聖獣召喚に巻き込まれた俺、モフモフの通訳をしてたら冷徹騎士団長に外堀を埋められました

たら昆布

文字の大きさ
1 / 24

1話

しおりを挟む
 眩い光が収まったとき、俺こと安藤晶(アキ)の目の前に広がっていたのは、大理石の床と、豪奢な装飾が施された高い天井……そして、いかにも「異世界」といった風貌の騎士たちだった。

「おお! 聖女様がついにお越しになられた!」

 騎士たちの視線は、俺の隣で腰を抜かしている幼馴染のリナに注がれている。彼女はフリフリのワンピースを着た、いかにも可憐な美少女だ。
 一方で俺は、仕事帰りのくたびれたポロシャツにチノパン姿。おまけに片手には、さっきまで店で使っていた犬用の「骨型ガム」を握りしめている。

(……いや、これ完全に巻き込まれたやつじゃん)

 ペットショップ店員として長年培った「事態を冷静に把握する力」が、俺にそう告げていた。
 案の定、中央に座る威厳たっぷりの国王らしき男が、リナを見て満足げに頷き、その後に俺を見て露骨に眉を寄せた。

「……そちらの男は何だ? 聖女の守護者か?」
「いえ、ただの一般人、というかオマケです……」

 俺が正直に答えると、場が凍りついた。
 魔力が測定され、リナには「聖女」の称号が与えられたが、俺の魔力測定器はピクリとも動かない。
 この国において、魔力のない人間は価値がないらしい。

「ふむ。魔力なき異物か。……騎士団長、この男の処遇は任せる」

 王が投げやりに告げると、カチャリと鎧の音が鳴り、一人の男が前に出た。
 その瞬間、周囲の空気がマイナス十度くらいに下がった気がした。

 黒髪を隙なくオールバックにし、氷の刃のような鋭い青い瞳を持つ男。
 この男が、王国最強の第一騎士団長、ゼクス・ヴァン・ブラッドレイ。
 彼は無表情のまま俺を見下ろし、死刑宣告にも等しい冷徹な声で言った。

「――地下の牢へ。使い道がないのであれば、処分を検討する」

 ひえっ、と声が出る前に、俺は衛兵たちに両脇を抱えられた。
 リナが「アキを放して!」と叫んでくれているが、彼女は聖女として別室へ連れて行かれてしまう。
 絶体絶命。俺の異世界生活は、開始五分で終了のお知らせか……と思った、その時だった。

『……おい。おい、人間』

 どこからか、ふてぶてしい声が聞こえた。
 辺りを見回すが、喋っている人間はいない。
 声の主は、ゼクス団長の肩に乗っていた。

 それは、白くてふわふわした綿毛のような、手のひらサイズのウサギ……のような生き物だった。
 しかし、その小さな頭には二本の立派な角が生えており、その目は金色に輝いている。

『そこの茶髪。お前、さっきから手に持ってるソレ……めちゃくちゃ美味そうな匂いがするな?』

 俺は固まった。
 ウサギ(?)が喋っている。いや、違う。
 これは俺の頭に直接響いている感覚だ。ペットショップで働いていた時も、たまに犬や猫の感情が分かることはあったが、ここまでハッキリと「言葉」として聞こえるのは初めてだった。

(……これ、俺が持ってる骨型ガムのことか?)

 俺は衛兵に引きずられながら、必死に声を絞り出した。

「これ、食べる……? ちょっと硬いけど、噛めば噛むほど味が出るよ」

 静寂が訪れた。
 ゼクス団長が足を止め、冷ややかな視線を俺に向ける。

「……誰に口を利いている。処刑される前に、狂ったか?」

「違います! その、あなたの肩に乗ってる、角が生えた白い子が……!」

 俺が指差すと、ゼクス団長の眉がピクリと動いた。
 その白い生き物――この国の伝説の聖獣『ルル』は、ゼクスの肩からぴょんと飛び降りると、俺の元までトコトコと歩いてきた。

『寄こせ。我は腹が減っているのだ』

 俺は衛兵の手を振りほどき、ルルの前に骨型ガムを差し出した。
 ルルは小さな口でガムをガリッ! と豪快に噛み砕く。

『……!? なんだこれは、異次元の美味さだぞ! この歯ごたえ、そして溢れ出る牛(?)の旨味! 人間、気に入ったぞ!』

 ルルは嬉しそうに俺の膝に飛び乗ると、そのまま俺の首筋にスリスリと頬ずりを始めた。
 その様子を見ていた騎士たち、そしてゼクス団長が絶句している。

「な……っ!? 建国以来、一度も人間に懐かなかった聖獣ルル様が……!?」
「あの気難しいルル様が、あんなに甘えるなんて……!」

 ゼクス団長が、信じられないものを見るような目で俺を見た。
 さっきまでの殺気はどこへやら、彼は驚きで瞳を大きく見開いている。

「貴様……今、ルル様と会話をしていたのか?」

「え、あ、はい。お腹空いたって言ってたので、これをあげたら喜んでくれて……」

 俺がそう答えると、ゼクス団長はゴクリと喉を鳴らし、ゆっくりと俺に歩み寄ってきた。
 そして、逃げ場のない壁際で、俺の目の前に大きな手を置く。
 いわゆる「壁ドン」というやつだが、相手の顔が怖すぎて、俺の心臓は別の意味でバクバク言っていた。

「……ルル様は、今、何と言っている」

「えっと……『このガムは最高だ。もっと寄こせ。あと、この黒髪(団長)はいつも顔が怖くて緊張するから、お前が代わりにずっと俺を撫でてろ』……だそうです」

 俺が正直に通訳すると、ゼクス団長の顔が、一瞬だけピリッと引きつった。
 ショックを受けたのか、それとも怒っているのか。
 彼はしばらく黙り込んでいたが、やがて、至近距離で俺の顔をじっと見つめてきた。

「……決めたぞ。お前を地下牢に入れるのは中止だ」

「本当ですか!?」

「ああ。貴様は今日から、騎士団直属の『聖獣番』として採用する」

 ゼクス団長の顔が、わずかに近づく。
 氷のような冷たさは消え、代わりになんだか熱っぽい、射抜くような視線が俺を捉えた。

「そして――私の部屋で寝泊まりしろ。ルル様の通訳、そして私の『ある悩み』を解決してもらうためにな」

「……はい?」

 王宮の地下牢行きは免れたが、なんだか別の、もっと逃げられない場所へ連れて行かれるような気がして、俺は思わず首をすくめた。
 膝の上では、ルルが『早く撫でろ』と催促している。

 こうして、俺の異世界生活は「聖獣の通訳」兼「団長の私的係」として、ドタバタと幕を開けたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

処理中です...