11 / 24
11話
しおりを挟む
「よしよし禁止令」が解けてから、ゼクスの甘え方はどこか必死さを帯びていた。
そんな折、城の魔導院で調査を続けていた聖女リナが、顔色を変えてアキのもとへ駆け込んできた。
「アキ、大変……! 私の聖女としての魔力が安定したせいで、元の世界への『門』が一時的に開こうとしてるの!」
その言葉に、アキの心臓が大きく跳ねた。
「帰れる……のか? 日本に?」
「うん。でも、次元の穴が維持できるのは、三日後の日食の間の数分だけ。それを逃したら、次はいつになるか分からないわ……」
アキの脳裏に、日本のコンビニの明かりや、働いていたペットショップの仲間たちの顔が浮かぶ。
だが、同時に、隣でピクリと肩を震わせた男の存在が、それ以上に重く心にのしかかった。
ゼクスは、リナの話を黙って聞いていた。
その顔は、出会った頃の「氷の貴公子」よりもさらに冷たく、無機質な仮面のようだった。
「……そうか。帰れるのか」
ゼクスの声は、ひどく平坦だった。
アキが何か言おうと彼を振り返った瞬間、ゼクスは無言でアキの手首を掴み、自分の部屋へと引きずっていった。
「だ、団長!? 痛いです、離してください!」
「…………」
部屋に入った途端、ゼクスは背後で扉に鍵をかけ、アキを壁に押し付けた。
逃げ場のない「壁ドン」。だが、そこにあるのはいつものコミカルな独占欲ではなく、どろりとした漆黒の絶望だった。
「帰すわけがないだろう。……貴様は私の婚約者だ。この国の、いや、私の『番』になると全国民の前で誓ったはずだ」
「それは団長が勝手に言ったことで……! それに、俺には向こうの世界にだって生活が……」
「捨てろ。そんなものはすべて」
ゼクスの手が、アキの手首に嵌った「誓約のバングル」に触れる。
彼が魔力を流し込むと、バングルから鎖のような光が伸び、アキの腕をベッドの柱へと繋ぎ止めた。
「団長……? これ、外して……。怖いですよ」
「怖い? ……私の方が怖い。貴様が消えて、またあの『誰も懐かない、誰も愛してくれない世界』に一人で取り残されるのが……死ぬほど恐ろしい」
ゼクスがアキの肩に顔を埋める。
震える彼の吐息が首筋に当たり、アキは彼が本気で泣きそうなのを悟った。
最強の騎士団長が、たった一人の「無能力な人間」を失うことに、これほどまでに怯えている。
『……おい。黒髪。やりすぎだぞ』
ルルがベッドの上で毛を逆立てて威嚇するが、ゼクスはそれを無視して、アキの耳元で呪文のように囁き続けた。
「三日間だ。日食が終わるまで、貴様をここから一歩も出さない。食事も、睡眠も、すべて私が管理する。……貴様を日本になど、一欠片も持っていかせはしない」
アキは、繋がれた手首を見つめた。
本来なら拒絶すべき行為なのに、彼にここまで「必要とされている」事実に、どこか逃れがたい悦びを感じてしまっている自分に気づく。
その頃、扉の外ではリナが「あわわわ、シリアス展開!? 監禁エンド!? それも美味しいけど、アキの幸せを考えると……あああ、脳内会議がまとまらない!」と、悶絶しながら床を転げ回っていた。
日食まで、あと三日。
アキとゼクスの、命がけの「おこもり生活」が始まろうとしていた。
そんな折、城の魔導院で調査を続けていた聖女リナが、顔色を変えてアキのもとへ駆け込んできた。
「アキ、大変……! 私の聖女としての魔力が安定したせいで、元の世界への『門』が一時的に開こうとしてるの!」
その言葉に、アキの心臓が大きく跳ねた。
「帰れる……のか? 日本に?」
「うん。でも、次元の穴が維持できるのは、三日後の日食の間の数分だけ。それを逃したら、次はいつになるか分からないわ……」
アキの脳裏に、日本のコンビニの明かりや、働いていたペットショップの仲間たちの顔が浮かぶ。
だが、同時に、隣でピクリと肩を震わせた男の存在が、それ以上に重く心にのしかかった。
ゼクスは、リナの話を黙って聞いていた。
その顔は、出会った頃の「氷の貴公子」よりもさらに冷たく、無機質な仮面のようだった。
「……そうか。帰れるのか」
ゼクスの声は、ひどく平坦だった。
アキが何か言おうと彼を振り返った瞬間、ゼクスは無言でアキの手首を掴み、自分の部屋へと引きずっていった。
「だ、団長!? 痛いです、離してください!」
「…………」
部屋に入った途端、ゼクスは背後で扉に鍵をかけ、アキを壁に押し付けた。
逃げ場のない「壁ドン」。だが、そこにあるのはいつものコミカルな独占欲ではなく、どろりとした漆黒の絶望だった。
「帰すわけがないだろう。……貴様は私の婚約者だ。この国の、いや、私の『番』になると全国民の前で誓ったはずだ」
「それは団長が勝手に言ったことで……! それに、俺には向こうの世界にだって生活が……」
「捨てろ。そんなものはすべて」
ゼクスの手が、アキの手首に嵌った「誓約のバングル」に触れる。
彼が魔力を流し込むと、バングルから鎖のような光が伸び、アキの腕をベッドの柱へと繋ぎ止めた。
「団長……? これ、外して……。怖いですよ」
「怖い? ……私の方が怖い。貴様が消えて、またあの『誰も懐かない、誰も愛してくれない世界』に一人で取り残されるのが……死ぬほど恐ろしい」
ゼクスがアキの肩に顔を埋める。
震える彼の吐息が首筋に当たり、アキは彼が本気で泣きそうなのを悟った。
最強の騎士団長が、たった一人の「無能力な人間」を失うことに、これほどまでに怯えている。
『……おい。黒髪。やりすぎだぞ』
ルルがベッドの上で毛を逆立てて威嚇するが、ゼクスはそれを無視して、アキの耳元で呪文のように囁き続けた。
「三日間だ。日食が終わるまで、貴様をここから一歩も出さない。食事も、睡眠も、すべて私が管理する。……貴様を日本になど、一欠片も持っていかせはしない」
アキは、繋がれた手首を見つめた。
本来なら拒絶すべき行為なのに、彼にここまで「必要とされている」事実に、どこか逃れがたい悦びを感じてしまっている自分に気づく。
その頃、扉の外ではリナが「あわわわ、シリアス展開!? 監禁エンド!? それも美味しいけど、アキの幸せを考えると……あああ、脳内会議がまとまらない!」と、悶絶しながら床を転げ回っていた。
日食まで、あと三日。
アキとゼクスの、命がけの「おこもり生活」が始まろうとしていた。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
【完結】精霊に選ばれなかった私は…
まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。
しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。
選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。
選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。
貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…?
☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる