聖獣召喚に巻き込まれた俺、モフモフの通訳をしてたら冷徹騎士団長に外堀を埋められました

たら昆布

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3話

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「……そう、そこだ。……悪くない」

 ゼクス団長が、喉の奥でくぐもった声を漏らした。
 俺は今、膝をついて頭を差し出している団長の髪を、ペットショップで大型犬のブラッシングをする時の要領で、ゆっくりと撫でている。
 
 最強の騎士団長を「よしよし」する。
 客観的に見れば、不敬罪で即刻首が飛んでもおかしくない状況だ。
 だが、当の団長は目を細め、心なしか頬を緩ませていた。

「団長、力加減は大丈夫ですか?」
「ああ。……貴様の手は、不思議と落ち着く。魔力はないはずだが、何か癒やしの波動でも出ているのか」
「ただの仕事の癖ですよ」

 俺が苦笑いしながら手を動かしていると、不意に部屋の扉が勢いよく開いた。

「アキー! 大丈夫!? 怖い騎士様にいじめられてな――」

 飛び込んできたのは、聖女として別室にいたはずの幼馴染、リナだった。
 彼女は俺を心配して駆けつけてくれたらしいが、目の前の光景……すなわち、「膝をついて大人しく撫でられている美形の騎士団長」と「その頭を優しく愛でる俺」を見て、石のように固まった。

「……あ」
「……聖女殿。ノックもなしに無礼だぞ」

 ゼクス団長が瞬時に「氷の貴公子」の表情に戻り、立ち上がる。
 俺は慌てて手を引っ込め、リナに駆け寄った。

「リナ! 大丈夫だよ、いじめられてるわけじゃなくて、これはその……技術指導というか」
「……」

 リナは無言だった。
 ただ、その瞳はかつて見たことがないほど爛々と輝き、鼻の穴が微かに膨らんでいる。
 彼女は震える手で口元を覆い、何事かをボソボソと呟き始めた。

(……あ、これ、リナの『悪い癖』が出てる時の顔だ)

 実はリナは、元の世界では有名な「BL(ボーイズラブ)小説」の愛好家……いわゆる腐女子だった。それも、かなりの重度の。

「……執着攻め……無自覚誘い受け……圧倒的な体格差……しかも、主従関係……」
「リナ? ちょっと、リナさん?」
「……神様ありがとう。私をこの世界に呼んでくれてありがとう。ここが約束の地(エデン)だったのね……っ!」

 リナは感極まった様子で天を仰ぐと、そのままバタンと床に倒れ込んだ。
 
「おい、聖女殿!? 大丈夫か!?」
 
 ゼクス団長が驚いて駆け寄るが、リナは白目を剥きながらも、満足げな笑みを浮かべていた。
 彼女の護衛についていた騎士たちが慌てて彼女を抱え上げ、医務室へと運んでいく。
 去り際、リナは意識が朦朧とする中で、俺に向かって力強く親指を立てた(グッジョブ、と言いたかったのだろう)。

「……変わった聖女殿だな。アキ、今の彼女の言動は何だったのだ?」
「……すみません、たぶん『最高のご馳走を見た』って意味だと思います」

 俺は遠い目をしながら答えた。
 
 リナがこの調子なら、俺の味方になってくれるのは心強いが、同時に俺たちの関係が彼女の妄想の燃料にされるのは確定だ。
 
 その日の夜。
 結局、団長は宣言通りソファで寝ると言い張った。
 俺はルルを抱っこして広いベッドに横になったが、暗闇の中でソファの方から「じーっ」という視線を感じる。

「……あの、団長。起きてます?」
「……ああ」
「視線が刺さるんですけど」
「気にするな。ルル様が寝返りを打つ瞬間を見逃したくないだけだ」

(絶対、嘘だ……。ルルじゃなくて、俺を見てる気がする……)

 ルルは既に『むにゃむにゃ……ガム……』と寝言を言いながら爆睡している。
 俺はゼクス団長の重すぎる執着(自覚なし)に恐怖を感じつつ、明日からはもっと物理的な距離を置こうと心に誓って、眠りに就いた。

 しかし翌朝。
 目が覚めると、なぜか俺の体の上に「巨大な何か」が乗っていた。

「……ぐえっ、重い……」

 目を開けると、そこには、俺を抱き枕のようにして抱きしめながら、幸せそうな顔で眠るゼクス団長の姿があった。

「……って、なんでベッドにいるんですかー!?」

 俺の悲鳴が、朝の騎士団長室に虚しく響き渡った。
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