる力を象徴するから、みんな怖がるんだ。でも、君の黒はとても不思議だね。触れているだけで、心が洗われるような気がするよ」

「シオン様、人前で髪を触るのやめてください。くすぐったいです」
 昴が眉を寄せて抗議すると、シオンはくすくすと楽しげに笑った。

「おうスバル! 材料はこれだけでいいのか? 俺がまとめて担いでやるから、もっと遠慮なく買えよ!」
 レオンが店主から差し出された重い麻袋を、小枝でも持つかのように軽々と肩に担ぎ、白い歯を見せて笑う。

「ありがとうございます、レオンさん。……あ、次はあっちの布屋に行きたいです。もっと吸水性のいい、きめの細かい麻布が欲しくて」

 一行が再び歩き出すと、周囲のささやき声はさらに熱を帯びていった。
「あの少年……四翼の皆さんに囲まれて、楽しそうに買い物をして……」
「アルフレート閣下と同じ黒髪……でも、なんだか見ていて安心する色だな」

 畏怖の象徴であった「黒」という色が、昴の存在によって、どこか親しみやすく、清らかなイメージへと塗り替えられていく。アルフレートもまた、自分の隣で屈託なく笑う昴を見ながら、長年自分に向けられてきた視線とは違う、温かな空気を感じていた。

「よし、次は布屋だな。案内しろ、スバル。君の納得のいくまで付き合おう」
 アルフレートの言葉に、昴は「頼もしいですね!」と元気に頷いた。

 離宮に戻った昴は、さっそく手に入れたサポンの実を煮出し始めた。
「……できた! これですよ、これ。究極の『スバル特製・万能洗浄液』です!」

 完成した液体を掲げ、会心の笑みを浮かべた昴。それを見守る四人の支配者たちもまた、その笑顔に釣られるように、穏やかな表情を浮かべていた。

「これがあれば、離宮の床も、皆さんの服も、もっとピカピカにできますからね!」

 意気込む昴を前に、彼らは顔を見合わせた。
 国を動かす四人の英雄が、一人の少年の「掃除」にこれほどまでに期待を寄せることになるとは。
 賑やかな笑い声が、清浄な空気の満ちた離宮に、どこまでも明るく響き渡っていた。
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