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5話
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訓練場での騒動から数日。アキの「聖獣番」としての評判は、騎士団全体に広まっていた。
そんなある日、王宮に隣接する聖なる森から、一匹の新たな迷い子が保護された。
「アキ、こいつの言葉を聞いてみてくれ。……先ほどから、ずっと震えていて食欲もないようだ」
ゼクス団長が差し出した籠の中には、黄金色の毛並みをした、手のひらサイズのリスのような生き物がいた。
大きな尻尾は綿菓子のようにふわふわで、クリクリとした瞳が不安そうに揺れている。
「……あ、この子。……ポム、って言ってます」
『ポム、おうちに帰りたいの……。あのでっかい黒髪の人(団長)、ポムを食べそうな顔で見てくるから怖いの……』
アキが通訳すると、ゼクス団長は「またか……」と膝をついて崩れ落ちた。
どうやら「威圧感で動物に怖がられる」という彼の呪いは、リス型の聖獣に対しても有効だったらしい。
「大丈夫だよ、ポム。この人は顔が怖いだけで、本当はすごく君のことが好きなんだ」
アキが籠からポムを掬い上げ、そっと手のひらで包む。
すると、ポムは『……本当? じゃあ、お礼にポムの特等席をあげる!』と言って、アキの首筋から服の中に潜り込み、胸のあたりで丸まった。
「わわっ、くすぐったい!」
アキが声を上げると、それを見ていたゼクス団長の瞳が、一瞬で「騎士団長モード」の鋭さに切り替わった。
「……アキ。その『ポム』とかいう個体は、今どこにいる?」
「え、どこって……俺のシャツの中ですけど」
「――即刻、摘み出せ。そして私の手に移せ。そいつは魔力を吸い取る危険な種族かもしれない」
ゼクスがもっともらしい理由をつけてアキに詰め寄る。
だが、その顔は「魔力への警戒」ではなく、アキの肌に触れている新入りへの「猛烈な嫉妬」に染まっていた。
「そんな危険な子じゃないですよ。あ、ポム、団長の手は……」
『嫌! ポム、ここが気に入ったの! この人間(アキ)、お花の匂いがして落ち着く!』
ポムはさらにアキの服の奥深くへと潜り込み、ついには鎖骨のあたりから顔だけをひょこっと出した。
アキとポムが寄り添う姿は、端から見ればこの上なく微笑ましい光景だが、ゼクスにとっては地獄の絵図だった。
「……アキ、脱げ」
「はい!? 何を言ってるんですか、団長!」
「服の中に異物を入れたままでは公務に支障が出る。私が……私が直接、その個体を引き剥がして検品してやる……!」
ゼクスが震える指先でアキのシャツのボタンに手をかける。
アキは顔を真っ赤にして後退りするが、壁際まで追い詰められた。
「や、めてください! 自分で出しますから!」
「黙れ、これは団長命令だ。……あと、そいつに『私の腕の方が筋肉質で寝心地がいいぞ』と伝えておけ」
「伝えたところで絶対来ませんよ!」
そこへ、騒ぎを聞きつけた聖女リナが、これ幸いとばかりにスマホ(という名の、この世界の記録水晶)を構えて現れた。
「キャーーー! 団長、昼間からアキを脱がそうとするなんて、積極的すぎ! 『新入りペットに嫉妬する独占欲攻め』、いただきましたー!」
「リナ、助けて! この人、リス相手に本気で怒ってるんだ!」
混乱するアキ、執念で服の中を覗こうとするゼクス、そしてアキの服の中で勝ち誇る聖獣ポム。
アキの異世界生活は、恋愛の「れ」の字も自覚しないまま、周囲の熱気だけが異様な速度で上昇していくのだった。
そんなある日、王宮に隣接する聖なる森から、一匹の新たな迷い子が保護された。
「アキ、こいつの言葉を聞いてみてくれ。……先ほどから、ずっと震えていて食欲もないようだ」
ゼクス団長が差し出した籠の中には、黄金色の毛並みをした、手のひらサイズのリスのような生き物がいた。
大きな尻尾は綿菓子のようにふわふわで、クリクリとした瞳が不安そうに揺れている。
「……あ、この子。……ポム、って言ってます」
『ポム、おうちに帰りたいの……。あのでっかい黒髪の人(団長)、ポムを食べそうな顔で見てくるから怖いの……』
アキが通訳すると、ゼクス団長は「またか……」と膝をついて崩れ落ちた。
どうやら「威圧感で動物に怖がられる」という彼の呪いは、リス型の聖獣に対しても有効だったらしい。
「大丈夫だよ、ポム。この人は顔が怖いだけで、本当はすごく君のことが好きなんだ」
アキが籠からポムを掬い上げ、そっと手のひらで包む。
すると、ポムは『……本当? じゃあ、お礼にポムの特等席をあげる!』と言って、アキの首筋から服の中に潜り込み、胸のあたりで丸まった。
「わわっ、くすぐったい!」
アキが声を上げると、それを見ていたゼクス団長の瞳が、一瞬で「騎士団長モード」の鋭さに切り替わった。
「……アキ。その『ポム』とかいう個体は、今どこにいる?」
「え、どこって……俺のシャツの中ですけど」
「――即刻、摘み出せ。そして私の手に移せ。そいつは魔力を吸い取る危険な種族かもしれない」
ゼクスがもっともらしい理由をつけてアキに詰め寄る。
だが、その顔は「魔力への警戒」ではなく、アキの肌に触れている新入りへの「猛烈な嫉妬」に染まっていた。
「そんな危険な子じゃないですよ。あ、ポム、団長の手は……」
『嫌! ポム、ここが気に入ったの! この人間(アキ)、お花の匂いがして落ち着く!』
ポムはさらにアキの服の奥深くへと潜り込み、ついには鎖骨のあたりから顔だけをひょこっと出した。
アキとポムが寄り添う姿は、端から見ればこの上なく微笑ましい光景だが、ゼクスにとっては地獄の絵図だった。
「……アキ、脱げ」
「はい!? 何を言ってるんですか、団長!」
「服の中に異物を入れたままでは公務に支障が出る。私が……私が直接、その個体を引き剥がして検品してやる……!」
ゼクスが震える指先でアキのシャツのボタンに手をかける。
アキは顔を真っ赤にして後退りするが、壁際まで追い詰められた。
「や、めてください! 自分で出しますから!」
「黙れ、これは団長命令だ。……あと、そいつに『私の腕の方が筋肉質で寝心地がいいぞ』と伝えておけ」
「伝えたところで絶対来ませんよ!」
そこへ、騒ぎを聞きつけた聖女リナが、これ幸いとばかりにスマホ(という名の、この世界の記録水晶)を構えて現れた。
「キャーーー! 団長、昼間からアキを脱がそうとするなんて、積極的すぎ! 『新入りペットに嫉妬する独占欲攻め』、いただきましたー!」
「リナ、助けて! この人、リス相手に本気で怒ってるんだ!」
混乱するアキ、執念で服の中を覗こうとするゼクス、そしてアキの服の中で勝ち誇る聖獣ポム。
アキの異世界生活は、恋愛の「れ」の字も自覚しないまま、周囲の熱気だけが異様な速度で上昇していくのだった。
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